つづき
大手企業向けの事件が大手事務所、特に大手事務所の有名な一部の弁護士に集中する傾向にあるという話をしたが、働く側の弁護士も大手で働きたいという大手志向がある。
アメリカでは弁護士という資格に重みはない。大手事務所で働くパートナーという肩書きや、大手企業のリーガル・マネージャーなどという肩書きがあって始めて弁護士という資格に重みが出てくる。10年前の日本で「弁護士の〇〇です」と自分を紹介するだけで人が信頼してくれたのとは勝手が違うのである。「〇〇事務所のパートナーの弁護士〇〇です」と著名な事務所名のパートナー弁護士であると自己紹介をして始めて人が信用してくれるのである。事務所名が一種のブランドとなる。
また、大手事務所に大規模事件が集中するのであれば、大規模事件を手がけたいと思う上昇志向のある弁護士は大手事務所で働きたいと考えるだろう。
前述したように大企業の大手事務所志向が強いアメリカでは、あるパートナー弁護士の報酬レートが大手事務所では1時間750ドルだったとしても、その同じ弁護士が小さい事務所で働けば報酬レートが半分となることだってある。成功報酬で働いて欲しいと要求されることすらある。当然、弁護士の給料は半分以下になるだろう。弁護士業務をビジネスとして捕らえているアメリカの弁護士が、同じ仕事をして半分の給料になることを好むだろうか。すると、一部の他の動機のある弁護士を除いて、大手事務所志向が強くなる。特にロースクールを卒業するために多額の借金を負っている若手弁護士にとっては高い給料を出す大手事務所はとても魅力的である。
そこで、弁護士も大手事務所に職を求めようとする。
このように、大手クライアント、大規模事件、優秀な人材、すべてが大手事務所に集中するシステムが出来上がっているように思える。
この、大手事務所志向が、弁護士費用の増加を招く結果となる原因の一つとなっているのではないか。大手事務所は大手になるだけあって経営が上手である。経営の専門家を雇っている。下手に値下げ合戦などしないし、大手事務所の巨額なオーバーヘッド・コストを支払うためにも値下げはできない。また、大手事務所では弁護士の専門分野が細分化されすぎていて、複数の法律にまたがるような事件になると、各部門の専門弁護士が一緒になって仕事をする、つまり、多くのパートナー弁護士が関わることで、必然的に弁護士報酬が高くなるのである。
他にも弁護士報酬が高くなる原因として考えられることが色々あるが、長くなるので、割愛する。
現在日本は弁護士の数が増えて安い値段で引き受ける弁護士が出ているが、現在は過渡期であり、今後はどうなるであろうか。一般市民や小規模会社向け弁護士業務の報酬は下がるかも知れないが、大手企業向けの企業法務について報酬が下がり続けるかといわれれば、過渡期を過ぎれば、高くなる可能性も十分にあると言わざるを得ない。
現在は旧司法試験を合格した優秀だろうとの推定が働く弁護士が中堅弁護士として残っている。質が同じであると推定される弁護士が数多くいれば、企業は安い弁護士を使おうと考える。つまり価格競争に陥る。しかし、質が保証されない弁護士の時代に突入すれば、どうなるか分からない。安かろう悪かろうにならないためにも、高額な弁護士費用を支払ってでも優秀であろうと推定される大手事務所の弁護士を使わざるを得ない日が来るかもしれない。つまり、海のものとも山のものとも分からない安価で引き受けるといっている弁護士を使うのか、優秀であろうと推定される大手事務所の高額な弁護士を使うのかの選択を迫れられることになるだろう。