2013年2月27日水曜日

弁護士の移籍 (時には騙し合い?) ― その2


つづき

経験年数が長い弁護士がクライアントを持って他の事務所と移籍交渉をする場合、表向きには言えない裏事情があることも多い。

移籍を考えている弁護士は、現在所属している事務所に何らかの不満がある、あるいは現在所属している事務所より移籍先の事務所の方がよいと考えているから移籍するわけである。場合によっては現在所属している事務所からクライアントが少ないから辞めてくれと肩たたきされていることもあり、必死になって移籍先を探している場合もある。

移籍を受け入れようとしている事務所としても、公表できないお家事情があったりする。移籍をしてくる弁護士が自分で処理しきれないほどの事件とともに移籍してくれば、事務所内の仕事のない弁護士を食わせることもできるとか、現在売り上げが良くないが、クライアントを多く持っている弁護士が移籍してくれば、事務所を縮小しないで済む等々、裏の思惑があることも多い。パートナーの求人を出している事務所は、事務所としての売り上げが少なく、救世主になるパートナーを探しているということが多いので実は要注意である。

両者それぞれの裏事情があったとしても、裏事情を隠してお互いに良いことしか言わないのが、アメリカ弁護士移籍交渉の基本のようだ。そこで、言葉は悪いが、移籍する弁護士と受け入れ事務所との騙し合い、裏事情の探り合いとなる。

例えば、事務所側は「うちの事務所の売り上げはこんなに良くて、こんなに優良なクライアントがいるんです。ですから、あなたもうちの事務所に来れば、これだけ利益の配当が得られますよ。通常のパートナーではなくて、エクイティー・パートナーにしてあげますよ。」と吹聴し、弁護士側は「私の過去のクライアント売り上げ実績は年間少なくとも2億円になります」とほらを吹く。事務所側は弁護士に対して過去三年の売り上げをクライアント別に紙に記載して提出するように言うと、移籍をしようとする弁護士は、他の事務所とも移籍の話を進めているから、あまりうるさいことを言うなら他の事務所に移籍をしようかと言ってみる。

実際事務所に入ってみてから、お互い騙しあっていたことが判明することもある。弁護士側が騙していた場合には、弁護士の解雇という結果で終わるが、主に事務所側が騙していた場合は、訴訟になることもある。移籍した弁護士が移籍先を辞めて他の事務所に移籍し、訴訟を提起するという話は珍しくない。法曹関係のブログをにぎわせるゴシップとなる。
 
日本でも同じような騙し合いが起こる日も遠くないのだろうか。

2013年2月18日月曜日

弁護士の移籍 (時には騙し合い?) ― その1


ある程度大きな法律事務所が求めている弁護士のタイプというのは大雑把に分けると3つくらいあるだろう。

まずは、優秀なロースクールの新卒である。これに関しては、以前「アメリカのロースクールに関する情報の偏り」でも紹介したので簡単にだけ説明すると、トップ10パーセントのロースクールの優秀な学生か、トップ10パーセント外のロースクールであれば成績がかなり優秀な学生をサマーアソシエイトとして採用し、問題がなければアソシエイトとして正式採用するというものである。リーマンショックの直後にはサマーアソシエイトの数が激減したが、最近少し持ち直しているようである。大手事務所では大手事務所として存続し続けるためには毎年少しずつでも優秀な新卒弁護士を採用する必要がある。

2つ目は、2年から5年の経験のあるアソシエイトの雇用である。つまり、既に経験があるので1からトレーニングをしなくても直ぐ使えることが前提となっている。この場合、事務所に仕事があることが前提となる。何故、2年から5年の経験かというと、それ以上の経験年数を積んだ弁護士はアワリーレートが高くなるので、使いづらいのである。アソシエイトのロースクールでの成績を気にするところも多く、履歴書の他に成績証明書を出せとか、ライティング・サンプルを出せと要求する事務所が多い。リーマンショックの直後にはこのタイプの雇用が極端に減ったが、最近若干持ち直している。リクルーターはアソシエイトを移籍させてビジネスをしているので、あちこちのアソシエイトに「ニューヨークの大手事務所で○○というアソシエイトを募集しています」という感じの迷惑メールを大量に送っている。リーマンショック前だとリクルーターからの電話の件数はものすごかった。

3つ目は、クライアントを持っている弁護士をクライアントと共に移籍させることである。これに関しては、移籍する弁護士側も移籍を受け入れる事務所側もお互い騙し合いをしていることが多い。

