2014年6月26日木曜日

予備試験合格者の価値

最近、予備試験受験制限に関する議論があるようで、予備試験合格者は優秀だから大手事務所に就職しやすいとかという話もあるらしい。

本当に予備試験合格者の価値を決めるのは予備試験合格者が優秀とかいう話だけなのだろうか。


弁護士の数が増え、弁護士同士の競争が厳しくなれば、生き残るために法律事務所が取りうる手段は限られてくる。下手するとディスカウント競争に巻き込まれることになるが、そうすると、ディスカウントしたことによるしわ寄せがどこかに来る。ディスカウントしてやっていくためには下記のような手法をとる必要があるだろう。

1. 似たような事件のみをやって一つの事件にかかる時間を合理化したうえで薄利多売をする。
2. 個々の仕事の手抜きをする。
3. 勤務弁護士や事務員の給料を安くして長時間働かせる。

1の手法は強力な営業力が必要となる。なぜなら多売が必須要件だからだ。2と3の手法は、事務所として長期的にやっていける手法とは言いがたい。


本来ならディスカウント競争に巻き込まれないことが望ましい。そのために必要なのが事務所のブランド化である。

アメリカの事務所も事務所のブランド化には躍起になっている気がする。事務所の全国ランキングや州別ランキング、スーパー弁護士のランキングなどで上位になるように、色々工作している。

ブランド化を助ける一つの手段として、有名なロースクールをトップの成績で卒業したものしか雇わないことがあげられる。事務所のウエブサイトを見たときに、優秀そうな経歴を持つ弁護士が肩を並べるのがブランド化には好ましい。


ここで日本の予備試験に戻るが、予備試験と法科大学院卒の弁護士とどちらを採用するかとなると、能力や素質が同じであれば、ブランド化に役立つ方を採用するのではないかと思う。

他に安い弁護士報酬で仕事をしてくれると言っている事務所があるけれども、高い報酬を支払っても仕事を依頼するだけの価値のある事務所であるとクライアントに思わせる必要がある。弁護士と言ってもピンきりな時代には、うちの事務所は優秀な人しか雇っていないとクライアントに宣伝できるような履歴を持つ新人をそろえる必要がある。

クライアントが若く予備試験に合格した弁護士の方が優秀と考えるのであれば予備試験組みの方が就職に有利であるし、有名な法科大学院卒の方が優秀であると考えるのであれば、有名な法科大学院の卒業生の方が有利となる。真の意味での能力が直接就職に影響するかと言えば、そうとも言い切れない。能力があってもパートナーからみて使い勝手の良くないアソシエイトは不要である。ただ、ブランド力を高める経歴は必須条件である。ブランド化に欠かせない武器だからである。


そこで、どのようなクライアントをターゲットにする事務所かによっても予備試験合格者と法科大学院卒の就職への有利不利が異なってくるであろう。例えば、ターゲットとするクライアントにアメリカ企業が含まれる場合、有名な法科大学院卒の方が有利ではないだろうか。外資系法律事務所の英語のウエブサイトには、法科大学院卒の場合に、アメリカの3年のロースクールに通ったときに与えられるJDという学歴として記載されているので、アメリカ企業としては自分たちの制度と似たような制度で弁護士になった人を雇っている事務所だから安心だと考えるだろう。また、外資系事務所で、米国事務所のパートナーが雇用に対する発言権を持つ場合には、有名な法科大学院卒の弁護士を選ぶ傾向にあるだろう。自分達と似たような制度で弁護士になった者に対する信頼が高いからだ。

日本企業をターゲットにする事務所であれば、若い予備試験合格者の方が有利であろう。ここまで法科大学院の不人気が周知の事実となり、予備試験の合格率が低く抑えられているので、日本の大手企業の法務部の人たちは、法科大学院卒よりも、若い予備試験合格者は優秀との認識があるだろう。予備試験の合格者が増えすぎるとこのバランスが崩れてしまい、予備試験合格者の就職が有利ではなくなるであろう。


予備試験合格者の価値は、現在の微妙なバランスによって保たれているのではないかと思う。予備試験合格者が優秀かどうかというだけでなく、優秀そうに見えるかどうかが価値を決めるのではないか。













2014年6月13日金曜日

会員を見ていない日本の弁護士会

最近、American Bar Association (ABA) http://www.americanbar.org/aba.html から勧誘の電話がよくかかってくる。
断っておくが、アメリカン・バー・アソシエーションは任意加入団体である。つまり、強制加入団体である日本の日弁連とは全く性質が異なる。つまり、会員にとって魅力のある団体でなければ、会員は余計な費用を支払ってまでアメリカン・バー・アソシエーションに加入しようとは思わないのである。だから、会員にとっての魅力を意識した勧誘になる。つまり、会員が何を望んでいるのか無視することはできないのである。

