2013年12月26日木曜日

アメリカのロースクールに進学する危険性

アメリカのロースクールの3年間のJDコースに進学するかどうか迷っている人は、増えてきているかもしれない。進路に関して、ロースクールのオープンスクールなどに参加して、ロースクール関係者に話しを聞くかもしれない。

ここで気をつけなければならないのは、彼らの話を鵜呑みにしていけないということだ。
彼らは車のセールスマンと同じである。売りたいと思っている車の欠点など話してくれるわけはない。

とりあえず、願書だけでも出してっと甘い言葉でささやく。願書を出すのも手伝ってくれるかも知れない。「おめでとうございます。あなたの入学は許可されました」っと電話をかけてきてくれるかもしれない。さらには、「あなたには特別5000ドルの奨学金が与えられることになりました。」っと持ち上げてくれるかもしれない。実際には入学者の半分以上が同じような奨学金を受けているということもある。

もし入学を許可したロースクールが全米のランキングで上位10パーセントくらいに入っていなかったら、1年留学を遅らせて上位のロースクールに再度チャレンジすべきである。もし、1年遅らせても上位のロースクールから入学許可をもらえなかったら、アメリカのロースクールでJDを取得するという夢は諦めるほうが良いかもしれない。

上位50位以内に入っていないロースクールについては考慮しない方がよい。100位に入っていないロースクールは問題外である。

下位校になればなるほど、あの手この手で、営業をかけてくる可能性がある。通常の日本人は1年のLL.M.コースの卒業者ばかりで、3年のJDを持っている人は少ないから、下位のロースクールであっても日本人がJD学位を取得したというだけで就職の需要があるだろうという思い込みは非常に危険である。

既にクライアントになりそうな日本企業とのコネクションが十分にあるか、決まっている職場があって、必要なのはアメリカの弁護士資格だけという人でない限り、上位とは言えないロースクールに入学すべきでない。3年間かけて1000万円を超える学費を支払っても、それに見合うだけの就職口は見つからず、単なる自己満足になる危険性が高いということを忘れないで欲しい。

下位のロースクールでJDを取得してもアメリカの法律事務所に就職することはほとんど不可能である。目を見張るような過去の職歴がない限り、履歴書を送っても面接にすら呼ばれない。
では、日本の大企業に就職しようと思うかもれない。しかし、運よく日本企業に就職できたとしても、アメリカのロースクールで1000万円以上の学費を支払った分を取り返せるだけの給料を支払う企業はないだろう。

早くアメリカに留学したいと焦るばかりに下位のロースクールのJDコースに行くことは、自殺行為といえる。

2013年12月12日木曜日

弁護士の数が増えると弁護士費用が安くなるの大間違い

アップルとサムソンの米国特許争いはアメリカ法曹の間でも話題になっているが、この争いにかかっている弁護士費用を見れば、弁護士数が増えても弁護士費用が安くならないことの証拠になるだろう。

アップルはサムソンに対して、既に費やした弁護士費用のうち、15.7億円(1ドル100円で換算)の支払いを求める申し立てをしたというニュースが出ている。
http://appleinsider.com/articles/13/12/06/apple-spent-60-million-on-samsung-suit-attempts-to-recoup-157-million

この16億円近い請求額に驚くが、これは、アップルがこの紛争に費やした弁護士費用の一部分に過ぎないのである。

さらに、アップルは特許紛争以外にも弁護士費用を費やしているだろうから、リーガルに費やす費用はいったいいくらになっているのか想像を絶する。

他のプラクティス分野でも、弁護士が増えても有名な弁護士の弁護士費用が下がることは一向にない。
http://www.bloomberg.co.jp/news/123-MXMKLX6K50XX01.html
1時間10万円以上の報酬を要求する弁護士に何時間も働いてもらおうとする企業があるのだ。

費用が高くても有名で経験のある弁護士に依頼するのは、弁護士数が多いために、弁護士の能力の保証がなく、経験不足の弁護士が数多くいるため、有名で経験が豊富とされる一部の弁護士に事件が集中するからだと考える。
一部の弁護士に依頼が集中することで、さらに経験豊富な弁護士の数が減るという悪循環を繰り返している。

また、弁護士の人数が多いために専門化が進み、特に大手事務所の有名弁護士を含む弁護士は専門以外の分野については経験もなければ知識もない。そこで、大中企業は分野ごとに違う弁護士を雇わざるを得ず、さらに弁護士費用が増している。

アメリカでは弁護士の資格は持っているが、弁護士としての実務経験がないため弁護士としての業務を行っていない人が数多くいる。ロースクールを卒業してから弁護士業以外しか行ったことのない者は、大抵の場合、事実上弁護士として働くことができなくなる。ただ、日本と違って弁護士登録費用が安いので、そのまま弁護士として登録しているままになっている人も多い。

アメリカのロースクールはある意味、弁護士という資格を持っているが、弁護士としての実務はできない人を大量に生み出している制度なのである。それも影響してか、弁護士費用が一向に下がらない。


弁護士報酬の二極化

2013年12月5日木曜日

見方を間違うと全く参考にならない米国法律事務所への就職体験記

このブログにたどり着く方の中には、アメリカで米国法律事務所に就職を考えている方も多いようだ。「アメリカ 弁護士 就職」などというキーワードで検索すると、他の就職体験記などとともに、このブログもリストアップされるようである。

そのような方のために就職体験記を読む際の注意点を記載しておこう。

就職体験記は、いつの時期の就職活動の話しをしているのかによって全く参考にならないことがある。

2000年以前の就職体験記は現時点ではほとんど参考にならないと言っても過言でないだろう。リーマンショック以前の就職体験記もそれほど参考にならない。2000年以前は日本語を話す弁護士の需要が結構あったが、今はそのような求人はパラリーガルか、ドキュメントレビューをする短期契約弁護士くらいしかない。

また、就職体験記を記載した人のバックグラウンドも重要である。日本の大手企業の法務部や知財部などで働いていた経験がある人が書いた就職体験記は、就職した経験のない人にはほとんど役に立たない。

例えば、MBAを取得しているとか、理系のバックグラウンドがあるとか、キャリア組みの国家公務員だったという経歴がある人が書いている場合、似たような経歴がない人にはあまり役に立たない。

アメリカの法律事務所に就職したいと思っている日本人には酷な話であるが、現実なのでお話ししておこう。
もし、アメリカの普通のロースクールを普通の成績で卒業した日本人が、目を引くような過去の職歴もないまま、大手事務所上から順番に100番までの事務所にカバーレターとともに履歴書を送ったとしよう。ほぼ間違いなく、全て100の事務所から断りのメールが届くか、無視されるかである。

人間は自分に都合の悪いことに目をつぶる傾向があるので、うまくいった就職体験記だけを読んで、自分もアメリカの弁護士として就職できると誤解するかもしれない。

しかし現実は非常に厳しい。トップのロースクールを優秀な成績で卒業したアメリカ人と台頭に戦える能力があるか、特殊なバックグラウンドがあるか、特殊なコネがあるか、人並みはずれて運がよいか、でない限り、アメリカで弁護士として就職することは非常に難しい。また、就職先の事務所にビザをサポートしてもらって働くとなると、さらに困難を伴う。

日本企業に就職することを考えて、ロースクールの1年のLL.M.コースを卒業して米国弁護士になるなら理解できる投資であるが、アメリカの法律事務所に就職したいと思っている場合は、ロースクールに投資することは大きなギャンブルといえる。

ネットで見た就職体験記を自分の都合の良いように解釈して安易に1500万円のJDの学費と3年間の時間を費やして卒業後の確かなプランもないまま留学するのは危険である。