2018年4月20日金曜日

二世弁護士の落とし穴

以前から知っているあるアメリカの中堅ブティック事務所のウエブサイトを何気なく見てみた。すると、パートナーの半分近くが急にいなくなっていた。さらによく見てみると、事務所の権力者であるネームドパートナーの息子がアソシエイトとして事務所に入所していた。
以前、そのネームドパートナーが、息子に後を継がせたがっているという噂を聞いたことがあった。

はあ~、そうか、きっとこれが原因か。


ある程度の数のパートナーがいる事務所であるにも関わらず、ネームドパートナーが事務所名に自分の名前が入っているために自分個人の事務所であると勘違いし、自分の子供に引き継がせようと無理をして、事務所が分裂したという話はよく聞く。

一定の年齢になると、子供に自分の事務所を継がせたいという気持ちになるのだろうが、完全に自分一人にだけクライアントがついている個人事務所のような事務所でないと、事務所内騒動の原因となる。経験が浅く、生意気な息子をパートナーにしようとすれば、ポータブルクライアントを持っているパートナーがそれに反対して、クライアントを持って他の事務所に移籍しようとする、またはパートナーがまとまってクライアントごと外にでて新しい事務所を設立するというのは理解できるし、実際にこのような話も聞く。

そのような内部抗争に嫌気がさして、息子までもが事務所を継がせようとする親を見放したという話もある。



思慮深い親であれば、他に何人かパートナーがいる事務所に子供を就職させないようにするのが得策なのかもしれない。

2018年4月16日月曜日

新卒就職の売り手市場と日本の司法試験

以前、司法試験の受験者数と、新卒の就職が売り手市場か買い手市場かは、相関関係があると思ったことがある。
つまり、景気が落ち込んで新卒の就職率が下がると、その3年後くらいから徐々に司法試験の受験者数が増加する。
景気が回復し、新卒の就職率が上がると、その後、司法試験の受験者数が減少する。

特に顕著なのが、昭和60年代のバブル期である。その直前まで司法試験の合格率が2パーセントを切っていたので、司法浪人がかなりいたと思われるが、バブル期に入ると、新卒のみならず、司法浪人だった人まで、就職先を見つけて司法試験をあきらめたと思われる。その証拠に、それまで伸び続けた司法試験受験者数が減少している。
さらに、バブルが崩壊して就職氷河期が到来するが、その3年後くらいから旧司法試験の受験者は増加の一途をたどった。

旧試験の受験者数と合格者数の推移 (法務省ウエブサイトから)
http://www.moj.go.jp/jinji/shihoushiken/press_081009-1_20syutu-gou2.html


現在、新卒の就職は売り手市場と言われているが、これによってさらに法科大学院への進学が減少することが予想され、弁護士資格の魅力が減少したことによる進学者の減少に追い打ちをかけることになるだろう。


もう、法曹界を活性化することはできないのであろうか。
諦めるのはまだ早いのではないか。

司法試験を活性化させるためには、法科大学院卒業を司法試験受験要件から外すことであるが、その理由は、今まで法科大学院反対者が一様に唱えてきたものとは少し違う。

現在、終身雇用が崩れてきており、終身雇用を信じて就職した世代、特にバブル就職世代が、終身雇用が崩れてきたことに危機感を感じて、仕事を続けながら何らかの資格やスキルを取得したいと考えている。70歳まで働かなければならない時代、40代から50代前半は、70歳まで働くために備えなければならない時期であり、文系の人にとって司法試験は魅力的な資格に見えるかもしれない。新卒が司法試験だけ合格しても社会経験と人脈がないために役に立たないことが多いが、この世代の経験豊富で人脈豊かな地頭の良い人が司法試験に合格すれば就職の役に立つだけでなく、社会の役にも立つであろう。
しかし、この世代が司法試験を受験したいと思っても法科大学院卒業の壁が立ちはだかり、予備試験は重荷すぎる。

天下りが世間から批判されている国家一種試験を合格したキャリア組は、40代後半から50代には、官庁内のポストが減少するため、外に出なければならない状態に追い込まれることがある。法科大学院卒業の受験要件がなくなれば、もともと地頭が良かった彼らなどは喜んで司法試験を受験するだろう。現に予備試験を受験すると言っていた人に会ったこともある。

社会で経験を積んだ地頭の良い人たちが、司法試験を受験してくれれば、法曹界も以前のような活気を取り戻せるかもしれないし、まさしく企業が望んでいるような経営と企業を理解し海外についても理解しているような弁護士が誕生する可能性を高くするのかもしれない。

法曹界が死に体になる前に対策を打てないものだろうか。

2018年4月4日水曜日

法科大学院の二の舞か

日経新聞が、「日本式ロビー活動 永田町から大阪へ、地方へ」という記事を書き、アメリカのロビー活動を美化している。

ロビー活動は、資力のあるものが合法に金の力を使って、議員たちに自分の言うことを聞かせようとする活動にすぎない。実際、ロビーストのロビー活動で重要なのは、重要な人脈を持っていて如何に裏情報を集められるかである。つまり、どれだけ政治家のお友達を持つかである。

アメリカではロビーストが登録制だから公平と言ってみても、実際に働きかけをせずに裏情報だけを集めている人は登録していないことも多い。

アメリカでは多くの企業、アメリカ以外の国の政府までもロビーストにお金を支払って活動してもらっているが、実際には単にぼったくりなのか、役に立っているのかあまり分かっていない場合も多いようだ。

ウーバーがアメリカで拡大する際に規制緩和を求めてロビー活動をしたことは知られているが、彼らは同じことを日本でもやっているようである。

アメリカでは、議会議員の多くが弁護士資格を持ち、日本とは比較にならないほど多くの弁護士資格を持つ秘書を抱えており、すべての法案は議員立法案としてあがってくる。だからこそ、議員に対して法制の提案をするというロビー活動が成り立っているのである。

これに対し、弁護士資格がない議員が圧倒的多数で、秘書の数が非常に少なく、法案作成ができるような秘書は皆無で、すべての法律は官庁が起案している日本では、ロビー活動の基礎がないのである。直接官僚に働きかけをしたら、それこそ問題である。

アメリカを真似して、「日本式ロビー活動」とは、日本とアメリカの違いを十分に考えずにアメリカのロースクールを真似した法科大学院制度を導入した時のことを思い出さずにはいられない。

2018年3月19日月曜日

マチ弁の経営が苦しくなりやすいもう一つの理由

あまり話題にならないが、マチ弁として事務所を経営するのが難しい理由として忘れてはならないことがあると思う。

それは、個人と企業の税金に関する弁護士費用の位置づけである。

つまり、企業にとって弁護士費用は課税の控除となる経費であるが、個人にとっては、すべての税金等を支払った後の手取りからさらに払うことが要求される完全なる余計な出費である。

企業の業績が良い時期には、弁護士に支払った費用は、課税額から控除されるので、弁護士に支払った費用の重みは、すべての税金等を支払った手取り金から支払わなければならない個人と比較するとかなり軽いものとなる。

それだけではない。日本の過去10年くらいを見ると、国際競争力を鑑みた政策を理由に法人税はここ減額されているが、高齢化社会を背景に個人から徴収される税金等は逆に増えている。消費税増税も個人により重くのしかかのしかかる。
アメリカでもトランプ政権による大型法人税減税が成立した。

ここ10年で企業が弁護士費用にまわせる金額は同じか増えていると思われるが、個人に関しては減っていると思われる。

マチ弁の経営が苦しくなる理由は、弁護士の増加とか、ネットの普及など、他にも色々あると思うが、このような理由を挙げる人は少ないと思うので、一言付け加えたい。