2015年4月28日火曜日

高額所得者層の弁護士は減少しないだろう

通常、他の方のブログに対して感想を述べることはないのであるが、これはコメントをしておきたいというものを見つけたので、一言述べたいと思う。

http://jsakano1009.cocolog-nifty.com/blog/2015/04/post-e9c5.html

高額所得者層の減少が思ったほど見られないのは意外だ。まだまだ儲かっている弁護士も多いということだ。しかし、なにせ今後も大増員に伴う新規参入者が止めどなく入ってくるのだから、徐々に値崩れを起こして高額所得者層も減少していくだろう。

という部分である。

弁護士の数が増えたからといって、徐々に値崩れして高額所得者層の弁護士は減少することはないだろう。
最終的には、一部の高額所得者層の弁護士と、その他大勢の貧しい弁護士という構造が出来上がる。弁護士の質にばらつきが大きくなり、経験不足の弁護士も数多くいると言うことになれば、小規模な事務所が安くサービスを提供したとしても、安かろう悪かろうの推定が働く。失敗を極度に恐れる大手企業は、高度な法的問題に関しては、高くても大手で、優秀に見える経歴を備えた弁護士がウエブサイトにずらりと並んでいて、経験豊富で、弁護士ランキングで上位になる事務所の弁護士に仕事を集中させるのである。すると、そのような事務所の弁護士報酬は一向に下がらないのである。仕事が数箇所の事務所に集中すれば、他の事務所は同じようなケースについて経験を得られない。すると、経験弁護士の数は増えないので、結局同じ事務所に仕事が集中する傾向は強まり、大手事務所の弁護士報酬を下げるという市場原理が働かない。有名事務所の弁護士報酬がいくら高いとしても、安くやりますよっと宣伝する事務所に仕事を頼むという危険は冒せない。なぜなら、弁護士の質が下がって経験不足の弁護士が増えているからである。間違って、未経験の事務所に頼んで大失敗をしたら、法務部長が責任を取らされる危険もある。

一見すると堂々巡り状態に見えるが、これが現実である。この悪循環に陥ると高額所得者層の弁護士は減少しないのである。アメリカでは腐るほど弁護士がいるが、1時間に10万円以上請求するような弁護士がいるのである。大手事務所のパートナーのレートは1時間600ドルから800ドル程度である。それでも、大企業は小さな経験のない事務所に依頼できないので、それだけのお金を払っても大手事務所に依頼する。

これから弁護士になる人は、企業に通常に就職するのでなければ、一握りの高額所得者層の弁護士になれるか、それともその他大勢の貧乏な弁護士になるか、ギャンブルである。
自分は超優秀だから、絶対に高額所得者層の弁護士になれると、この業界に足を踏み入れるという過ちだけは決して犯さない方がよいだろう。

2015年4月22日水曜日

50時間のプロボノが必要?

ニューヨークの司法試験を受験した人が、「今、研修先の事務所の弁護士に混ぜてもらって刑事事件をやっているんです。」というので、「企業から派遣されているのに、なんで刑事事件なんてやっているんですか?」と聞くと、「今年から、ニューヨーク州で弁護士登録するには、50時間のプロボノをやらなければならないんです。なので、登録するためにプロボノとして刑事事件をやらせてもらっているんです」と答えていた。

この50時間のプロボノというのは、外国人(アメリカ人以外の人)にはかなり大変な要件なのではないか。何らかのコネクションがない限り、プロボノをやる機会などないような気がする。

これからは、「ニューヨーク州弁護士」と名刺の飾りのようにつけている人は減るのだろうか。

これから、アメリカのロースクールに留学する人は、プロボノとして何をやらなければならないのか、プロボノをやった証明はどうやって得られるのか、プロボノをやるためにどうすればよいのかなどを留学前から準備する必要があるのかもしれない。

2015年4月19日日曜日

競争激化はクライアントにとって何を意味するのか?

アメリカの弁護士を見ていると、弁護士業務という観点からは無駄が多い。つまり、弁護士は通常の弁護士業務に必要なこと以外に多くの時間とお金と神経を費やしているのである。

特に、弁護士の競争激化が原因ではないかと思う。
たとえば、20年前の日本の弁護士であれば、営業に費やされる時間とお金は、年賀状、暑中見舞い、適当にネットワーク会合に出席する程度ではなかったか。日本の弁護士であっても、今は、事務所のホームページや、パンフレットの作成、営業活動に割かれる時間やお金は圧倒的に増えていると思う。

アメリカの事務所が営業に割いている時間とお金は日本の事務所では考えられないほどである。

日本であれば、大手事務所と言われている事務所は5つしかない。コンフリクトの問題があるので、5つよりも少ない事務所がすべての日本の大企業の仕事を独占することは無理である。そこで、営業活動をしなくても大手事務所というだけで仕事が来ると言うことはあるだろう。

しかし、アメリカでは規模が100位の事務所でも、500人以上の弁護士が所属している。つまり、大手事務所だけでも、100以上を余裕で超える数あるわけである。競争は考えられないほど熾烈で厳しい。

