2012年11月27日火曜日

パートナーにも格付けあり その1


事務所のパートナーは皆平等と考えるのは間違いである。パートナーにも格付けがあり、事務所内の権力はそれによって全く異なる。

私の知る限り大きく分けて3つのタイプのパートナーがいる。エクイティー・パートナー、ノン・エクイティー・パートナー、サービス・パートナーである。エクイティー・パートナーは事務所の売り上げから経費や報酬などを支払った後の利益に対する分け前がもらえるパートナーである。どの程度分け前がもらえるかは契約によって決まる。

例えば、ウィキィペディアによると、元ニューヨーク市長のジュリアーニは2005年からBracewell & Giulianiというテキサスのヒューストンを拠点とする法律事務所のニューヨークオフィスに入り、ベースの報酬が100万ドルでニューヨークオフィスの利益の7.5パーセントを受領する契約をしているようである。

次にノン・エクイティー・パートナーであるが、基本的にエクイティー・パートナーでなければノン・エクイティー・パートナーということになる。
ノン・エクイティー・パートナーの中には、さらに格付けが低い俗にサービス・パートナーと呼ばれている人たちがいる。事務所内の政治勢力に十分な注意を払いながら上手にへつらうことで生き延びている人たちである。

パートナーになるにはクライアントがある程度ついていることが必要であるが、クライアントがいなくてもパートナーになっている人たちがいる。それが、サービス・パートナーである。彼らはクライアントを持っているパートナーから仕事を与えてもらってサービスをしているわけである。アソシエイトだけに大きな仕事を任せておくとクライアントが心配になるから対外的な意味もあるのかもしれない。また、パートナーと名がつけば、アワリーレートが高くなるので、クライアントを持っているパートナーとしても得になる。以前「パートナー同士のクライアント獲得合戦」で説明したとおり、ビリング・パートナーは自分のクライアントからの売り上げの一定割合を誰が働いたかに関わらず貰えるからである。

 

つづく。。。

2012年11月17日土曜日

日本の大企業就職には米国弁護士資格の方が有利?


 
日本でいわゆる二流の大学の法学部を卒業して、卒業直後にアメリカの有名なロースクールでLL.M.という1年のコースを卒業し、その後ニューヨーク州の司法試験に合格して、日本で就職してまもない人が、「リクルーターから転職しないかと連絡が来ることがよくあるんです」という話をしていた。
ある日本の大企業の法務関係者に「最近では、日本の弁護士資格を持っている新人より、アメリカの弁護士資格を持っている新人の方が就職しやすいのですよね」と聞いてみたことがある。すると「まさしくそうなんですよ。おっしゃるとおりなんです。弊社でも最近、弁護士資格を持った人を積極的に採用しようということで、求人を出し、日本の弁護士資格を持った人と、アメリカの弁護士資格を持った人が応募してきたんですよ。でも最終的にはアメリカの弁護士資格を持った人を採用しました。」との返事が返ってきた。
日本の大手企業の管理職の人がこんなことを話していた。「うちの会社じゃ、未経験として採用できる最高年齢は25歳までだから、就職時に26歳になっていたら、未経験者としての採用は絶対無理だねえ。だから法科大学院卒業の弁護士が就職時に26歳以上になっていたら、採用は考えられないよ。」
(注:大学卒業後、法科大学院に2年、司法試験を一発で合格して修習という最短コースでも修習が終わって弁護士になるころには多くの人が26歳になっている。ただ、早期に予備試験に合格すれば問題がない)
とある日本の大企業の日米両方の弁護士資格を持つ社内弁護士が、「うちの部署で英語ができない人は一人前とみなされない。」と言っていたのを覚えている。
色々聞いてみると米国弁護士資格を持った新人の方が日本の弁護士資格を持った新人より有利である理由が分かってくる。
1LL.M.1年のコースを出たのであれば、年齢が25歳以下と若いので、特別扱いをせずに通常の新卒として入社させられる。
2. 英語で法律文書の読み書きができるのでグローバル化に有利。
3. 名刺に米国弁護士と書けるので海外の会社と交渉するときに有利。
4. 弁護士登録を続けるための維持費が日本の弁護士と比較して格段に安い
(日本の弁護士:年間60万円から100万円の弁護士会費の支払い義務(ただ最初の数年は優遇あり)プラス会務の義務
ニューヨーク州弁護士:2年で375ドル(4万円未満)の登録料の支払い義務)。
その点からも、米国弁護士を他の社員と比較して特別扱いする必要が少ない。
 
