2014年11月12日水曜日

ある意味、みんな未経験弁護士


弁護士の経験とはなんだろうか。
アメリカの弁護士を見ていると、アメリカの弁護士は未経験分野が広すぎると思う。ある意味、アメリカの弁護士は、特定の限られた領域を除き、みんな未経験弁護士なのである。

大手事務所に就職した場合、専門に分かれてしまい、その専門分野以外について仕事をすることはほとんどない。小さめの事務所なら多くの分野をプラクティスすることが可能なのではないかと思うかもしれない。しかし、小さめの事務所はある特定の分野に特化したブティック事務所か、個人向けの事件を扱う事務所しかないので、やはり経験できる分野は限られてしまう。

弁護士の営業という観点からは、あまり分野を絞りすぎない方がよいのは明らかである。しかし、アメリカの弁護士は特定分野以外の他のプラクティス分野については十分なOJTを受けられなかった、つまり未経験なので仕事ができないのである。ある意味、未経験弁護士なのである。これは弁護士の数が増えれば増えるほど起こりやすい傾向だと思う。

日本の司法改革を見てみよう。弁護士を増やせということで始まった司法改革であるが、皆の頭からすっかり抜け落ちてしまっているのは、弁護士を増やしても経験弁護士(使える弁護士)が増えることとイコールではないということだ。特に、OJTを受けることが難しい分野については、経験弁護士の数が限られる。さらに、弁護士の経験不足が叫ばれるようになればなるほど、ある特定の事件について経験があるかどうかが弁護士選びの重要なポイントになる。企業の事務所選びでは、それが重要なポイントとなる。すると、その分野で経験が豊富な弁護士に仕事が集中する。集中により、その分野について経験のある弁護士の総数は減る可能性すらある。

弁護士の数が増え始めてから、大手企業の大手事務所を選択する傾向が加速し、大手企業で問題となるような事件を経験する弁護士は大手事務所に集中するようになっている。ある特定の分野については、弁護士が増えたことによって経験弁護士が所属する事務所の数が増えていないどころか、もしかすると減っているかもしれない。
これは、新人弁護士の話だけではない。40代50代の弁護士にもあてはまるのである。例えば、いくら、国際関係が分かる弁護士や、知財が分かる弁護士が必要だと主張して弁護士を増やそうとしても、実際にそのような分野の経験弁護士が増えるわけではないので、経験のある弁護士は少ないままなのである。何度も言うようであるが、ある特定の分野で弁護士が必要だからと言って弁護士を増やしてみても、その分野の経験弁護士は増えず、既に存在する経験弁護士のところに仕事が集中するだけである。また、弁護士が増えたことで競争激化を恐れ、経験弁護士が未経験弁護士を育成するという今まで当たり前に行われてきたことが行われ難くなり、ますます経験弁護士が不足する。経験を積めるのは、その経験弁護士のもとで手足として働いた弁護士だけである。離婚や相続、貸し金返還請求などについては、数も多いし、不慣れな個人が未経験弁護士に間違って依頼してしまいがちなので、どんな弁護士でも経験を積みやすいが、大手企業で問題になるような分野については、大手企業が間違って経験不足の弁護士に依頼してしまったというようなことは起こらないのである。そこで、経験弁護士はたくさんいても、企業が必要とするような案件を経験している弁護士の数は減る一方、つまり未経験弁護士ばかりが増えてしまうだろう。