2014年12月29日月曜日

弁護士業界だけが特別ではないはず

弁護士業界の不振が言われるようになってから、業界として大変なのは弁護士業界に過ぎず、どの業界も同じだという人がいるが、弁護士業界だけが特別でないとは、そのような意味でというわけではない。

弁護士に限らず、どの業界でも生き残るために要求されていることは同じであり、弁護士業界だけが特別ではないということである。

つまり、①業界の未来を見通す目と、②その見通しをもとに、過去の固定観念と過去の栄光や成功にしがみつかず、③見通した未来を迎えるためには何をすれば良いのか判断する判断力と④それを実行する実行力が必要である。
特に現在のように変化のテンポが速い時代には、過去はこのようにやってきたのでそのまま同じようにやり続ければよいという考えの人間は生き残れない。上記の①から④のどれかが欠けても生き残れないのだ。

バブル期に一世を風靡した日本企業が弱体化したのも、上記の①~④までの一つ以上の条件が欠けたためである可能性が高い。最近では、過去のディスプレイ事業の栄光にしがみついて亀山に大きな工場を建設して失敗したシャープなどは良い例なのではないかと思う。

弁護士業界もロースクールができて、最終的には毎年3000人が司法試験に合格するとの方針が決められた時点で、業界が大変なことになるとの見通しは、その当時に弁護士であれば誰でも分かっていたはずである。つまり、①の見通しはあったはずである。その見通しを頭の中でかき消そうとしていた弁護士もいたと思うが、心の奥底では分かっていたはずである。

ロースクールができた当時の弁護士にとって難しかったのは②と③であろう。あれだけ難しい司法試験を合格して、弁護士ということで皆から信頼を受け、ちやほやされた弁護士にとって、過去の固定観念と過去の栄光を捨て去るのはほとんどの弁護士にとって難しかったことは容易に想像できる。また、ビジネス感覚を磨いてこなかった日本の弁護士にとって、将来起こる可能性が非常に高い弁護士業界不況に備えて何をすればよいのか分からない人が多かったことも容易に想像できる。

ロースクールの募集が始まった後の最初の5年は、弁護士業界不況に備えるために与えられた猶予期間であり、この期間に過去の固定観念を捨て、将来に備えて思い切ったことを始めた弁護士と、目新しいことは何もせずに、ただただ予想される不況を待っていた弁護士との差がでてきているのではないかと思う。弁護士ドットコムを始めた弁護士などは、前者の例の代表のようなものであろう。

変化のテンポが速くなっている現代では、業界の将来を見通す目と、その見通しをもとに、過去の固定観念と過去の栄光をすてさり、将来に備えるために今までの常識にとらわれない対策をたてる能力、それを実行する実行力がなければ、どの業界でも生き残れないのである。弁護士業界に限ったことではないのだ。

コンピュータ化による効率化が進み、現在ある職業のかなりが将来的になくなると言われている現在、固定観念と過去の成功にしがみついている暇はないのである。

2014年12月24日水曜日

非難すべきは高額な弁護士会費なのでは

大手企業に勤めていた人が、リストラや出向で大手企業の肩書を失った時に、周りの人態度がガラッと変わってショックを受けることはよくある。

そんな時、弁護士という資格は他人から与えられた企業内の肩書と違って自分に付属しているものなので、弁護士会費を支払っている限り、他人から取り上げられることはない。「弁護士という資格はよいかもしれない」という考えが、頭をよぎることがある。

しかし、ここで何度も言っておくが、弁護士会費を支払っている限り、である。

ロースクールの学費は、2年または3年支払えばよいが、弁護士会費は、弁護士登録を続けたいと思うのであれば、一生払い続ける必要がある。年間60万円くらいの弁護士会費をたとえば、40年払い続けたらどうなるか。考えるだけでも恐ろしいが、2400万円である。

これだけのお金を支払って、弁護士という肩書を維持する必要があるのだろうか。

アメリカの弁護士資格の場合、登録の費用が非常に安い。ニューヨーク州は、2年間で375ドルを支払っているだけである。1年にすると、200ドルかからないのである。これなら、肩書だけとして持っておくためであっても問題ない。また、この肩書があれば、TOEICの点数を申告しなくても、英語はできるという証拠になる。それなら、費用対効果としても、悪くない。

