2013年6月20日木曜日

ソクラテスメソッドによるロースクールの授業


アメリカのロースクールでは、重要判例が多数掲載されているテキストを使い、授業が始まる前に各自決められた判例を読んできて、それに基づき、いわゆるソクラテスメソッドで授業が行われることが多い。判例は余計な部分は略されているとはいえ、一つ10ページから20ページ、中には50ページ程度あるものもある。授業では、一つ一つの判例について、教授が学生に対して事実関係や結論を質問し、その判例から導き出せる法、つまり判例法を明らかにしていこうとする。

判例法をとるアメリカでは、この授業の方法には意味があると思う。なぜなら、弁護士の業務の一部として、判例を調査し、その判例から法を見つけ出す作業がある。例えば裁判での準備書面を起案するとき、自分の事件に不利な判例があれば、判例の中から法的に意味を持つ重要な事実を探し出し、自分の事件の事実と判例の事実とは異なるので、この判例法は自分の事案には適用されないと主張する。もし自分の事件に有利な判例があれば、判例の中で法的に意味を持つ重要な事実を探し出し、この事実と自分の事件の事実が同じなので、自分の事件も同様の法によって判断されなければならないと主張する。

このような主張をするためには、大量の判例を読み、その中から法的に意味のある事実関係と法を見つけ出すための訓練が必要となる。ロースクールでのいわゆるソクラテスメソッドはそれを助けるものであると言えよう。

最近は日本でも法科大学院でソクラテスメソッドによる授業があると聞くが、判例を大量に読ませるアメリカ型の授業でないことを祈るばかりである。

日本は判例法ではなく成文法の国である。最初に読むべきは判例ではなく、法律(条文)である。

私がもし法科大学院でソクラテスメソッドで授業をやるように言われたら、学生には、まず複数の条文を宿題として渡し、さらに事例をいくつか渡すだろう。どの条文を当てはめればいいかを学生に質問し、条文のどの文言の解釈すべきで、その文言をどう解釈すれば、どのような結論になり、反対の結論に持っていくならどのように解釈すべきかを質問するだろう。そのうえで、「君が答えた解釈は、〇〇先生の学説に近いね」などと解説し、通常の授業形式で学説や判例を教えていくだろう。
条文のどの文言をどのように解釈すれば自分の案件に有利になるのかを自分で考え出せる力をつければ、弁護士として今まで勉強しなかった法律にあたったときに、役に立つのである。

日米の根本的な違いを考えずに、アメリカ方式を輸入するだけにはならないで欲しい。