2015年4月19日日曜日

競争激化はクライアントにとって何を意味するのか?

アメリカの弁護士を見ていると、弁護士業務という観点からは無駄が多い。つまり、弁護士は通常の弁護士業務に必要なこと以外に多くの時間とお金と神経を費やしているのである。

特に、弁護士の競争激化が原因ではないかと思う。
たとえば、20年前の日本の弁護士であれば、営業に費やされる時間とお金は、年賀状、暑中見舞い、適当にネットワーク会合に出席する程度ではなかったか。日本の弁護士であっても、今は、事務所のホームページや、パンフレットの作成、営業活動に割かれる時間やお金は圧倒的に増えていると思う。

アメリカの事務所が営業に割いている時間とお金は日本の事務所では考えられないほどである。

日本であれば、大手事務所と言われている事務所は5つしかない。コンフリクトの問題があるので、5つよりも少ない事務所がすべての日本の大企業の仕事を独占することは無理である。そこで、営業活動をしなくても大手事務所というだけで仕事が来ると言うことはあるだろう。

しかし、アメリカでは規模が100位の事務所でも、500人以上の弁護士が所属している。つまり、大手事務所だけでも、100以上を余裕で超える数あるわけである。競争は考えられないほど熾烈で厳しい。

そこで、営業活動に手を抜くことはできない。営業のためだけの部署にビジネススクールを卒業した人が働いている。既存のクライアントや、クライアントになりそうな会社の関係者に高級レストランで食事をごちそうすることは日常茶飯事である。事務所のウエブサイトを専門家に作成してもらい、パンフレット、販促品(事務所のロゴが入った備品等)を作ったり、外部の業者がやっている事務所ランキングで上位になるための色々な対策をとる等、金と時間がかかる様々な営業活動をしており、クライアントが支払っている弁護士費用がこのような営業活動を支えている。アソシエイト弁護士ですらは、普段の業務の他に、このような営業活動についても年間何時間か働くことを要求される。

弁護士の数が多くなると、必然的に儲かっていない弁護士が出てくる。クライアントは、儲かっていない弁護士は能力がないのかもと不安になり、依頼を控える可能性がある。そこで、一等地に立派な事務所を構えて、立派な応接室、会議室を備えることになる。この事務所は儲かっているんだとクライアントに見せるためである。

他の事務所との競争に勝つために、法曹界の有名人や、有名な元裁判官、連邦政府の重要な職に就いていた者を巨額の報酬を支払って雇おうとする。

営業に割く時間とお金はすべてクライアントの報酬から拠出されていると考えると、クライアントにとって、良いことなのだろうかと疑問に思わざるを得ない。

また、競争が激しいアメリカならではであるが、事務所内の他の弁護士も自分のクライアントを奪い去っていくかもしれない競争相手である。そのために、神経を使ったり、クライアントにとっては最善と言えないことが起こる。たとえば、ある弁護士から聞いた話であるが、ある女性弁護士は、自分でその訴訟事件を担当するより、他の弁護士と共同で仕事をした方がよいことは十分に分かっているが、そんなことをしたら、他の弁護士にクライアントを奪われてしまうので、すべて自分で仕事をしているというのだ。しかし、無理がたたって、突然死してしまったということだ。

ここでは名前をあげないが、同じ事務所内の弁護士同士の戦いが激しい事務所として有名な事務所もある。パートナーが互いに背中から刺し合っているような事務所もある。アソシエイトに直接クライアントに接しさせないようにするパートナー弁護士、仕事を細分化して全体像が見えないようにしてアソシエイトを使うパートナー弁護士の話も聞いたこともある。

また、競争激化によって、仕事を選ぶ傾向が強くなる。利益率の低い仕事は何らかの理由をつけて引き受けないのである。

このように見ていると、弁護士同士の競争が激化することは、クライアントにとって本当に良いことなのかと疑問を抱かざるを得ない。