最近円安ではあるが、日本の会費はニューヨーク州の20倍を超えている。

確かに、ロースクールは日本の実情に合っていない問題のある制度であるが、非難すべきはまず、高額な弁護士会費ではないかと思う。
弁護士会費は、新しい弁護士の新規参入を妨げているだけでなく、弁護士の自由な競争を妨げている。弁護士会費がアメリカ並みに安ければ、弁護士登録をする人も増えるし、いったん登録した人はそのまま登録を続けるだろう。登録を続ければ、誰かから頼まれて弁護士として法的アドバイスをすることもあるだろう。また、弁護士登録をしたままの者が、色々な分野に入っていくことになるだろう。弁護士会費をアメリカ並みにすることは、司法改革の理想を実現する近道となるのは明らかである。

今のままの高額な弁護士会費であれば、登録を続けなければ仕事ができない、誰かが登録費用を支払ってくれる、登録した方がしないよりも会費分を差し引いても収入が増えることが確実な人しか登録を続けないだろう。

弁護士会費を支払えないために廃業した人たちが集まって、職業選択の自由を侵害するとして訴訟を起こしてくれないかと思う。
強制加入は職業選択の自由を侵害しないとの判例があったとは思うが、弁護士の低収入が問題になっているなか、このような高額な弁護士会費を維持し続けることは、職業選択の自由を侵害していると言えないだろうか。

2014年12月20日土曜日

アメリカの司法試験科目に変化?

3年間のJDコースのロースクールを卒業して、この夏にニューヨーク州の司法試験を受験したアソシエイトが試験に落ちてしまったようで、クリスマスから無給休暇をとって来年2月の試験に備えることにしたと話していた。
JDコースを出ていて司法試験に不合格というのは少数派なので、彼が落胆しているのも無理はないが、落胆する理由はそれだけではないようだ。
全州共通の択一試験があるのだが、その試験科目に変化があり、今まで科目でなかった民事訴訟法が択一試験の科目に加わるようだ。

全州共通の択一試験は午前の3時間で100問、午後の3時間で100問、合計200問の問題を解く試験である。州によっては足切り点を設定しているところもあるが、約75パーセントくらい正解すれば、足切りされることはないといってよいだろう。
英語がネイティブでないと、3時間で100問解き終わること自体が難しい。

今までなかった科目が加わったので、どのような問題が出るかも分からないし、問題集なども充実したものはないだろう。7月の試験に不合格になった人がいつも以上に落胆するのも納得できる。

2014年12月9日火曜日

大手事務所から振り落とされる弁護士

過去にアメリカの超大手事務所で働いていた弁護士の話である。


ある都市に大手事務所のオフィスで、ある特定の分野の弁護士たちがグループとして働いていた。クライアントを多く持つ一人のパートナーの仕事を多くの弁護士が引き受けて仕事をするという形式であった。他にもパートナーはいたが、その一人のパートナーに比べると仕事の規模は小さかった。
ある時、そのクライアントを多く持つパートナーがそのグループのうちの一部の弁護士とともに、他の超大手事務所に移籍してしまった。残された弁護士は、仕事が少なくなる。誰かから仕事をもらうか、自分でクライアントを捕まえてきて仕事を作るかのどちらかが出来ない弁護士は、年間2000時間のビラブルアワー(クライアントにチャージできる時間)を達成できずに外に出される。プラクティス分野が特定されてしまう大手事務所の弁護士は、ある分野の弁護士があまっているからといって、他の分野のプラクティスをしているパートナーから仕事をもらうことは難しい。
そこで、ビラブルアワーを達成できずに、外に放り出される弁護士の話は結構聞く。