そこで、営業活動に手を抜くことはできない。営業のためだけの部署にビジネススクールを卒業した人が働いている。既存のクライアントや、クライアントになりそうな会社の関係者に高級レストランで食事をごちそうすることは日常茶飯事である。事務所のウエブサイトを専門家に作成してもらい、パンフレット、販促品(事務所のロゴが入った備品等)を作ったり、外部の業者がやっている事務所ランキングで上位になるための色々な対策をとる等、金と時間がかかる様々な営業活動をしており、クライアントが支払っている弁護士費用がこのような営業活動を支えている。アソシエイト弁護士ですらは、普段の業務の他に、このような営業活動についても年間何時間か働くことを要求される。

弁護士の数が多くなると、必然的に儲かっていない弁護士が出てくる。クライアントは、儲かっていない弁護士は能力がないのかもと不安になり、依頼を控える可能性がある。そこで、一等地に立派な事務所を構えて、立派な応接室、会議室を備えることになる。この事務所は儲かっているんだとクライアントに見せるためである。

他の事務所との競争に勝つために、法曹界の有名人や、有名な元裁判官、連邦政府の重要な職に就いていた者を巨額の報酬を支払って雇おうとする。

営業に割く時間とお金はすべてクライアントの報酬から拠出されていると考えると、クライアントにとって、良いことなのだろうかと疑問に思わざるを得ない。

また、競争が激しいアメリカならではであるが、事務所内の他の弁護士も自分のクライアントを奪い去っていくかもしれない競争相手である。そのために、神経を使ったり、クライアントにとっては最善と言えないことが起こる。たとえば、ある弁護士から聞いた話であるが、ある女性弁護士は、自分でその訴訟事件を担当するより、他の弁護士と共同で仕事をした方がよいことは十分に分かっているが、そんなことをしたら、他の弁護士にクライアントを奪われてしまうので、すべて自分で仕事をしているというのだ。しかし、無理がたたって、突然死してしまったということだ。

ここでは名前をあげないが、同じ事務所内の弁護士同士の戦いが激しい事務所として有名な事務所もある。パートナーが互いに背中から刺し合っているような事務所もある。アソシエイトに直接クライアントに接しさせないようにするパートナー弁護士、仕事を細分化して全体像が見えないようにしてアソシエイトを使うパートナー弁護士の話も聞いたこともある。

また、競争激化によって、仕事を選ぶ傾向が強くなる。利益率の低い仕事は何らかの理由をつけて引き受けないのである。

このように見ていると、弁護士同士の競争が激化することは、クライアントにとって本当に良いことなのかと疑問を抱かざるを得ない。

2015年4月12日日曜日

弁護士を雇うのは一苦労

日本でもアメリカでも大きく分けて二種類の弁護士の求人がありうる。一つは、未経験者で、もう一つは経験者である。

未経験者を雇うのは、大いなるリスクである。使えるようになるかもしれないし、ならないかもしれない。弁護士という資格が簡単に取得できるアメリカでは、弁護士という資格を持っている人を雇ったからといって使えるようになるかどうかわからない。また、もし使えるようになったとしても、その途端に、もっと給料の高い事務所に移籍してしまうかもしれない。

そこで、大手事務所以外は、経験者を雇おうとする傾向が強い。しかし、適当な経験弁護士を見つけるのは一苦労である。
アメリカには弁護士が星の数ほどいるのだから簡単なことではないかと思うかもしれないが、それは大間違いである。
たとえば、ロースクールを卒業して司法試験に合格した人が、年間1万人いたと仮定しよう。しかし、ロースクールを卒業後にロースクールの新卒として、企業法務の実務経験を得られる職に就ける数が2000人だったと想定しよう。残りの8000人はロースクールを卒業した未経験者でしかない。彼らは翌年になっても翌々年になっても企業法務未経験者のままである。つまり、毎年未経験者を雇う大手事務所であっても、今年ロースクールを卒業した未経験者を雇うのであって、1年前にロースクールを卒業した未経験者を雇うことはないのである。

つまり、どんなに弁護士を増やしても、経験豊富な弁護士が増えることはないのである。経験を積むという重要な部分は、最初の就職という入り口で絞られてしまい、経験弁護士の数は増えないのである。

更に、経験を得る機会を与えられた2000人も簡単な司法試験を合格したというだけなので、必ずしも優秀な弁護士に育つという保証はないのである。たとえば、日本の旧司法試験くらい難しい試験に合格した人であれば、実務経験があれば、95%が優秀な弁護士に育ったのに、簡単な試験に合格しただけの人が実務経験を得ても70%しか、優秀な弁護士に育たないという感じである(パーセントは分かりやすいように適当な数字を入れただけである)。
つまり、弁護士になれるものを試験で厳選して2000人に絞っていれば、2000人のうち1900人の優秀な経験のある弁護士が発生したのに、司法試験を簡単にしたことによって、1400人の優秀な経験のある弁護士しか発生しない計算になる。

つまり、星の数ほど弁護士がいるために、逆に優秀で適切な経験を経た弁護士の数が少なくなり、経験弁護士を雇うのが難しくなるのである。皮肉な結果である。