2015年10月5日月曜日

インハウス弁護士になる前に、まずは法律事務所で

日本で司法試験に合格して弁護士として就職先を探す人に一言助言したい。

たとえ将来的にはインハウス弁護士になりたいと思っていても、もし就職先が見つかるのであれば、最初からインハウスではなく、一旦は企業法務をやっている法律事務所で働くことをお勧めする。

企業法務をやっている事務所であれば、法律事務所に勤めた後に、インハウスに移ることは比較的容易である反面、インハウスの弁護士として働いた後に法律事務所に就職すると言うのはかなり難しい。しかし、インハウス弁護士になるのであれば、法律事務所で働いた経験は必須である。


一旦インハウスに入ってしまうと、法律事務所の厳しさについていけないことが多い。
その最大の理由として考えられることは、法律事務所の弁護士は、事務所という団体内で金を稼ぐ部門としての位置付けであり、インハウスの弁護士は、会社の中で他に稼ぐ部門があってその部門のサポートという位置付けだからではないかと思う。


法律事務所では、弁護士が稼いだ金で、家賃、人件費、広告宣伝費等すべての経費が支払われる。さらに、法律事務所の弁護士は、通常の会社で言うところの、製品開発、製品改良、製品製造、営業部門すべてを支えている。法律事務所の弁護士は、自分の給料分と事務所の経費、更に利益を出せるだけ金を稼いでこなければ、法律事務所にとって意味がないので外に出されるのである。アメリカでは一般的に給料の3倍の額をクライアントにチャージできるだけの稼ぎが必要と言われている。もし、年間に1500万円の給料をもらうのであれば、クライアントにその3倍である4500万円の請求書を出せるだけの仕事を完成させなければならない。請求書は出せば良いと言うものではない。クライアントが怒って支払わないとか、今後仕事を頼まなくなるような請求書はだせないのである。5時間しかチャージできない仕事に、仕事が遅くて10時間かけてしまったら、オーバーした5時間は、その弁護士が土日などに働いて埋め合わせるしかない。

これに対して、インハウスは、他の営業部門で稼いでくるお金で支えられている経費の部門である。つまり、法律事務所であれば、会計の部門等と同様の位置付けである。法務部本体で稼いできて採算をとったり、利益をだしたりすることを期待されているわけではない。外部の弁護士に依頼していることを制限して、全体として会社の経費を減らすことや、他の営業部門が行っている業務の法的な危険を回避して将来に生じうる経費を減らすこと等を期待されている。

同じ弁護士ではあっても、団体の中での位置付けが全く違うのである。稼いで来いという時間や金額のノルマがあって、金を稼いでこないと解雇される危険のある弁護士と、削減する経費の明確なノルマがあるわけでも、経費削減ができなかったら解雇される危険を背負っているわけでもない弁護士とでは、その働き方が大きく異なる。弁護士の競争が激しくなってからは、金を稼いで来いという法律事務所の厳しさはことさらである。

インハウス弁護士を法律事務所が雇おうと言う場合、そのインハウス弁護士が働いていた会社を事務所のクライアントにしたいという下心がある場合が一般的である。もし、その下心が全くの外れに終わったら、その弁護士は解雇される可能性が高い。


そこで、企業法務をプラクティス分野としている法律事務所からインハウスに移ることはできても、逆はかなり難しい。
しかし、インハウス弁護士として外部の弁護士を上手に使ったり、外部の弁護士を使わずにインハウスの弁護士のみで処理しようと言う場合、法律事務所での勤務経験は非常に重要である。何故弁護士がこのようなことをするのか、そうさせないためにはどのような対策が必要か等ということは、企業を扱うある程度大手の法律事務所で働いたことがなければ分からない。

そこで、もし、企業法務をプラクティス分野としている法律事務所に就職できる機会があるなら、たとえ最終的にはインハウスの弁護士になりたいと思っていても、まずは、3年~5年程度、法律事務所で働くことをお勧めする。
最近の国際化社会に鑑みれば、インハウス弁護士も海外の弁護士や企業と接する機会も増えている。留学してからの方がインハウス弁護士として採用されやすくなる。


ただ、マチ弁からインハウス弁護士として採用されることは難しいので、インハウス弁護士になりたいと考えている人はマチ弁事務所に就職するのはお勧めしない。

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