2014年11月30日日曜日

法律事務所合併の危険性

アメリカでは、法律事務所が合併することは日常茶飯事であり、さして珍しいことではない。しかし、水面下では合併によって様々な問題が引き起こされている。

合併には、いくつかの種類がある。同じ程度の規模で同じようなプラクティス部門がある事務所が合併する場合、大きな事務所が小さな事務所を吸収合併するような場合、ある特定分野で定評のある事務所が、その分野のプラクティスが弱い規模の大きな事務所と合併する場合など、様々である。特に問題が生じやすいのは、似たような規模で同じようなプラクティス部門を持つ事務所同士が合併する場合である。

合併によって、まず生じるのはコンフリクトの問題である。一番わかりやすい例で説明すると、A会社がB会社を訴えたという訴訟があった場合、合併元の事務所の弁護士がA会社の訴訟代理人をし、合併先の事務所がB会社の訴訟代理人をしていた場合、合併によって、同じ事務所がA会社とB会社の訴訟代理人をするわけにはいかないので、どちらかの訴訟を代理している弁護士が外にでなければならない。その際に、どちらの弁護士が外に出るのかというのが問題になる。

次に問題になるのは、システムの統合である。まずは、どちらのシステムを使うかという問題が生じ、システム統合が終われば、ダブっているスタッフメンバーが外に追い出される。たとえば、会計部や、ITシステム部、営業部等が2重にあると無駄なコストがかかる。しかし、どちら側の事務所の職員として働いていたスタッフを解雇するのかという問題が出てくる。

次に合併先も合併元も同じ会社をクライアントとして持っていた場合に、そのクライアントを持っているパートナー同士の熾烈なクライアント奪い合いが起こることがある。

さらには、弁護士が大量に事務所を移籍するという問題も起きる。移籍の理由は大きく分けて二つある。たとえ対等合併でも優勢な側の事務所があり、優勢な側の弁護士が、そうでない側の弁護士を追い出す場合が一つである。もう一つは、合併後の経営に不満のある弁護士が、クライアントとともに他の事務所に移籍してしまう場合である。

優勢な側の事務所が合併先の事務所の弁護士を追い出す場合、優良なクライアントを取り上げた後に追い出そうとすることもある。
合併後の経営に不満のある弁護士で優良なクライアントを抱えている弁護士がクライアントとともに移籍する場合、特に他の弁護士とともにグループになって出て行ってしまう場合は、合併後の事務所の経営を危うくする恐れがある。

こうやって2年くらい経つと、合併が成功だったのか不成功だったのか徐々に明らかになる。ただ、合併には大きな危険が付きまとう。積極的に合併を重ねて規模を拡大していた事務所の経営が急に危うくなって、破産に陥るということもある。

依頼している事務所が合併した場合、クライアントは合併の動向について調査を怠るべきではないだろう。要注意である。

2014年11月18日火曜日

またもや大手事務所がなくなるのか

Bingham McCutchen LLP。日本では、ビンガム・マカッチェンとして知られ、東京オフィスが、坂井、三村、相澤法律事務所の外国法共同事業として存在している。

業績悪化がうわさされていたBingham McCutchen LLPのパートナーの4分の3近くの227名が、Morgan Lewis & Bockius LLP に移籍することになり、同事務所は救済されることになったようだ。

http://www.bloomberg.com/news/2014-11-17/morgan-lewis-to-add-227-bingham-partners-business-of-law.html

こうして、Bingham McCutchen LLPのほとんどはMorgan Lewis & Bockius LLP の一部となり、また一つ、歴史のある大手事務所が消えてしまうのだろう。

Morgan Lewisに受け入れが認められたBingham McCutchenの弁護士は、今後どのように扱われるかわからないという不安があるだろう。

それはさておき、興味があるのは、日本のビンガム・マカッチェン事務所がどうなるかということである。TMI総合法律事務所のウエブサイトによると、Morgan Lewis には、TMIとのジョイント・ベンチャー事務所があるようだ。Morgan Lewisのウエブサイトにも下記のように記載されている。
http://www.morganlewis.com/index.cfm/fuseaction/office.detail/nodeID/b000cd77-3f76-486a-89d8-86ce77cf7b6d/officeID/60086826-4948-4840-B871-80AD657DAFCC

上記に記載したとおり、坂井、三村、相澤法律事務所の外国法共同事業という形でビンガム・マカッチェンの東京オフィスがあり、この事務所のパートナーはMorgan Lewisに移籍する227名に含まれているのだろうか。
いずれにせよ東京に二つも事務所はいらないだろうから、どちらかが消える運命にあるのであろう。

日本の法律事務所の運命が日本の事務所と関係ないところで勝手に決められてしまうという時代が来ているのかもしれない。

2014年11月14日金曜日

ロースクールに行く人はギャンブラーが多いのか?