クライアントを多く持つパートナーが何故自分の仕事を担当する弁護士全員を連れて移籍しなかったかの理由は容易に想像できる。移籍先の事務所は、移籍先の弁護士に仕事を与えてくれるパートナーに来てもらいたいと思っているので、全員を連れて行かない方が良い条件を提示してもらえるからだ。そこで、自分の仕事の中心的な役割を果たしている弁護士や、自分が気を許せる弁護士のみを連れて行こうとする。パートナーの個人的な好き嫌いも影響するだろう。

色々な弁護士を見ているが、最初に大手事務所に就職できるかどうかは、ロースクールの知名度とロースクールでの成績で決まることが多いが、その後の人生は、「運」「世渡りの良さ」「営業力」に影響されることが多いようだ。優秀な人が残れるとは限らない。

リーガスサービスの提供をビジネスとして行っているアメリカの事務所では必然なのであろう。

2014年12月2日火曜日

マーケティングの意味


アメリカには、法律事務所用のマーケティング対策について書かれている本が、日本とは比べ物にならないほど多くある。最近はKindleで電子図書が簡単に購入できるだけでなく、ウエブサイトでサンプル送信をクリックすれば最初の20ページくらいがサンプルとして無料で読むことができる。

気分転換に法律事務所のマーケティングに関する電子図書のサンプルをランダムにいくつか読んでみると、John Burnettという人が書いたHow to Avoid Random Acts of Marketing: A Plan for Small to Midsized Legal Firmsという本にマーケティングの定義が書かれていた。
「Marketing is the process of finding, satisfying, and retaining profitable customers.」
当たり前のことかもしれないが、「profitable customers」なのである。見つけるのも、満足させるのも、受任するのも「儲けになる顧客を」なのである。このマーケティングの定義は筆者独自のものかもしれないが、この「profitable customers」の部分に疑問を投げかける弁護士はいないであろう。

つまり、日本で弁護士ももっとマーケティング努力をすべきだという人がいるが、それはある意味、「儲けになる顧客」だけを相手にし、「儲けにならない顧客」を切り捨てろということとイコールなのである。儲けの薄い顧客を相手にする場合は、一つ一つの事件の手間を省いて薄利多売を達成しなければならない。

弁護士にマーケティング努力を求める人々はこの意味を分かっているのであろうか。


2014年11月30日日曜日

法律事務所合併の危険性

アメリカでは、法律事務所が合併することは日常茶飯事であり、さして珍しいことではない。しかし、水面下では合併によって様々な問題が引き起こされている。

合併には、いくつかの種類がある。同じ程度の規模で同じようなプラクティス部門がある事務所が合併する場合、大きな事務所が小さな事務所を吸収合併するような場合、ある特定分野で定評のある事務所が、その分野のプラクティスが弱い規模の大きな事務所と合併する場合など、様々である。特に問題が生じやすいのは、似たような規模で同じようなプラクティス部門を持つ事務所同士が合併する場合である。

合併によって、まず生じるのはコンフリクトの問題である。一番わかりやすい例で説明すると、A会社がB会社を訴えたという訴訟があった場合、合併元の事務所の弁護士がA会社の訴訟代理人をし、合併先の事務所がB会社の訴訟代理人をしていた場合、合併によって、同じ事務所がA会社とB会社の訴訟代理人をするわけにはいかないので、どちらかの訴訟を代理している弁護士が外にでなければならない。その際に、どちらの弁護士が外に出るのかというのが問題になる。

次に問題になるのは、システムの統合である。まずは、どちらのシステムを使うかという問題が生じ、システム統合が終われば、ダブっているスタッフメンバーが外に追い出される。たとえば、会計部や、ITシステム部、営業部等が2重にあると無駄なコストがかかる。しかし、どちら側の事務所の職員として働いていたスタッフを解雇するのかという問題が出てくる。

次に合併先も合併元も同じ会社をクライアントとして持っていた場合に、そのクライアントを持っているパートナー同士の熾烈なクライアント奪い合いが起こることがある。

さらには、弁護士が大量に事務所を移籍するという問題も起きる。移籍の理由は大きく分けて二つある。たとえ対等合併でも優勢な側の事務所があり、優勢な側の弁護士が、そうでない側の弁護士を追い出す場合が一つである。もう一つは、合併後の経営に不満のある弁護士が、クライアントとともに他の事務所に移籍してしまう場合である。

