2014年10月21日火曜日

専門分野は未経験の裏返し?!

アメリカの弁護士は、「私の専門は〇〇です。」と言うことが多い。しかし、専門の意味はなんのだろうか。よく考えてみると、「私は〇〇という分野については日頃プラクティスしていますが、それ以外の分野についてはやったことがないので、どう扱えばよいのか分かりません」というのが真の意味だと思う。


アメリカでは、3年のロースクールを卒業して合格率80パーセント程度の司法試験に合格すれば、誰でも法曹資格が取得できる。


司法試験の難易度であるが、はっきり言うと、普通に勉強したのであれば、落ちるほうが問題だというレベルである。だから、勉強は一時的な詰め込みが十分可能であり、2、3年経った弁護士のほとんどは司法試験で勉強したことはもうすっかり忘れ、今プラクティスしている専門分野についてしか覚えていないと言っている。


アメリカにはもちろん司法試験合格後に司法修習のような制度はない。司法試験に合格しただけでは、何ら実務に必要な知識がないので、何をどうやって扱えばよいのか全く分からない。そこで、就職した法律事務所でどのような実務を行うことになるかが、その弁護士のその後の専門分野を決めてしまう。


例えば、ある事務所でM&Aなどをやる部門にいた弁護士が、M&Aは景気に左右されるので、景気が悪いときに強い専門分野も合わせて持ちたいから転職しようと転職できる事務所を探すとしよう。就職先を探しても見つからないはずだ。求人広告は「〇〇という分野について〇年以上の経験のあるアソシエイトレベルの弁護士」となる。経験を問われないのは、新人として最初に法律事務所に入った時だけある。それ以降の転職はすべて経験者の募集だけである。経験がなければ、ある程度の規模の事務所に転職することは不可能なのである。すると、最初に経験した実務の内容でしか、転職先を見つけられなくなり、その分野についてばかり実務経験を積むことになる。ある程度の規模の事務所が既にある分野について専門を持っている弁護士に違う分野をやらせたりはしない。


このようにして、「私の専門は〇〇です(〇〇以外の分野についてはやったことがないので、どう扱えばよいのか分かりません)」という弁護士が誕生するのである。




2014年10月14日火曜日

儲けているのはピラミッドの頂点の極一部だけ

「アメリカの弁護士はみんな凄く設けているんでしょう」と思い込んでいる人は多いが、大間違いである。儲けているのはピラミッドの上のほうの極一部の弁護士だけである。日本の企業がアメリカの弁護士と接するときは大手事務所の弁護士としか接しないので、その他大勢の弁護士資格を持っていても弁護士の職についていない者や、ぎりぎりの生活をしている弁護士と接する機会がないだけである。


ロースクール卒業後大手事務所に就職できるのは全体の約10パーセントを切るのではないかといわれているが、そのうち、パートナーとして残って儲かる弁護士になれるのは、さらにもっと少ない。一旦パートナーになったとしても何らかの事情でクライアントが減ったり、大きな事件が終わったりして仕事が減り、大手事務所から追い出される弁護士も数多い。その場合、小さい事務所に移籍してもクライアントが誰一人付いてきてくれないこともある。大手事務所に依頼しているクライアントは、事務所が大手であることを重視していることが多く、小さい事務所に移籍した弁護士に仕事を依頼したがらないのである。


大手事務所に勤めていたのに消息が分からなくなった弁護士は数多くいる。




アメリカ人の知人がこんなことを言っていた。ギャングのメンバーになればお金が儲かると思ってギャングのメンバーになる若者はいるが、結局金が儲かっているのはギャングのピラミッドの上層部だけで、下っ端は他の下っ端との小競り合いで、上層部にたどり着く前に殺されるか刑務所に行くかでほとんどが儲かるところまで到達しないということが書いてある本を読んだ。ギャングのメンバーになるまでそんなことは分からないので、若者は儲かる商売だと信じてメンバーになってしまうというわけだ。


これは、アメリカの弁護士にも共通しているのではないか。弁護士は儲かるのではというイメージを持っている人は案外いるようだが、本当は極々わずかの弁護士がリタイアする年齢まで弁護士として儲け続けられるに過ぎず、ほとんどの弁護士はそうではない。それを知らずに、弁護士になれば儲かるから、多少ロースクールの学費を借金してもやっていけるんだと信じて、この世界に飛び込む若者は結構いる。
しかし、実際には、大手事務所に入るのは至難の技であるし、入ったとしても他の弁護士と熾烈なクライアント獲得合戦を繰り広げなければならず、上層部として、つまりパートーナーにたどり着き、そのままパートナーを続けていけるのは極々一部だというのを弁護士になった後に思い知ることになる。さらに、弁護士としての職を見つけられなくなって脱落する者がかなりいるという現実を目の当たりにすることになる。



2014年10月6日月曜日

弁護士のステイタス

アメリカの弁護士は自分が所属する法律事務所が規模が大きいということ、自分が事務所のパートナーであるということを強調する。名刺にある事務所の名前の字のフォントは自分の名前の字のフォントより大きいことがしばしばである。また、事務所の名刺にしっかりと「パートナー」という言葉が入っている。


日本を振り返ってみるが、少なくとも20年近く前の弁護士の典型的な名刺は、弁護士 〇〇〇〇と名前が大きく書いてあって、その横に小さく事務所の名前と住所電話番号などが入っていた。当時の日本で一番大きな事務所の弁護士は50人に届くか届かないかという程度で、所属する事務所に何人の弁護士が働いているかなど話題にする人はなかった。もちろんパートナーなどという肩書きをつけた弁護士の名刺など見たことはなかった。弁護士という肩書きだけで十分能力の証明になったし、人からの信頼も得られたからなのであろう。


大量の弁護士がいるアメリカでは、弁護士というだけでは、能力の保証はないし、信用を得られない。そこで、大きな事務所に所属しているということがステイタスとなり、パートナーという肩書きがあることで、人からの信用が得られるようだ。そこで、皆パートナーという肩書きを欲しがる。パートナーの名刺にはパートナーという肩書きが大きく記載してある。


日本も弁護士の人数が増え、弁護士というだけでは能力の保証もないし、信用も得られないという時代に突入しつつある。これからは、日本でも法律事務所名がブランド化し、そのブランド化した事務所に所属する弁護士は事務所の名前を大きく名刺に記載し、さらには大手事務所のパートナー弁護士は分かりやすく名刺にパートナーと記載するのが主流になる時代が来るのかもしれない。名刺を渡すときに、「〇〇事務所という弁護士が〇〇〇人もいる事務所のパートナー弁護士です」と説明を加えるようになるのかもしれない。