2014年8月26日火曜日

弁護士が自由競争をするとどうなる?

弁護士も人数を大幅に増やして自由競争すべきという話しをする人が多いので、アメリカを参考にしながら、弁護士が自由競争するとどんなことが起こるのかをまとめてみることにした。


自由競争となれば、黙って待っているだけでは、仕事は来ない。営業をすることは必須の条件となる。これに伴って、個々の弁護士の営業にかけるお金と時間が増えることになる。

営業するということは、今までえらそうだった弁護士が他の人に頭を下げて仕事をもらうことだから弁護士の腰が低くなり、良い傾向だと思うかもしれないが、そうとも言い切れない面がある。なぜなら、アメリカの弁護士を見ていて思うのだが、営業を重視するあまり、金になる良いお客さんにだけ大切に扱い、金にならないような仕事を持ってくる個人や小規模の企業に対しては、相手に嫌な思いをさせないようにしながら上手に断ってしまうことになるのではと思う。ビジネスになるクライアントと仕事を選別するのである。

余談であるが、一度でよいから有名企業の法務部長になって、米国法律事務所の新規開拓と称して複数の大手事務所を訪問してみたいと思う。きっと、昼、夜とも最高のレストランで食事をご馳走してもらえるだろう。

話は戻るが、営業にお金と時間をかけるということは、その時間とお金をどこかからか回収せざるを得ない。それが、クライアントや事件を選別するという作業につながっているように思える。


自由競争の弊害はまだまだある。弁護士は後輩弁護士を指導しなくなり、後輩弁護士に仕事をさせても、業務の全体が分からないようにとか、クライアントと直接接触しないような形で仕事だけさせる傾向に陥りがちである。アソシエイト弁護士を使ってみて使い勝手が悪ければ、他のアソシエイト弁護士を使えばよい。弁護士はたくさんいるのである。
そこで、弁護士が十分な経験を積んだり、先輩弁護士から指導を受けたりするのが難しくなり、弁護士は増えても、経験があって使える弁護士の数が増えない。


また、弁護士の様な、依頼する弁護士によって仕事の質に雲泥の差がでるような職種だと、自由競争だからといってディスカウント合戦に陥った弁護士は負け犬になる可能性が高い。つまり、弁護士報酬を下げると、薄利多売に陥り、アソシエイト弁護士やスタッフに安い給料で大量の仕事をさせることになり、優秀な弁護士やスタッフが集まり難いだけでなく、一つ一つの仕事にかける時間が減り、仕事が粗くなる。すると、仕事の質が下がり、クライアントからは、質が悪くても安くやりたい仕事しか依頼されなくなる。悪循環に陥るのである。
反対に、大企業の重要な案件は、優秀な弁護士を雇うだけの資金力がある大手事務所や外資系事務所に集中し、経験やノウハウが大手事務所に集約し、弁護士が二極化する。
金があるものは優秀で特殊な分野の経験もある弁護士を依頼することができ、金のないものはディスカウント合戦で疲弊しきった弁護士にしか依頼することができなくなる。

弁護士が二極化すると、裁判官も、弁護士が所属する法律事務所の知名度によって弁護士の質に予断を持つようになる可能性が高くなる。すると、小さな事務所の弁護士に依頼する危険がさらに増す。


弁護士という特殊な職業に自由競争をさせると、最終的には高い弁護士を雇うことの可能な社会的な強者と、ディスカウント合戦で疲弊しきった弁護士しか雇えない社会的な弱者という構造がはっきりしてくるであろう。
アメリカは、賠償額が高く、陪審員が大企業より個人を勝たせる傾向にあるので、成功報酬を求めて、弱者の事件をほぼ無償で積極的に引き受ける弁護士が数多くいる。

しかし、日本では、その制度がない。


現在は過渡期であり、自由競争の弊害がそこまで顕在していないが、あと、20年もすれば、弊害は明らかになるであろう。



2014年8月5日火曜日

法科大学院は国内弁護士養成機関

国際的な弁護士になりたいと言って法曹を目指している人は多い。国際的な弁護士またはアメリカの弁護士に関する情報を集めようとして、このブログを訪れている人も多いようだ。

そのような人に是非知ってもらいたいのは、日本の法科大学院はあくまでも純粋な国内弁護士を育成する機関であるということだ。
もし、本当に国際的な弁護士になりたいと思うのであれば、大学在学中に予備試験に合格して、すぐに日本の法曹資格をとり、20歳代前半から英語と外国法の勉強を始めるべきだろう。

アメリカ、イギリス、シンガポール、オーストラリア、インド、カナダなどの英語を公用語又は事実上の公用語としている国に関して、英語が必須なのはもちろん、それ以外の国でも英語は重要な道具である。つまり、英語を問題なく使いこなせなければ、国際的な仕事をする弁護士にはなれないのである。


日本の弁護士でアメリカに1年間留学した後に1年間アメリカの事務所で研修した弁護士は数多くいるが、聞いていてかわいそうになるほど英語での口頭のコミュニケーションが出来ない人がかなりいる。彼らの多くは1度でニューヨーク州の司法試験に合格していてもである。彼らを見ていると、国際的な仕事をしたい人は、国内弁護士の資格はなるべく早く取得して、英語を含むその他の勉強を早急に始める必要があると感じる。法科大学院に、時間と金を費やしている余裕はないのである。


何度も言うようだが、法科大学院は、あくまでも国内弁護士を養成するものであり、国際的な弁護士を養成するものではない。もし、若いときに英語圏に住んだことがなく、本当に国際的な弁護士になりたいのであれば、法科大学院に行くために、若さと金を浪費することはお勧めできない。


特に奨学金という名の借金は将来の選択肢を非常に狭めることになる。
かなり険しい道ではあるが、自費留学の末に国際的な弁護士として活躍している人もいる。しかし、法科大学院に金を浪費してしまったら、無給の修習を経た後に、自費留学するなんて余程金に余裕がある両親を持たない限り不可能だろう。