2012年8月24日金曜日

アメリカの法律事務所に関する情報源の偏り-その2


つづき
 
「法律事務所で『研修』する」という言葉にはトリックがある。日本では、アメリカ事務所で「研修」と言って、まるで修習生が事務所で修習しているかのようなイメージを描いている人がいるかも知れない。しかし、現実は異なる。アメリカの大手法律事務所は「研修」ではなく「営業」と思っている。つまり、研修生を受け入れることが事務所の営業になると判断したので、受け入れている場合がほとんどなのである。例えば、今まで取引関係のない日本の法律事務所がアメリカの事務所に研修生を受け入れて欲しいと依頼した場合、アメリカ事務所内部で何が話し合われているかといえば、「研修生を受け入れることで仕事の依頼が来るか」である。「その弁護士が所属する日本の事務所はどれくらい仕事を持ってくる見込みがあるのか」「研修生は将来日本の事務所のパートナーになれるのか」「日本の事務所が既に使っているアメリカの事務所はあるのか」「もしあるのであれば、その事務所の仕事をこっちの事務所に移すことはできるのか」等である。

このような検討の結果、研修生の受け入れが事務所の営業につながると判断した場合、研修の受け入れが決定される。アソシエイトやスタッフに周知徹底されるのは、「研修生はクライアントのようなものだから、事務所のまずい部分は絶対に見せてはいけない。」である。つまり事務所として研修をさせるつもりは全くないのだ。すなわち、研修先のパートナーは研修生が所属している事務所から依頼されている仕事以外の仕事に関わってもらおうという気持ちがない。どうやったら、研修生が将来自分のところに事件を運んできてくれるようになるのか、そのためには何をすればよいのかを考えている。

最近、日本の法律事務所から研修生を受け入れることに消極的な事務所が多い。アメリカ事務所の選択権限を持つのは企業であって法律事務所でなくなってきていると分かっているようである。昨今、日本企業からアメリカに留学する人も多く、彼らを研修生として受け入れる方が法律事務所の留学生を受け入れるより営業につながるという発想のようである。将来出世して部長になるかもしれないと、研修生を接待しまくるパートナーもいる。郊外の高級住宅で行われるホームパーティーに招待したり、お昼ご飯をご馳走したりと大切にする。
このような研修経験者たちがアメリカの法律事務所に関する情報の情報源だとしたら、日本に入ってくる情報は非常に偏ってしまうに違いない。

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