つづく。。。

2013年2月10日日曜日

軒先も借りていないアメリカのノキ弁?-その2



つづき

過去に重要な国の官庁の重要ポジションに就いていた弁護士などはカウンセルという名前がついていても、ノキ弁ではなく、事務所の宣伝広告塔として雇われている可能性がある。弁護士は、事務所にウエブサイトに名前を連ねることを許し、事務所主催のセミナーの講師をやったり、営業のためのイベントに顔を出すことを条件に給料をもらっている場合もある。例えば、事務所で開催するセミナーの講師として各地、場合によっては各国の出張につれまわされている人も何人か知っている。弁護士と事務所との契約は自由であり、色々な働き方があるのである。

ノキ弁の話に戻るが、司法修習のないアメリカでは、未経験ノキ弁や経験5年以内のアソシエイトレベルの軒弁というのは個人的には聞いたことがない。アメリカでノキ弁になるのは、リストラされた経験弁護士、家族のために家で仕事をしたい弁護士、半分リタイアしている高齢の弁護士等である。

このような働き方を許しているのは一般に中小法律事務所である。事務所としては、経費を最低限に保ったまま対外的には弁護士の数が多いように装うことができ、大きな仕事もできるとクライアントに宣伝できる。実際に仕事が増えたときは、ノキ弁の助けを借りて仕事をこなすこともできるのである。ノキ弁としても利益がある。個人事務所の信用が低いアメリカでは、ある程度の規模がある事務所の一員という形で営業しない限りクライアントをみつけるのは大変だからである。

弁護士が急増している日本でも事務所経費節減を考えてみてはどうか。ウエブサイトでは多数の弁護士が所属しているけれども(大手事務所であるとの信用ができる)、オフィスは会議室と最低限の事務員の執務室、クライアントとの打ち合わせのために事務所に来る弁護士の仮の執務スペースがあるだけである。あとは、オンラインで自宅から仕事をすればいいのである。

画面の大きなスクリーンを二つ重ねれば、ファイルなしでも家から仕事をすることは全く苦にならない。外からサーバーにアクセスできれば、ラップトップを持ち歩けば何処からでも仕事ができる。あとは、クライアント同士のコンフリクトの問題さえクリアすればよい。


 


2013年2月2日土曜日

軒先も借りていないアメリカのノキ弁?-その1


アメリカでは、インターネットの発達に伴って、自宅から働けるシステムが整っている。家からオフィスのサーバーにアクセスでき、メールも携帯で受信でき、会議もGo to meeting 等を使えば、同じパソコンの画面を見ながら電話会議もできる。5時になったらとにかく家に帰って家族と食事をした後、家から働く弁護士も多い。パートナーになれば、金曜日は家で働いている弁護士もかなりいる。

どうせオフィスに行っても、例えば共同で仕事をやっているワシントンDCオフィスとニューヨークオフィスの弁護士が電話会議をしなければならないのは同じだったりする。それなら家から電話会議をしても同じことである。なかにはほとんど家で働いているという弁護士すらいる。

これが度を越えると、どんなことが起こるかというと、例えば法律事務所のウエブサイトを見ると50人くらい弁護士が所属していることになっているが、実際に毎日事務所に来ている弁護士は10人くらいという事務所が存在するのである。クライアントも会議室に通されるだけで事務所の執務室を覗くわけではないので、実際に事務所に来ている弁護士が何人いるのか分からない。クライアントも各地に散らばっているので普段は電話会議で済ませていたりする。クライアントが近くにいれば、弁護士がクライアントのオフィスを訪ねることも多い。

この残り40人のウエブサイトに名前を連ねている弁護士がノキ弁の可能性もある。アメリカにノキ弁という言葉はない。ただ、日本のノキ弁と同じような弁護士がいる。つまり、所属はその事務所になっているが事務所から給料をもらっているわけではなく、仕事がある時だけ報酬を決めて仕事を手伝ったり、クライアントを自分で探して一定額を事務所に入れて残りを自分の報酬にするという働き方をしている弁護士がいるのである。この場合、日本でいうノキ弁と違って軒先すら借りていないこともある。事務所のサーバーシステム、メールシステム、期日管理システムなどのコンピュータ関係システムを使わせてもらい、弁護士過誤保険に入れてもらい、事務所のウエブサイトに名前を載せてもらって、事務所名の入った名刺を持ち、事務所の名前を使って営業することを認めてもらっているのである。事務所に固定席を持っていない。たまに事務所に行くが、その際にはVisiting attorneyのオフィスを使わせてもらうのである。彼らの事務所ウエブサイトでのタイトルはカウンセルとかオブ・カウンセルとなっていることが多い。

つづく。。。