2013年3月13日水曜日

弁護士が増えれば弁護士報酬は下がるのか?-その2


つづき

何故、弁護士がこれだけ多いアメリカで、これほど高い弁護士報酬を請求し続けられるのかについては、色々考えているが、いくつか考えられる理由がある。

企業は大手事務所に依頼する傾向が非常に強い。その理由の根本にあるものは大雑把に考えると以下の二つあるのではないか。

一つ目は、弁護士というだけでは何ら質が担保されていないことである。つまり、弁護士の資格を持つ者の極一部のみが優秀で質が良い。

二つ目は、弁護士としての経験を積むのが非常に難しいことである。つまり、OJTを受けることが非常に難しいのである。

まず、一つ目の理由であるが、例えば、日本の司法試験の合格者が500700人であった頃は、司法試験に合格したということで、ある程度優秀であるとの推定が働いていた。そこで、司法試験に合格した弁護士のなかでさらに優秀な弁護士を探し出す努力をする必要性が低かったのではないか。

しかし、ロースクールを卒業すれば80パーセントくらいが合格する司法試験に受かりさえすれば弁護士になれるアメリカでは、弁護士というだけで優秀であるとの推定は全く働かない。自分のことを優秀だと言っている弁護士の割合は日本の弁護士と比較して格段に多いアメリカであるが、私の経験則からすると、優秀な弁護士はせいぜい10パーセント、多く見積もっても20パーセント程度である。つまり、80パーセントの弁護士資格保持者は優秀とは言いがたいのである。だから、依頼者は優秀な弁護士を自ら探さなければならない。ただ、弁護士が優秀かどうか判断するのは至難の業である。サービスと料理が良いレストランを探すのとは勝手が違う。弁護士である私ですら優秀なアメリカの弁護士を探すのは大変であると感じている。1年間くらい一緒に働いて初めて優秀かどうか判断できる程度である。企業では大手事務所に依頼すればある程度優秀な弁護士に依頼できるだろう共通の認識があるようだ。つまり、大手事務所は有名なロースクールを優秀な成績で卒業した新卒を雇っているし、大手事務所で残っていける弁護士は優秀であろうという認識である。企業の運命をかけるような仕事を小さな事務所に依頼して失敗でもしたら、それこそ依頼事務所を決定した者の責任になりかねない。そこで、弁護士報酬が高くても、企業は大手事務所に依頼する傾向が強い。

さらには、高額なアワリーレートでも依頼者が依頼してくる弁護士ということ自体からその弁護士が優秀であるのだろうとの推定が働くようである。だから、アワリーレートの高い弁護士が「あなたのためだけに少しディスカウントしますよ」というなら問題ないのであるが、最初から「私のアワリーレートは安いですよ」っと宣伝している弁護士は、能力にも問題があるのではないかと疑問を抱かれてしまうのである。必ずしも正しい推定ではないのだが、弁護士は自分のアワリーレートを下げたがらないのである。自分を安売りしないという強い信念を持っている弁護士も多い。しかし、高いアワリーレートでクライアントを獲得できなければ、食べていくためにアワリーレートを下げるしかない。