優勢な側の事務所が合併先の事務所の弁護士を追い出す場合、優良なクライアントを取り上げた後に追い出そうとすることもある。
合併後の経営に不満のある弁護士で優良なクライアントを抱えている弁護士がクライアントとともに移籍する場合、特に他の弁護士とともにグループになって出て行ってしまう場合は、合併後の事務所の経営を危うくする恐れがある。

こうやって2年くらい経つと、合併が成功だったのか不成功だったのか徐々に明らかになる。ただ、合併には大きな危険が付きまとう。積極的に合併を重ねて規模を拡大していた事務所の経営が急に危うくなって、破産に陥るということもある。

依頼している事務所が合併した場合、クライアントは合併の動向について調査を怠るべきではないだろう。要注意である。

2014年11月18日火曜日

またもや大手事務所がなくなるのか

Bingham McCutchen LLP。日本では、ビンガム・マカッチェンとして知られ、東京オフィスが、坂井、三村、相澤法律事務所の外国法共同事業として存在している。

業績悪化がうわさされていたBingham McCutchen LLPのパートナーの4分の3近くの227名が、Morgan Lewis & Bockius LLP に移籍することになり、同事務所は救済されることになったようだ。

http://www.bloomberg.com/news/2014-11-17/morgan-lewis-to-add-227-bingham-partners-business-of-law.html

こうして、Bingham McCutchen LLPのほとんどはMorgan Lewis & Bockius LLP の一部となり、また一つ、歴史のある大手事務所が消えてしまうのだろう。

Morgan Lewisに受け入れが認められたBingham McCutchenの弁護士は、今後どのように扱われるかわからないという不安があるだろう。

それはさておき、興味があるのは、日本のビンガム・マカッチェン事務所がどうなるかということである。TMI総合法律事務所のウエブサイトによると、Morgan Lewis には、TMIとのジョイント・ベンチャー事務所があるようだ。Morgan Lewisのウエブサイトにも下記のように記載されている。
http://www.morganlewis.com/index.cfm/fuseaction/office.detail/nodeID/b000cd77-3f76-486a-89d8-86ce77cf7b6d/officeID/60086826-4948-4840-B871-80AD657DAFCC

上記に記載したとおり、坂井、三村、相澤法律事務所の外国法共同事業という形でビンガム・マカッチェンの東京オフィスがあり、この事務所のパートナーはMorgan Lewisに移籍する227名に含まれているのだろうか。
いずれにせよ東京に二つも事務所はいらないだろうから、どちらかが消える運命にあるのであろう。

日本の法律事務所の運命が日本の事務所と関係ないところで勝手に決められてしまうという時代が来ているのかもしれない。

2014年11月14日金曜日

ロースクールに行く人はギャンブラーが多いのか?

アメリカで古くから皆に親しまれているJeopardyというクイズ番組がある。Jeopardyがどのような番組であるかはあまり関係ないので割愛するが、3人の挑戦者が質問に答えながらチャンピオンの座を狙うというものである。番組では単に質問に答えるだけでなく、一発逆転のチャンスなどもあちこちで用意されている。
たまたま見ていたJeopardyの3人の挑戦者のうちの一人がロースクールの学生だと紹介されていた。彼の戦い方が、あまりにもギャンブラーだった。自分で掛け金を決められて、自分だけが答えられるというチャンスが回ってきた。何度もJeopardyを見ているが、自分が持っている金額以上を掛け金にしていた挑戦者はいなかった。しかし、彼は自分が持っている以上の金額を掛け金にして、さらに間違えてマイナスになった。彼はマイナスになる前に同じようなチャンスが回ってきたときに全額かけて、ゼロになった後、少し回復して掛け金を得たばかりだった。彼のプレーの仕方はなんと言ってもギャンブラーで、結局最後の問題に答えるための掛け金がなく、マイナスで終わってしまった。長い間Jeopardyを見ているがそんな人を見たことはなかった。


