2012年9月25日火曜日

CLEクレジット


州によって異なるが、弁護士登録を続けるために一定の数のCLEクレジットを取ることが求められることが多い。CLEContinuing legal educationの略である。法律のプラクティスをしている間は、基準を充たすセミナーを受けて、法律の勉強を続けなさいということである。ただ、免除規定も多く、例えば、ロースクールの教授などは、CLEクレジットを取ることは求められないし、ニューヨーク州であれば、NYの法律をプラクティスしていないことを証明すれば、CLEクレジットを取る必要はない。したがって、勝手な推測ではあるが、ニューヨーク州の弁護士資格を持っている日本の弁護士のほとんどはCLEクレジットを取っていないのではないかと思う。

CLEクレジットをどうやって取るかは、外部のCLEクレジット用のセミナーを開催する会社にお金を支払ってセミナーを受講する方法もあるが、お金がかからない方法も多い。

大手法律事務所になると、外部セミナー会社と一定の契約をしていることが多く、その事務所所属の弁護士は個人的にはお金を支払わないでセミナーに参加してCLEクレジットを取得できる。

インハウス弁護士になるとどうであろうか。大手の法律事務所は営業の一環としてCLEクレジットの基準を充たすセミナーをインハウス弁護士のために無料で開催することが多い。インハウス弁護士はそのような複数のセミナーを受講することで無料でCLEクレジットを取ることができる。

事務所内のアソシエイトに勉強させるために、持ち回りでCLEのクレジットを充たすセミナーを事務所内で開くこともできる。アソシエイトの手間はかかるが、勉強にもなるし、無料でCLEクレジットを取れるという利点がある。

アメリカは弁護士登録費用が安いけれどもCLEクレジットを取るための費用がかかるではないかと反論する人がいるかもしれない。確かに、PLI等の外部有名なセミナー会社のセミナーを受ければお金がかかる。そもそもCLEクレジットを要求していない州もある。また、免除条項もあるし、説明したように無料でCLEクレジットが取得できる方法も多いのである。

2012年9月19日水曜日

弁護士会強制加入と弁護士会費


アメリカの多くの州では弁護士会へ強制的に加入させられることはない。つまり、弁護士になるのに弁護士会に加入しなくてもよいのである。例えば、ニューヨーク州、マンハッタンで弁護士をやっていると、主にニューヨーク州弁護士会、ニューヨークカウンティー弁護士会、ニューヨークシティー弁護士会から入会の案内が送られてくるが、いずれにも加入する必要はない。弁護士会は完全な任意加入団体なのである。そこで、会費も安い。

では、弁護士になるためにどうするかといえば、弁護士登録が必要になる。ニューヨーク州であれば、登録料として2年間で350ドルである(現在は375ドル)。日本円に換算すると1年で14千円である。中規模から大規模の法律事務所では、一般的に事務所がこの費用を負担している。

まだ、アメリカの弁護士になって間もない頃、親切にも日本の弁護士登録費用を事務所で負担しようかと提案してくれたパートナーがいた。日本の会費はもの凄く高いと断りを入れた後に、年間で5000ドルから6000ドルくらいと正直に話した。円高の今は、7000ドルを余裕で超えている。パートナーの驚きといったらなかった。What?」「It’s crazy!。日本の弁護士会費はクレージー以外の何ものでもないのだろう。その後、そのパートナーが日本の弁護士会費の話を二度と持ち出すことがなかったのは、言うまでもない。

東京弁護士会では事務所の住所変更や事務所移籍により登録変更事項があると、その都度5000円支払って変更する必要があるが、もしアメリカの弁護士がこれを知ったら腰を抜かすだろう。例えば、200人の弁護士が所属する大手事務所が事務所の場所を移転したとしよう。弁護士会の住所変更費用だけで、100万円かかる計算になる。
ニューヨーク州では事務所を移籍しても事務所変更届出の費用なんて請求された覚えがない。

弁護士登録をしてからGood Standingであることを証明する証明書を出してもらったときには、5ドルしか請求されなかった。400円である。証明書は上等な紙でできていたので、紙代程度である。
 
