2013年3月21日木曜日

弁護士が増えれば弁護士報酬は下がるのか?-その3


つづき

前回、企業は大手事務所に依頼する傾向が非常に強く、その理由の根本にある前提は大雑把に考えると以下の二つあろうと述べた。

一つ目は、弁護士というだけでは何ら質が担保されているわけではない。つまり、弁護士の資格を持つ者の一部のみが優秀で質が良いこと。

二つ目は、弁護士としての経験を積むのが非常に難しいことである。つまり、OJTを受けることが非常に難しいのである。

二つ目の理由は一つ目の理由とも複雑に絡み合っている。大手事務所であれば、ある程度の質が担保されているだろうとの推定が働くので、大きな事件や企業にとって重要な事件は大手事務所に集中する。つまり、大手事務所に勤務していなければ、このような事件の実務経験を積むことができないのである。企業は新しい法律事務所を探すとき必ずといっていいほどする質問が、パートナー弁護士が過去にどのようなケースを担当したのかである。訴訟であれば、当事者の名前と裁判所名を具体的にあげてリストを提出してほしいと要求することもある。

ベテランの弁護士であっても小さい事務所の弁護士は、大企業に多い事件や実務を経験したことがない場合が多い。そこで、そのような事件特有の問題について実務経験がないことが一般的なのである。それにより、大きな事件等を依頼したい企業はそのような事件を処理した経験がある大手事務所を信奉する傾向に陥る。

アメリカで弁護士になるためには原則としてロースクールを卒業して司法試験を合格すれば足り、日本のような司法修習制度はない。弁護士になりたての頃は、実務はロースクールの模擬裁判で覚えたこと程度しか分からない。そこで、弁護士として成長するためには実務経験が欠かせない。しかし、その実務経験を経るためには、仕事がある事務所に就職して先輩弁護士から仕事をもらうしかない。もしアメリカで、日本で最近増えているという即独弁護士(弁護士資格を経て直ぐに独立する弁護士のこと)になったら、「先生は過去にどのような事件を担当されているのですか」と聞かれて答えられなくなるだけである。そのような質問をしない洗練されていない一般市民以外から仕事を得られる機会はないだろう。

鶏が先か卵が先か。大手事務所の弁護士であれば優秀なのではないかとの推定が働き、大規模な事件は大手事務所に集中し、大手事務所で働かなければ大規模事件や企業に特有の事件の経験を積むことができず、経験不足の弁護士には依頼できないと、企業が大手事務所に依頼する傾向がさらに高くなる。

そこで、大手企業の事件は大手事務所に集中しがちである。大手事務所で働く弁護士の数は全体の弁護士の数から考えれば10パーセント以下であろう。特に特定の専門で有名な弁護士など極わずかしかいないが、そこに依頼が集中するのである。すると、1時間1000ドルという日本では考えられないアワリーレートでもクライアントを集められる弁護士が登場する。