やっぱり、学費だけでも1500万円もするロースクールに行く気になるのは、ギャンブラー精神を持った人なのかもしれないなあと感じた。1000万円を超える借金を返せるような職につけない危険性が非常に高いにも関わらず、毎年億単位で稼げる極々僅かな可能性にかけて、ロースクールへの入学を決められるギャンブラー精神が必要なんだろう。



2014年11月12日水曜日

ある意味、みんな未経験弁護士


弁護士の経験とはなんだろうか。
アメリカの弁護士を見ていると、アメリカの弁護士は未経験分野が広すぎると思う。ある意味、アメリカの弁護士は、特定の限られた領域を除き、みんな未経験弁護士なのである。

大手事務所に就職した場合、専門に分かれてしまい、その専門分野以外について仕事をすることはほとんどない。小さめの事務所なら多くの分野をプラクティスすることが可能なのではないかと思うかもしれない。しかし、小さめの事務所はある特定の分野に特化したブティック事務所か、個人向けの事件を扱う事務所しかないので、やはり経験できる分野は限られてしまう。

弁護士の営業という観点からは、あまり分野を絞りすぎない方がよいのは明らかである。しかし、アメリカの弁護士は特定分野以外の他のプラクティス分野については十分なOJTを受けられなかった、つまり未経験なので仕事ができないのである。ある意味、未経験弁護士なのである。これは弁護士の数が増えれば増えるほど起こりやすい傾向だと思う。

日本の司法改革を見てみよう。弁護士を増やせということで始まった司法改革であるが、皆の頭からすっかり抜け落ちてしまっているのは、弁護士を増やしても経験弁護士(使える弁護士)が増えることとイコールではないということだ。特に、OJTを受けることが難しい分野については、経験弁護士の数が限られる。さらに、弁護士の経験不足が叫ばれるようになればなるほど、ある特定の事件について経験があるかどうかが弁護士選びの重要なポイントになる。企業の事務所選びでは、それが重要なポイントとなる。すると、その分野で経験が豊富な弁護士に仕事が集中する。集中により、その分野について経験のある弁護士の総数は減る可能性すらある。

弁護士の数が増え始めてから、大手企業の大手事務所を選択する傾向が加速し、大手企業で問題となるような事件を経験する弁護士は大手事務所に集中するようになっている。ある特定の分野については、弁護士が増えたことによって経験弁護士が所属する事務所の数が増えていないどころか、もしかすると減っているかもしれない。
これは、新人弁護士の話だけではない。40代50代の弁護士にもあてはまるのである。例えば、いくら、国際関係が分かる弁護士や、知財が分かる弁護士が必要だと主張して弁護士を増やそうとしても、実際にそのような分野の経験弁護士が増えるわけではないので、経験のある弁護士は少ないままなのである。何度も言うようであるが、ある特定の分野で弁護士が必要だからと言って弁護士を増やしてみても、その分野の経験弁護士は増えず、既に存在する経験弁護士のところに仕事が集中するだけである。また、弁護士が増えたことで競争激化を恐れ、経験弁護士が未経験弁護士を育成するという今まで当たり前に行われてきたことが行われ難くなり、ますます経験弁護士が不足する。経験を積めるのは、その経験弁護士のもとで手足として働いた弁護士だけである。離婚や相続、貸し金返還請求などについては、数も多いし、不慣れな個人が未経験弁護士に間違って依頼してしまいがちなので、どんな弁護士でも経験を積みやすいが、大手企業で問題になるような分野については、大手企業が間違って経験不足の弁護士に依頼してしまったというようなことは起こらないのである。そこで、経験弁護士はたくさんいても、企業が必要とするような案件を経験している弁護士の数は減る一方、つまり未経験弁護士ばかりが増えてしまうだろう。




2014年10月21日火曜日

専門分野は未経験の裏返し?!

