2014年6月5日木曜日

金になるクライアントと金にならないクライアント ― 法律事務所はクライアントを天秤にかけている

このブログでも何ども書いているが、アメリカの法律事務所は営利を目的としている。つまり、リーガルサービスを提供することで報酬を得て、事務所として利益を最大限にすることが存在目的なのである。その点は、他の大企業と同じなのである。

そこで、法律事務所として利益を最大限にするための戦略が立てられる。法律事務所の利益とクライアントの利益が相反する場合、法律や弁護士倫理に反したり、法律事務所の評判を損なったりしない限り、法律事務所の利益が優先される。その最適な例が、誰をクライアントにするかである。事務所が大きくなれば必然的にコンフリクトが問題になる。簡単なコンフリクトの例をあげると、L法律事務所がA社というクライアントを代理してA社がB社に対して訴訟を起こした。その後、C社がL法律事務所の他の弁護士にA社に対して訴訟を起こしたいからL法律事務所を使いたいと言ってきた場合、L法律事務所はA社をクライアントとして抱えたまま、A社に対して訴訟を提起する代理をするわけにいかない。つまり、どちらかを選択しなければならない。

C社がA社に対して起こそうとしている訴訟がとても大きな訴訟で、年間の売り上げ予想が3億円だったとしよう。それに対して、A社がL法律事務所に支払っている年間の弁護士報酬が1000万円だったとしよう。A社のケースとC社のケースを天秤にかけた場合、どちらが重いかは明白である。A社を事務所から追い出してC社のケースを受任できる方法があれば、利益を最大限にしようと考えている営利団体である法律事務所は、C社のケースを受任できる方法を選択するだろう。そのためには、A社をクライアントとしているパートナーを追い出すことすらある。

一般のビジネスに置き換えてみれば当然のことである。つまり、年間1万個しか製造する能力がない会社が、E社というディスカウント値段で支払いが納入後90日という条件で1万個購入してくれる会社と取引をしている時に、F社という20パーセント高い値段で支払いが納入後30日という条件で1万個購入してくれる会社から購入の申し込みを受けた場合、E社との取引をやめてF社と取引するのが利益を最大限にするビジネス的判断であろう。

法律事務所も自由競争をさせれば、通常のビジネスと全く同じようにビジネス判断をするのである。

法律事務所も規模が小さいうちは、事務所の規模を拡大して社会的な知名度を高めるために小さい会社の事件を引き受けたり、有名な会社の事件をただ同然で引き受けたりする。

しかし、規模が大きくなり、ある程度クライアントを選択できる立場になると戦略的にだれのどのような事件を引き受けることが事務所の利益拡大につながるのか戦略を立てるようになる。つまり、儲からない仕事を持ってくるクライアントの事件を引き受けないのである。

このように法律事務所はクライアントとその事件をいつも天秤にかけて測っているのである。このようにして、お金のある企業とお金のない企業で受けられるリーガルサービスに違いがでてくる。

日本で司法改革によって法律事務所も自由競争を叫んでいる人たちは、これが真の意味の自由競争であることを分かっているのだろうか。