2012年11月15日木曜日

法律事務所の辞め方 ― その2

 

つづき。

パートナー弁護士がクライアントごと事務所を移籍する場合は、事務所内のお家騒動のような状態になることもある。特に、稼ぎが良いパートナーとその下で働くアソシエイトやパラリーガル、秘書などがチームとなってごっそりと移籍する場合は大騒動である。

辞めるパートナーも用意周到に移籍の準備を進めているが、直前になるまで口外しない。事務所内の他の弁護士も全く知らされていない。事務所内の他のパートナーがそれに気付いて、クライアントを持っていかせないように何らかの対策をとるかもしれない。例えば、法律事務所は移籍しようとするパートナーが事務所サーバにアクセスできないようにするとか、移籍しようとするパートナーの事務所メールのアカウントをシャットダウンするなどして、裁判所に係属中の事件の電子データにアクセスできないようにすることだって可能である。そうすれば、クライアントはしばらくの間は旧事務所の他のパートナーに仕事を続けてもらわなければならないので、移籍するパートナーと共に新事務所に移らなくなってしまう可能性もある。

そこで、最悪の場合を考え、現在所属している事務所に事務所を移籍することを話した次の日から移籍先の事務所でそのクライアントの業務を継続できる程度の用意をしておく必要がある。電子データを全てコピーし、新しい事務所でのメールアカウントを作成してもらい、クライアントに事前に内密に話を進め、移籍先の事務所についてきてもらえるとの確認を取る。クライアントが旧事務所に対して「依頼先の事務所を変更しますので、全ての書類を○○事務所の○○弁護士に送ってください」というレターを直ぐに提出できるように、レターの起案をして渡しておくなど準備をする。そのようなやり取りをクライアントとする際には事務所のメールアドレスは一切使わない。個人メールなどを使って、裏で着々と準備をするのである。

事務所を辞めるという話をした際に、事務所がどのような反応を示すかは、事務所の体質や、引き連れていくクライアントの大きさや仕事の量などで違ってくるが、まず考えるのは、クライアントを持っていかれて売り上げが下がってしまわないか、その対策をどうするかである。

移籍するパートナーのビジネス、法律事務所のビジネス、全てビジネスという尺度を基準に事が運ぶのである。