アメリカの弁護士は、「私の専門は〇〇です。」と言うことが多い。しかし、専門の意味はなんのだろうか。よく考えてみると、「私は〇〇という分野については日頃プラクティスしていますが、それ以外の分野についてはやったことがないので、どう扱えばよいのか分かりません」というのが真の意味だと思う。


アメリカでは、3年のロースクールを卒業して合格率80パーセント程度の司法試験に合格すれば、誰でも法曹資格が取得できる。


司法試験の難易度であるが、はっきり言うと、普通に勉強したのであれば、落ちるほうが問題だというレベルである。だから、勉強は一時的な詰め込みが十分可能であり、2、3年経った弁護士のほとんどは司法試験で勉強したことはもうすっかり忘れ、今プラクティスしている専門分野についてしか覚えていないと言っている。


アメリカにはもちろん司法試験合格後に司法修習のような制度はない。司法試験に合格しただけでは、何ら実務に必要な知識がないので、何をどうやって扱えばよいのか全く分からない。そこで、就職した法律事務所でどのような実務を行うことになるかが、その弁護士のその後の専門分野を決めてしまう。


例えば、ある事務所でM&Aなどをやる部門にいた弁護士が、M&Aは景気に左右されるので、景気が悪いときに強い専門分野も合わせて持ちたいから転職しようと転職できる事務所を探すとしよう。就職先を探しても見つからないはずだ。求人広告は「〇〇という分野について〇年以上の経験のあるアソシエイトレベルの弁護士」となる。経験を問われないのは、新人として最初に法律事務所に入った時だけある。それ以降の転職はすべて経験者の募集だけである。経験がなければ、ある程度の規模の事務所に転職することは不可能なのである。すると、最初に経験した実務の内容でしか、転職先を見つけられなくなり、その分野についてばかり実務経験を積むことになる。ある程度の規模の事務所が既にある分野について専門を持っている弁護士に違う分野をやらせたりはしない。


このようにして、「私の専門は〇〇です(〇〇以外の分野についてはやったことがないので、どう扱えばよいのか分かりません)」という弁護士が誕生するのである。




2014年10月14日火曜日

儲けているのはピラミッドの頂点の極一部だけ

「アメリカの弁護士はみんな凄く設けているんでしょう」と思い込んでいる人は多いが、大間違いである。儲けているのはピラミッドの上のほうの極一部の弁護士だけである。日本の企業がアメリカの弁護士と接するときは大手事務所の弁護士としか接しないので、その他大勢の弁護士資格を持っていても弁護士の職についていない者や、ぎりぎりの生活をしている弁護士と接する機会がないだけである。


ロースクール卒業後大手事務所に就職できるのは全体の約10パーセントを切るのではないかといわれているが、そのうち、パートナーとして残って儲かる弁護士になれるのは、さらにもっと少ない。一旦パートナーになったとしても何らかの事情でクライアントが減ったり、大きな事件が終わったりして仕事が減り、大手事務所から追い出される弁護士も数多い。その場合、小さい事務所に移籍してもクライアントが誰一人付いてきてくれないこともある。大手事務所に依頼しているクライアントは、事務所が大手であることを重視していることが多く、小さい事務所に移籍した弁護士に仕事を依頼したがらないのである。


大手事務所に勤めていたのに消息が分からなくなった弁護士は数多くいる。




アメリカ人の知人がこんなことを言っていた。ギャングのメンバーになればお金が儲かると思ってギャングのメンバーになる若者はいるが、結局金が儲かっているのはギャングのピラミッドの上層部だけで、下っ端は他の下っ端との小競り合いで、上層部にたどり着く前に殺されるか刑務所に行くかでほとんどが儲かるところまで到達しないということが書いてある本を読んだ。ギャングのメンバーになるまでそんなことは分からないので、若者は儲かる商売だと信じてメンバーになってしまうというわけだ。


これは、アメリカの弁護士にも共通しているのではないか。弁護士は儲かるのではというイメージを持っている人は案外いるようだが、本当は極々わずかの弁護士がリタイアする年齢まで弁護士として儲け続けられるに過ぎず、ほとんどの弁護士はそうではない。それを知らずに、弁護士になれば儲かるから、多少ロースクールの学費を借金してもやっていけるんだと信じて、この世界に飛び込む若者は結構いる。
しかし、実際には、大手事務所に入るのは至難の技であるし、入ったとしても他の弁護士と熾烈なクライアント獲得合戦を繰り広げなければならず、上層部として、つまりパートーナーにたどり着き、そのままパートナーを続けていけるのは極々一部だというのを弁護士になった後に思い知ることになる。さらに、弁護士としての職を見つけられなくなって脱落する者がかなりいるという現実を目の当たりにすることになる。