法学部の学生としても、円高の今であれば、アメリカに留学した方が有利ということになる。日本で弁護士になる為には、少なくとも2年間の法科大学院に通って350万円くらいの学費を支払い(生活費別)、貸与制の修習で300万円の借金を負うことになるが、最近は弁護士になってから就職先があるかどうか分からない。650万円あれば、1ドル80円台の今、学費と生活費込みで十分LL.M.留学が可能である。

2012年11月15日木曜日

法律事務所の辞め方 ― その2

 

つづき。

パートナー弁護士がクライアントごと事務所を移籍する場合は、事務所内のお家騒動のような状態になることもある。特に、稼ぎが良いパートナーとその下で働くアソシエイトやパラリーガル、秘書などがチームとなってごっそりと移籍する場合は大騒動である。

辞めるパートナーも用意周到に移籍の準備を進めているが、直前になるまで口外しない。事務所内の他の弁護士も全く知らされていない。事務所内の他のパートナーがそれに気付いて、クライアントを持っていかせないように何らかの対策をとるかもしれない。例えば、法律事務所は移籍しようとするパートナーが事務所サーバにアクセスできないようにするとか、移籍しようとするパートナーの事務所メールのアカウントをシャットダウンするなどして、裁判所に係属中の事件の電子データにアクセスできないようにすることだって可能である。そうすれば、クライアントはしばらくの間は旧事務所の他のパートナーに仕事を続けてもらわなければならないので、移籍するパートナーと共に新事務所に移らなくなってしまう可能性もある。

そこで、最悪の場合を考え、現在所属している事務所に事務所を移籍することを話した次の日から移籍先の事務所でそのクライアントの業務を継続できる程度の用意をしておく必要がある。電子データを全てコピーし、新しい事務所でのメールアカウントを作成してもらい、クライアントに事前に内密に話を進め、移籍先の事務所についてきてもらえるとの確認を取る。クライアントが旧事務所に対して「依頼先の事務所を変更しますので、全ての書類を○○事務所の○○弁護士に送ってください」というレターを直ぐに提出できるように、レターの起案をして渡しておくなど準備をする。そのようなやり取りをクライアントとする際には事務所のメールアドレスは一切使わない。個人メールなどを使って、裏で着々と準備をするのである。

事務所を辞めるという話をした際に、事務所がどのような反応を示すかは、事務所の体質や、引き連れていくクライアントの大きさや仕事の量などで違ってくるが、まず考えるのは、クライアントを持っていかれて売り上げが下がってしまわないか、その対策をどうするかである。

移籍するパートナーのビジネス、法律事務所のビジネス、全てビジネスという尺度を基準に事が運ぶのである。

2012年11月10日土曜日

法律事務所の辞め方 ― その1


事務所を自発的に辞めて転職する場合もアメリカの法律事務所ならではの特徴がある。

事務所を辞めた後の転職先として大きく分けると、他の事務所に移籍する場合と、企業のインハウス弁護士になったり政府機関の弁護士として働く場合がある。他の事務所に移籍する場合にも大きく分けると二つのパターンがある。アソシエイトレベルの弁護士が仕事のある他の事務所に移籍する場合と、パートナーやカウンセルレベルの弁護士がクライアントを持って他の事務所に移ってしまう場合がある。これ以外にもパートナーやカウンセルレベルの弁護士が一人でまたは友人らと個人事務所を立ち上げるために辞めることもリーマンショック後増えてきたように思うが、ここでは割愛する。