CLEクレジットに関してはまたの機会に説明することにする。

2012年9月14日金曜日

弁護士のリストラ


アメリカでは日本のような労働者保護がないため、リストラがしやすい。弁護士のリストラも同様に容易である。

大手の法律事務所は噂を気にするので、23ヶ月の猶予をもって解雇するのが通常であるが、リーマンショック以後のリストラはそうとも限らない。一番残酷なリストラ方法は、血も涙もない。当日突然解雇を言い渡され、その日は解雇された弁護士が事務所を出るまで、お目付け役のエスコートがついてまわり、事務所の物を持ち出さないか監視する。解雇された弁護士は私物を持ち出す準備をすることだけが許され、私物を持って外に出る時に事務所の鍵を返し、それっきり事務所に入ることはできない。

ここまで残酷な方法でリストラをすることは法律事務所では多くないだろうが、リストラされた弁護士の数は数え切れない。大手事務所だけでも何万人という数である。大手事務所の名前を書いてその後に「layoff」とタイプしてグーグル検索すれば、多数のウエブにヒットする。ウエブに出てこないようなリストラも数え切れないほどある。

リストラされた弁護士が無能かというとそうでないことも結構ある。仕事が早くて正直で営業活動が苦手な弁護士は有能でもリストラの対象になる。仕事が早いとクライアントにチャージする時間が短くなりがちであるが、正直だとその短い時間をそのままつけてしまう。事務所に仕事が少なければ、クライアントにチャージできる時間が一定時間を越えなくなり、リストラの対象になる。
彼らがリストラ後どうしているのか分からないが、再就職はかなり難しいようだ。リストラされた新人弁護士の再就職は特に難しいようである。その後、1年2年と職が見つからない者、契約弁護士や派遣弁護士になる者、弁護士の仕事を諦めて弁護士資格と全く関係ない職に就く者など、様々な話を聞く。
 

2012年9月10日月曜日

ロースクールに行くべきでないとアドバイスするブログの数々


アメリカの複数のロースクールが卒業生の就職率に関して虚偽の情報を提要して学生を集めたとしてクラスアクション訴訟を提起しているというニュースを伝えるウエブサイトの中に、ロースクールに行くべきでない語るブログを書いているロースクール卒業生が多くいるとの記載があったので、グーグルで検索してみた。
確かに、そのようなブログは多数あるようだ。ロースクールの高い学費を払うために借金しても借金を返せるだけの高給が支払われる仕事に就くことはほとんど無理であるという内容が多い。

現在ではトップ10のロースクールに行くか、成績がとても優秀でない限り、ロースクール時代の借金を返済できるような仕事には就けないと分析しているサイトがあった。トップ10といえば、上位5パーセントのロースクールに入らなければならないということである。成績が思わしくなかった学生が1学期が終わった後に中退することも多い。1年の成績が悪いと大手事務所に就職できない、すなわち借金が返せない。1学期ごとに学費を支払うので、借金を増やす前に中退して他の職を探した方がよいという判断によるのだそうだ。

ブログの中で印象的な文章を見つけた。「Debt is the elephant in the room that law schools never tell you about, but ends up dominating your life.」少し分かりやすく意訳してみる。「借金というのは、あなたの部屋に像がドンと座っているようなもので(皆が話したがらないいという比喩でも使われる表現)、そのうちあなたの生活を占領していく。でもロースクールはそんなことを絶対に教えてくれない。」20代で多額の借金を負いながら、それを返せるだけの給料の支払いがある職が見つからない厳しさが伝わってくる表現である。
1ドル100円で計算すると、アメリカのロースクール卒業生の平均的な借金の額は1000万円である。他のブログでは、「これから25年かけてこの借金を返していく」と書いてあるものもあった。「自分に対する投資と思ってロースクールに行ったが、現在では上位ロースクールを卒業してもリスクが非常に高いギャンブルに過ぎない。」との記載もあった。

大手法律事務所では高給が支払われていても、それでも割りに合わないという内容のものもあった。大雑把にいうとこんなことが書いてあった。「大手事務所ではBillable hour、つまりクライアントにチャージできる時間を年間2000時間付けることが要求されるが、7時間事務所で働いたからといって7時間のBillable hourがつけられるわけじゃない。少なくとも10時間働かなければ7時間はつけられない。」確かに、リーマンショック以降、クライアントにチャージできる時間を2200時間、中には2400時間つけるようにと要求する事務所も現れるようになった。
ブログのコメントの中には自分は仕事があって、少しずつでも学生ローンを返していけるだけ恵まれているというものもあった。
アメリカと日本の大きな違いは、法律の資格と全く関係ない仕事に就いている法曹資格者がものすごい数いることである。
クラスアクションに戻るが、仕方なく法律資格と全く関係ない、つまりロースクールに行かなくても就けた仕事に就いた卒業生も含めて就職率が高いと宣伝したことなどが虚偽だったというわけだ。