2014年10月6日月曜日

弁護士のステイタス

アメリカの弁護士は自分が所属する法律事務所が規模が大きいということ、自分が事務所のパートナーであるということを強調する。名刺にある事務所の名前の字のフォントは自分の名前の字のフォントより大きいことがしばしばである。また、事務所の名刺にしっかりと「パートナー」という言葉が入っている。


日本を振り返ってみるが、少なくとも20年近く前の弁護士の典型的な名刺は、弁護士 〇〇〇〇と名前が大きく書いてあって、その横に小さく事務所の名前と住所電話番号などが入っていた。当時の日本で一番大きな事務所の弁護士は50人に届くか届かないかという程度で、所属する事務所に何人の弁護士が働いているかなど話題にする人はなかった。もちろんパートナーなどという肩書きをつけた弁護士の名刺など見たことはなかった。弁護士という肩書きだけで十分能力の証明になったし、人からの信頼も得られたからなのであろう。


大量の弁護士がいるアメリカでは、弁護士というだけでは、能力の保証はないし、信用を得られない。そこで、大きな事務所に所属しているということがステイタスとなり、パートナーという肩書きがあることで、人からの信用が得られるようだ。そこで、皆パートナーという肩書きを欲しがる。パートナーの名刺にはパートナーという肩書きが大きく記載してある。


日本も弁護士の人数が増え、弁護士というだけでは能力の保証もないし、信用も得られないという時代に突入しつつある。これからは、日本でも法律事務所名がブランド化し、そのブランド化した事務所に所属する弁護士は事務所の名前を大きく名刺に記載し、さらには大手事務所のパートナー弁護士は分かりやすく名刺にパートナーと記載するのが主流になる時代が来るのかもしれない。名刺を渡すときに、「〇〇事務所という弁護士が〇〇〇人もいる事務所のパートナー弁護士です」と説明を加えるようになるのかもしれない。



2014年9月28日日曜日

高額な弁護士会費の納得の仕方

アメリカ法曹とは関係ないのであるが、高額な日本の弁護士会費について一言。


実は、弁護士登録の申し込みをするまで、弁護士会費があれほど高いものとは知らなかった。登録5年くらいの間に徐々に会費が上がっていき、最終的に年間の支払額は、修習生の観点から見れば、信じられない額に到達する。どうも、この会費は公益にも使われたりするらしい。何故、それに対して一般人に過ぎない弁護士がお金を拠出しなければならないのだろうか。


自分なりに考えた理屈は以下のとおりであった。
弁護士になるための修習生の期間、年間400万円近い給料プラス手当をもらった。さらには、実務家たちから手取り足取り実務の手ほどきを受けたが、一人年間300万円の授業料を支払っても民間の教育機関が同じ教育をすることは出来ないだろう。すると、年間の一人にかかる費用は700万円となり、2年間の修習によって1400万円になる。この部分は国民の税金から支払われているので、この部分を弁護士になって、弁護士会費を支払うことで少しずつ社会に返さなければならないということなのだろう。


しかし、新制度によって弁護士になった人たちは、どのようにしてこの高い会費を納得しているのだろうか。教育の費用は法科大学院の学費を支払うことで自分たちで負担している。修習期間は貸与制である。修習の期間もわずか10ヶ月である。法科大学院に補助金が支払われているようだが、一箇所に集中していた修習所と異なり、各地に散らばっているために、経済的に見れば非効率で、個々人への恩恵はあまり感じられない。