企業のインハウス弁護士として転職する場合、「自分はこんなに職場で大事にされてきたんだ、本当に良い職場だった」と誤解してしまうくらいちやほやされながら転職することができる。特に、転職する企業が大手企業であればあるほどである。これが何を意味するかというと、法律事務所はその転職先の企業を将来的にクライアントにできないかという下心があるのだ。つまり、インハウス弁護士とこれからも良い関係を保ちながら連絡を取り合い、その企業が外部の弁護士を使うときには是非うちの法律事務所を使ってもらおうという下心がある。従って、大手企業のインハウスになるために事務所を辞める時には、非常に円満に辞めることができる。事務所のお金でお別れディナーをやってもらえるかもしれないし、今後も事務所でのクリスマスパーティーなどに招待されるかもしれない。

他の事務所に移籍する場合、アソシエイトレベルが、他の事務所にアソシエイトとして移籍するために事務所を辞める場合、問題が生じることはあまりないが、インハウス弁護士になる場合のような良い待遇は受けられない。通常、辞める2週間前にパートナーに辞める旨を伝える。考え直さないかとひきとめるパートナーもいるが、次の事務所が決まっている場合にひきとめることは難しいので、どこまで本気でひきとめようとしているのは分からない。事務所もお別れランチを数人で食べに行くくらいのお金は出してくれるかもしれない。

一番問題が多いのは、パートナー弁護士がクライアントごと事務所を移籍する場合である。
 

つづく。。。

2012年11月6日火曜日

クライアント待遇の天国と地獄 - その2

クライアント待遇の天国と地獄 - その1

つづき

ビジネス最優先主義の弊害として聞くことがあるのが、他のクライアントにコンフリクトが生じそうになったときに経済的利益が少ないと思うクライアントのビリング・パートナーを追い出すという手法だ。

あるパートナーに前の事務所から今の事務所に移籍した理由を聞いたところ、「僕についているクライアントの事件とコンフリクトがあって大型でビジネスになる事件を受任したかった他のパートナーが、裏から手を回して事実上僕を追い出した」と答えた。つまり、コンフリクトのために両事件ともには受任できない二つのクライアントの事件を天秤にかけて、利益の少ないクライアントを持っているパートナーをクライアントごと事務所から追い出して、コンフリクトの問題を解消した後に、利益の多い事件を受任したというのである。

詳しい金額は想像に過ぎないが、先に来てくれたクライアントが年間1000万円の仕事しかくれないから、そのクライアントを追い出して、後から来た年間2億円の仕事をくれるクライアントの事件を引き受けたという感じなのである。

アメリカではクライアントは事務所ではなく、パートナーについているのが一般なので、クライアントを追い出すには、そのクライアントがくっついているパートナーを追い出すのが一番なのである。

最初にこの話を聞いたときはさすがに驚いたが、似たような話は他でも耳にするので驚かなくなった。

例えば、あるアメリカ人弁護士の話である。とある大型事務所に移籍した後、前の事務所でのクライアントたちを回り、新しい事務所に事件を移して欲しいと依頼して了解を得た。クライアントの事件を移す事務処理も全部終わってひと段落した後、他のパートナーから突然「事務所を辞めて欲しい」と言われた。「移籍して間がないし、クライアント全員に挨拶回りして、事務所を移すことに同意してもらってその手続きも全部済んだばかりなのに、何故なのか」と訪ねると、「理由はいえない。もし自発的に辞めないなら、こちらから解雇という形を取らなければならない。」といわれ、仕方なく自ら辞めることにしたそうだ。後で判明したそうだが、その大型事務所は他の大型事務所から優良なクライアントを持っている有名な弁護士を引き抜こうとしていたのだが、引き抜きの約束として、その優良なクライアントとコンフリクトのある事件を持っているパートナーを追い出すことというのがあったらしいというのだ。東京にもオフィスがある某大型事務所での出来事である。

クライアントをビジネスという天秤にかけて、判断したわけだ。リーガルサービスをすることでビジネスをやっているのだから、ビジネスを最優先にする判断をしても当然と思っているのかもしれないが、クライアントからすれば、とんでもない話である。

日本の事務所でこのような話は聞いたことがないし、今後も行われないことを望むだけだ。
ただ、私が知らないだけかもしれないが。。。