勧誘員は、アメリカン・バー・アソシエーションに入ると、こんな良いこともあります、こんな良いこともありますと、会員にとっての利益を矢継ぎ早に説明していく。どうやら、項目が書いてある紙が手元にあるようだ。
「今なら、3ヶ月無料でこのサービスが受けられます。継続する義務もありません。どうですか、入ってみませんか。」と言っている。

「結構です」と電話を切ったあと、日本の弁護士会に加入した場合の利益はなんだろうかと考え込んでしまった。

弁護士会に加入しなければ、弁護士と名乗れない、弁護士業務を行わせてもらえない、というのは利益なのだろうか。単に脅迫されて仕方なしに弁護士会に加入している人が多いのではないか。

弁護士会は、弁護士会費を使って、不必要に豪華な会館を建築したり、不必要に人を雇ったり、無駄としか思えない会費の使い方をして、お金を垂れ流している。さらには、強制加入団体でありながら、政治声明など発表している。他の意見を持っている会員の人権を侵害する行為とも言える。

強制加入に甘えて、会員を見ていない日本の弁護士会。強制加入にするなら、弁護士会は本来の目的に縮小すべきではないかと思う。もし、業務を拡大したいなら、任意加入団体にすべきであろう。

2014年6月5日木曜日

金になるクライアントと金にならないクライアント ― 法律事務所はクライアントを天秤にかけている

このブログでも何ども書いているが、アメリカの法律事務所は営利を目的としている。つまり、リーガルサービスを提供することで報酬を得て、事務所として利益を最大限にすることが存在目的なのである。その点は、他の大企業と同じなのである。

そこで、法律事務所として利益を最大限にするための戦略が立てられる。法律事務所の利益とクライアントの利益が相反する場合、法律や弁護士倫理に反したり、法律事務所の評判を損なったりしない限り、法律事務所の利益が優先される。その最適な例が、誰をクライアントにするかである。事務所が大きくなれば必然的にコンフリクトが問題になる。簡単なコンフリクトの例をあげると、L法律事務所がA社というクライアントを代理してA社がB社に対して訴訟を起こした。その後、C社がL法律事務所の他の弁護士にA社に対して訴訟を起こしたいからL法律事務所を使いたいと言ってきた場合、L法律事務所はA社をクライアントとして抱えたまま、A社に対して訴訟を提起する代理をするわけにいかない。つまり、どちらかを選択しなければならない。

C社がA社に対して起こそうとしている訴訟がとても大きな訴訟で、年間の売り上げ予想が3億円だったとしよう。それに対して、A社がL法律事務所に支払っている年間の弁護士報酬が1000万円だったとしよう。A社のケースとC社のケースを天秤にかけた場合、どちらが重いかは明白である。A社を事務所から追い出してC社のケースを受任できる方法があれば、利益を最大限にしようと考えている営利団体である法律事務所は、C社のケースを受任できる方法を選択するだろう。そのためには、A社をクライアントとしているパートナーを追い出すことすらある。

一般のビジネスに置き換えてみれば当然のことである。つまり、年間1万個しか製造する能力がない会社が、E社というディスカウント値段で支払いが納入後90日という条件で1万個購入してくれる会社と取引をしている時に、F社という20パーセント高い値段で支払いが納入後30日という条件で1万個購入してくれる会社から購入の申し込みを受けた場合、E社との取引をやめてF社と取引するのが利益を最大限にするビジネス的判断であろう。

法律事務所も自由競争をさせれば、通常のビジネスと全く同じようにビジネス判断をするのである。

法律事務所も規模が小さいうちは、事務所の規模を拡大して社会的な知名度を高めるために小さい会社の事件を引き受けたり、有名な会社の事件をただ同然で引き受けたりする。

しかし、規模が大きくなり、ある程度クライアントを選択できる立場になると戦略的にだれのどのような事件を引き受けることが事務所の利益拡大につながるのか戦略を立てるようになる。つまり、儲からない仕事を持ってくるクライアントの事件を引き受けないのである。

このように法律事務所はクライアントとその事件をいつも天秤にかけて測っているのである。このようにして、お金のある企業とお金のない企業で受けられるリーガルサービスに違いがでてくる。

日本で司法改革によって法律事務所も自由競争を叫んでいる人たちは、これが真の意味の自由競争であることを分かっているのだろうか。