2015年1月28日水曜日

銀座のクラブの女性とアメリカの弁護士は同じ?

一般的に、パートナーが弁護士の数が500人以上いるような事務所にパートナーとして移籍するためには、最低でも1ミリオンダラー、1ドル100円で計算して1億円のポータブルビジネスが必要と言われている。

ポータブルビジネスとは何?というのが、一般の方の疑問であろう。英語で書くと「portable business」つまり、お持ち運び可能なビジネスである。その弁護士が事務所を移籍したら付いてくるビジネス(クライアント)のことである。アメリカでは、10年以上の経験のある弁護士の移籍の際の価値はポータブルビジネスがどのくらいあるかで決まる。


日本人の社会人の男性に分かりやすいように説明すると、銀座のクラブで働く女性と同じ原理である。
銀座の高級クラブで働く女性も他のクラブからの引き抜きがあるが、引き抜きの際の女性の価値は、その女性を引き抜いて他のお店で働いてもらったら、その女性についている客の何人が、辞めたお店ではなく新しいお店に通うようになるかで決まる。これは、ポータブル・カスタマーといえるかもしれない。


アメリカの弁護士の移籍も基本的な原理は同じなのである。弁護士の市場価値は、その弁護士が移籍したらどれだけのクライアントが一緒に新しい事務所に移ってくれるかによって決まる。ヘッドハンターはポータブルビジネスを持つパートナーに移籍しないかと絶えず電話をかけてくる。

パートナーとして他の事務所に移籍する場合には、新しい事務所の規模によっても異なるが、最低でも1ミリオンダラー(1億円)のポータブルビジネスが必要と言われている。弁護士の数が1000人近くいるような大手事務所では、1億円でも足りないだろう。

ただ、アメリカ政府関係の知名度の高い職についていた弁護士資格のある人を事務所に迎える時は、1億円のポータブルビジネスが要求されない等、例外的な場合もある。

事務所を移籍して、ふたを開けてみたら、クライアントが新しい事務所についてこなかったというような場合、1,2年の間に更なるビジネスを持ってこない限り、パートナーは新しい事務所からお払い箱になる。

アメリカの大手事務所の弁護士が日本の大企業に対して猫なで声で必死に営業するのは、銀座のクラブの女性が猫なで声でお客さんに電話をかけたり、メールしたりするのと同じなのである。


2015年1月23日金曜日

パートナー同士の熾烈な戦い

小さめの事務所で実際にあった話として同僚から聞いた話である。

パートナーの一人(パートナーAとする)が、他のパートナー(パートナーBとする)のクライアントのケースとコンフリクトを生じる儲かる仕事を依頼された。パートナーAは、パートナーBがこの事務所にいる限りはこの事件を受任することはできないし、金が儲からないと考え、ある日、パートナーBの事務所のカードキーを無効にしてパートナーBを事務所から締め出してしまったというのだ。パートナーBは、ここで争っても得られるものはないと、さっさと他の事務所に移籍したようだが、そこまでして、コンフリクトを生じる事件を引き受けたかったのか、恐ろしい限りである。

そもそも、パートナーシップというのは、パートナー同士が協力し合うことで利益を増大させることを目的としているはずであるが、法律事務所がパートナー制度を採用しているのは、その目的ではない。個人事務所は信用されないとか、経費を節減して自分の利益を増大させたいとか、利己的な理由でパートナーシップを組んでいるようにみえる。
パートナー同士協力し合って一緒に営業活動をして、利益を分かち合ってと思っている弁護士はいるのだろうか。疑問に感じざるを得ない。

2015年1月5日月曜日

即独弁護士が受任すべきでない事件

手違いでKindleから購入してしまった「How to Start and Build a Law Practice」という本を読んでいたら、面白いことが書いてあったので紹介しよう。

基本的には、新人弁護士が即独立するために何が必要なのか、アメリカのロースクールを卒業した学生とロースクール在学中の学生向けに書かれている本である。その中に、新人弁護士が受任すべきでない事件の例が書かれていた。

まず最初に書かれていたのは、「あなたがそのケースの2番目または3番目の弁護士である場合」である。最初の弁護士が途中で辞任した、または解任されたのは、何かしら理由があるので、それを判断できないような新人弁護士は引き受けるべきではないというのだ。このようなケースは、勝ち目がないケース、クライアントが非協力である場合、クライアントが弁護士報酬を支払わない場合である可能性が高いからと言っている。これは、まさしく納得でき、日本でも通用する新人弁護士へのアドバイスである。

次に書かれていたのは、不法行為によって精神的な損害を被ったから訴えたいと言っているケースである。依頼者が金銭的な損害を被っていない場合には、引き受けるべきではないというのだ。これも納得である。日本でも当てはまる。特に、お金が目的ではなくて、相手に仕返ししたいから訴えたいと言っているような依頼者の事件を引き受けたら、新人弁護士にとってはアリ地獄に引き込まれるようなものである。

他には、最初に報酬をもらわない限り引き受けてはいけない事件としてリストされているのは、家の賃貸借に関する事件、借金まみれの人たちの離婚事件、刑事事件、破産事件である。これらのアドバイスも、日本で当てはまると思う。

アメリカらしいのは、Slip Falls(滑って転んだ類のケースをアメリカではSlip and Fallと呼ぶ)のケースについては、損害額が実質的にかなり大きい場合でない限り引き受けるべきでないというものである。

最後まで読んではいないが、この本は、即独する弁護士にとっては、たとえ日本の弁護士でも参考になる部分があるようだ。