2012年9月5日水曜日

超ビジネス優先主義


アメリカの法律事務所は超営利団体である。大多数のアメリカの弁護士ははリーガル・プラクティスはビジネスの手段だと考えている。人権保護が弁護士の役割と公言する日本の弁護士との大きな違いである。

アメリカの法律事務所のほとんどは、ビジネスにとって何が好ましいのかを考えている。事務所が積極的に社会奉仕的なことをするのも、事務所のイメージアップにつながり、最終的にビジネスにつながる期待があって行われている。企業が、イメージアップを図るために環境にやさしいと宣伝するのと同じである。
 
大手の事務所にはマーケティング部がある。弁護士でも、パラリーガルでも、秘書でもなく、マーケティングをやるためだけに雇われた人たちのグループが事務所に存在しているのである。その中にはビジネススクールを卒業している者もいる。アシスタントよりも高給取りである。弁護士の立場から、彼らが何をやっているのかはっきりと把握していないが、営業のためのセミナーやパーティーの開催に関すること、事務所のパンフレットやウエブサイトの構成、雑誌等への宣伝を兼ねた原稿の掲載交渉、クライアント等に配布する事務所の名前の入った備品の作成等をやっていることは間違いない。高給取りのビジネススクール卒業者をわざわざ雇っていることから察するに、積極的にビジネス戦略を考えるとか、事務所のブランド作りを模索したり、海外での事業展開の検討などもしているようである。

マーケティング部だけでなく、事務所の弁護士が集まってマーケティング会議をやることもしばしばある。例えば、どうやって日本のクライアントを開拓すべきか、日本の企業から研修生を受け入れるのは営業につながるか、セミナーをやるのはどうか等話し合われる。

アソシエイトも営業に貢献することを期待されている。事務所によっては、ビラブルアワーのノルマの他にマーケティングのための時間を一定以上つけるように指示しているところもある。法律雑誌への原稿掲載や、外部でセミナーをやることはマーケティングとみなされる。

日本も法曹人口増加により、同じようなことが起こるのではないだろうか。もしかすると、もう大手の事務所では行われているのかもしれない。

2012年9月1日土曜日

派遣弁護士


日本では、弁護士を派遣することは許されていないが、アメリカでは弁護士派遣も許されている。特に、アメリカ特有のディスカバリーという制度は、一時的に大量のドキュメントをレビューする弁護士が必要になる。すると派遣会社に23ヶ月のプロジェクトでドキュメントをレビューする弁護士が必要なので派遣して欲しいと依頼する。派遣弁護士が受け取れる金額は1時間約50ドル程度である。小遣い稼ぎとしては結構な額になる。

ただ、落とし穴がある。ドキュメントレビューの仕事は弁護士としての経験になるようなものではない。特に派遣弁護士がやっているレビューは全く経験にならない。派遣弁護士の履歴書はとんでもないことになる。2から3ヶ月で色々な事務所を転々としている様子が、ずらーっと履歴書に並ぶ。こうなったら、通常の弁護士として法律事務所に就職することは難しい。インハウス弁護士として雇われることも難しい。なぜなら、企業は通常の大手法律事務所の経験が一定程度ある弁護士を雇いたいと考えているからである。

派遣弁護士はいつ仕事が来なくなってしまうか分からない。事務所加入の健康保険すらないので、自分で健康保険に加入しなければ医者にもかかれない。プロジェクトがあるときは結構お金が入るが、プロジェクトがない時は生活も安定しない。しかし、一旦派遣弁護士になると派遣弁護士から抜け出すことは困難である。

日本の弁護士や弁理士の資格の無い日本人でLL.M.だけを取得してアメリカ弁護士資格を取得してアメリカに残っている人の中には、派遣弁護士をやっている人も多い。日本企業が訴訟に巻き込まれたとき、日本語のドキュメントをレビューできる人が必要なので、彼らの需要はコンスタントにあるようだ。最近は日本の弁護士資格を持っていても、ロースクール後の研修先が見つからなくて1年間派遣弁護士として働いた後、日本に帰る人もいる。

そのうち日本でも「アメリカのように弁護士の派遣を認めればいいじゃないか」と言い出す人がいるかもしれない。