2013年6月29日土曜日

弁護士会の勧誘活動


最近、American Bar Association (ABA)から勧誘の電話がよくかかってくる。限られた期間内だけ無料でメンバーになれ、その期間が終了したあともメンバーシップを続ける義務はないから会員にならないかと何度も電話がかかってくる。いつも、今仕事が忙しいのでと話しを聞かなかったが、一度だけ話しを聞いてみた。無料メンバーシップの案内を送ると言うので、了承した。本当にABAが何度も電話をかけてきているのかと半信半疑のところもあったが、確かにABAから手紙が送られてきた。
基本的にアメリカでは弁護士会に加入することを強制されない。弁護士会は任意加入団体なのである。アメリカの全国的な弁護士会である American Bar Association (ABA)であっても(日本で言えば日弁連のような規模である)、任意加入団体である。したがって、会員が会費を支払っても入りたいと思う魅力的な会にする必要がある。高い会費を請求するが、会員にとって何ら利益がないというような弁護士会であれば、誰も入会しない。つまり、弁護士会として成り立たない。会費は、弁護士になった最初の年は無料で、年間200ドルから300ドルという日本の弁護士会と比較したら、極わずかである。会員がネットワークを広げるためのイベントや、CLEクレジットとなるセミナーを会員価格で受講できたりと得点も用意している。勧誘の際も、会員になった場合の得点を熱心に説明していた。
これに対して、強制加入である、つまり、弁護士会に所属しないと弁護士と名乗ることすら許されない日本の弁護士会は、会員である弁護士の利益を考えているのか非常に疑問であるにも関わらず、会費は想像を絶する高さである。強制加入なので、日本で弁護士と名乗ったり、名刺に弁護士と記載するためだけでも、全国的な弁護士会である日弁連と地方の単位会の弁護士会に所属しなければならない。それぞれが、別々に会費を請求しているが、両方併せると年間60万円から100万円の弁護士会費を支払うことを強制される。弁護士になってから数年は若干の減額があるが、それでもアメリカとは比較にならないほど高さである。これだけの費用を30年支払い続けたら、信じられない額になるのは容易に想像できる。退職金も厚生年金もない弁護士にとっては大出費である。少し考え方を変えて、300人の弁護士がいる大型事務所の弁護士会費を単純に60万円×300人と考えると、年間で2億円近い額になる。これだけの会費を支払っているのだから何らかの利益が得られるのかと思うと、会務をボランティアでやるようにとさらなる義務が課されるだけである。会務をやらないなら5万円の追加会費を支払えという単位会すらある。

ロースクールが導入され、弁護士の数が増え、競争が激化している日本において、従来型の弁護士会がいつまで維持されるのだろうか。任意加入団体になった弁護士会から勧誘の電話がかかってくる日が来るかもしれない。

2013年6月20日木曜日

ソクラテスメソッドによるロースクールの授業


アメリカのロースクールでは、重要判例が多数掲載されているテキストを使い、授業が始まる前に各自決められた判例を読んできて、それに基づき、いわゆるソクラテスメソッドで授業が行われることが多い。判例は余計な部分は略されているとはいえ、一つ10ページから20ページ、中には50ページ程度あるものもある。授業では、一つ一つの判例について、教授が学生に対して事実関係や結論を質問し、その判例から導き出せる法、つまり判例法を明らかにしていこうとする。

判例法をとるアメリカでは、この授業の方法には意味があると思う。なぜなら、弁護士の業務の一部として、判例を調査し、その判例から法を見つけ出す作業がある。例えば裁判での準備書面を起案するとき、自分の事件に不利な判例があれば、判例の中から法的に意味を持つ重要な事実を探し出し、自分の事件の事実と判例の事実とは異なるので、この判例法は自分の事案には適用されないと主張する。もし自分の事件に有利な判例があれば、判例の中で法的に意味を持つ重要な事実を探し出し、この事実と自分の事件の事実が同じなので、自分の事件も同様の法によって判断されなければならないと主張する。

このような主張をするためには、大量の判例を読み、その中から法的に意味のある事実関係と法を見つけ出すための訓練が必要となる。ロースクールでのいわゆるソクラテスメソッドはそれを助けるものであると言えよう。

最近は日本でも法科大学院でソクラテスメソッドによる授業があると聞くが、判例を大量に読ませるアメリカ型の授業でないことを祈るばかりである。

日本は判例法ではなく成文法の国である。最初に読むべきは判例ではなく、法律(条文)である。

私がもし法科大学院でソクラテスメソッドで授業をやるように言われたら、学生には、まず複数の条文を宿題として渡し、さらに事例をいくつか渡すだろう。どの条文を当てはめればいいかを学生に質問し、条文のどの文言の解釈すべきで、その文言をどう解釈すれば、どのような結論になり、反対の結論に持っていくならどのように解釈すべきかを質問するだろう。そのうえで、「君が答えた解釈は、〇〇先生の学説に近いね」などと解説し、通常の授業形式で学説や判例を教えていくだろう。
条文のどの文言をどのように解釈すれば自分の案件に有利になるのかを自分で考え出せる力をつければ、弁護士として今まで勉強しなかった法律にあたったときに、役に立つのである。

日米の根本的な違いを考えずに、アメリカ方式を輸入するだけにはならないで欲しい。