アメリカで古くから皆に親しまれているJeopardyというクイズ番組がある。Jeopardyがどのような番組であるかはあまり関係ないので割愛するが、3人の挑戦者が質問に答えながらチャンピオンの座を狙うというものである。番組では単に質問に答えるだけでなく、一発逆転のチャンスなどもあちこちで用意されている。
たまたま見ていたJeopardyの3人の挑戦者のうちの一人がロースクールの学生だと紹介されていた。彼の戦い方が、あまりにもギャンブラーだった。自分で掛け金を決められて、自分だけが答えられるというチャンスが回ってきた。何度もJeopardyを見ているが、自分が持っている金額以上を掛け金にしていた挑戦者はいなかった。しかし、彼は自分が持っている以上の金額を掛け金にして、さらに間違えてマイナスになった。彼はマイナスになる前に同じようなチャンスが回ってきたときに全額かけて、ゼロになった後、少し回復して掛け金を得たばかりだった。彼のプレーの仕方はなんと言ってもギャンブラーで、結局最後の問題に答えるための掛け金がなく、マイナスで終わってしまった。長い間Jeopardyを見ているがそんな人を見たことはなかった。


やっぱり、学費だけでも1500万円もするロースクールに行く気になるのは、ギャンブラー精神を持った人なのかもしれないなあと感じた。1000万円を超える借金を返せるような職につけない危険性が非常に高いにも関わらず、毎年億単位で稼げる極々僅かな可能性にかけて、ロースクールへの入学を決められるギャンブラー精神が必要なんだろう。



2014年11月12日水曜日

ある意味、みんな未経験弁護士


弁護士の経験とはなんだろうか。
アメリカの弁護士を見ていると、アメリカの弁護士は未経験分野が広すぎると思う。ある意味、アメリカの弁護士は、特定の限られた領域を除き、みんな未経験弁護士なのである。

大手事務所に就職した場合、専門に分かれてしまい、その専門分野以外について仕事をすることはほとんどない。小さめの事務所なら多くの分野をプラクティスすることが可能なのではないかと思うかもしれない。しかし、小さめの事務所はある特定の分野に特化したブティック事務所か、個人向けの事件を扱う事務所しかないので、やはり経験できる分野は限られてしまう。

弁護士の営業という観点からは、あまり分野を絞りすぎない方がよいのは明らかである。しかし、アメリカの弁護士は特定分野以外の他のプラクティス分野については十分なOJTを受けられなかった、つまり未経験なので仕事ができないのである。ある意味、未経験弁護士なのである。これは弁護士の数が増えれば増えるほど起こりやすい傾向だと思う。

日本の司法改革を見てみよう。弁護士を増やせということで始まった司法改革であるが、皆の頭からすっかり抜け落ちてしまっているのは、弁護士を増やしても経験弁護士(使える弁護士)が増えることとイコールではないということだ。特に、OJTを受けることが難しい分野については、経験弁護士の数が限られる。さらに、弁護士の経験不足が叫ばれるようになればなるほど、ある特定の事件について経験があるかどうかが弁護士選びの重要なポイントになる。企業の事務所選びでは、それが重要なポイントとなる。すると、その分野で経験が豊富な弁護士に仕事が集中する。集中により、その分野について経験のある弁護士の総数は減る可能性すらある。

弁護士の数が増え始めてから、大手企業の大手事務所を選択する傾向が加速し、大手企業で問題となるような事件を経験する弁護士は大手事務所に集中するようになっている。ある特定の分野については、弁護士が増えたことによって経験弁護士が所属する事務所の数が増えていないどころか、もしかすると減っているかもしれない。
これは、新人弁護士の話だけではない。40代50代の弁護士にもあてはまるのである。例えば、いくら、国際関係が分かる弁護士や、知財が分かる弁護士が必要だと主張して弁護士を増やそうとしても、実際にそのような分野の経験弁護士が増えるわけではないので、経験のある弁護士は少ないままなのである。何度も言うようであるが、ある特定の分野で弁護士が必要だからと言って弁護士を増やしてみても、その分野の経験弁護士は増えず、既に存在する経験弁護士のところに仕事が集中するだけである。また、弁護士が増えたことで競争激化を恐れ、経験弁護士が未経験弁護士を育成するという今まで当たり前に行われてきたことが行われ難くなり、ますます経験弁護士が不足する。経験を積めるのは、その経験弁護士のもとで手足として働いた弁護士だけである。離婚や相続、貸し金返還請求などについては、数も多いし、不慣れな個人が未経験弁護士に間違って依頼してしまいがちなので、どんな弁護士でも経験を積みやすいが、大手企業で問題になるような分野については、大手企業が間違って経験不足の弁護士に依頼してしまったというようなことは起こらないのである。そこで、経験弁護士はたくさんいても、企業が必要とするような案件を経験している弁護士の数は減る一方、つまり未経験弁護士ばかりが増えてしまうだろう。