新制度で弁護士になった人にとっては、何故これほど高い会費を支払わなければならないのかという疑問に対する回答を何一つ見つけられない。


新制度で弁護士になった弁護士が増えれば増えるほど、この不満は堆積し、そのうち爆発するのだろう。ただ、爆発する時期が分からないだけである。



2014年9月20日土曜日

アメリカの法律事務所の危うい一面

アメリカでは、500人、1000人規模の法律事務所が経営破たんすることがある。それも、雪崩を起こすように、大きな事務所が半年くらいの間にバタッと倒れてしまうことがあるのだ。


その理由について色々考えてみたが、大きく上げると3つあると思う。一つ目は、弁護士は経営のプロではないが、法律事務所のトップは経営のプロでない弁護士がなるということである。二つ目は経営状態に関する正確な情報が外部に分からないだけでなく、内部の人間にすら分からないことである。三つ目は、弁護士の移籍は頻繁で、クライアントが弁護士の移籍に伴って移籍先の事務所に移っていくことである。


私の個人的な感覚からすると、二つ目の「経営状態に関する正確な情報が外部に分からないだけでなく、内部の人間にすら分からないこと」というのは実は大きな要素を占めているような気がする。法律事務所はいくら弁護士が500人以上、スタッフメンバーを合わせれば1000人を超えるような巨大な事務所であっても単なるパートナーシップの団体に過ぎない。株式会社のような株主への開示や説明義務が詳細に決められているわけではない。個々のパートナーの契約によって決められるわけだ。その個々のパートナーの契約は事務所ごと又はパートナーごとに様々であり、外部からだけでなく、内部で働いている弁護士にとっても個々の契約内容が分からないことが一般である。パートナーという肩書きがあっても経営方針についてや財政について全く知らされていない人も多くいる。名前だけパートナーで実はアソシエイトとあまり変わらないような働き方をしている人もいる。事務所の内部情報について言えば彼らは全くもって萱の外である。
そこで、憶測が働く。「あの事務所は危ないらしいぞ」という噂が走ると、クライアントを抱える弁護士はクライアントとともにその船から飛び降りる。特に、有名な規模の大きい事務所の噂の方が広まりやすいので加速も早い気がする。最近、そのような噂はネットを通じて広まるので、事務所の経営陣は多額のお金を支払って、ネットで良い情報を流すように法律関係メディアに発表をしたり、悪い噂を記載する記事をブロックするサービスにお金をつかったり、必死になる。


クライアントとともに弁護士がグループでいなくなったとしても、事務所の家賃は払い続けなければならないというのが一般である。例えば、ビルの3フロアを借りていた事務所が、弁護士がいなくなったので、1つのフロアの賃貸契約を解約することは許されない。直前に5年契約を更新していたら、5年間は解約できないのだ。弁護士がごっそりいなくなっても、家賃を5年間支払う義務がある。
又貸しするのは自由であるが、借りる人を探すのは容易でない。


また事務所によって異なるが、エクイティーパートナーになるには一定額を拠出することが多い。拠出額に応じて利益の分配を受けられるのである。お金を拠出したパートナーが事務所を移籍するときは、事務所はそのパートナーに拠出した金を返さなければならない。事務所にとっては、クライアントを取られてしまうという痛手だけでなく、拠出金を返還するという痛手まで負うことになる。事務所が危なくなってくると、拠出金を得ようと、パートナーを増やそうとする事務所もある。そこで、一般論として事務所にパートナー弁護士ばかりがいる事務所は要注意と言われる。


法律事務所というのは、資産として持っているのは流動性が非常に高い「弁護士」+クライアントという商品と事務所名というブランドくらいしかないにも関わらず、かなりの借金をして経営しているところが以外に多い。借金経営をしている事務所が多いという証拠に、借金をしないでやっている事務所はわざわざ「うちの事務所は他の事務所とは違って借金経営ではないのです」ということすらある。
さらに法律事務所は、一般の企業と違って、「今年得た利益は、来年のためにプールしておいて、不況に備える」という発想に乏しいようだ。


上記のような事情が重なり、クライアントとともに弁護士が流出すると、固定費を支払うことが出来なくなり、最終的に事務所がなくなってしまう。1000人以上の弁護士がいた事務所ですら、半年で消滅してしまうことすらある。


立派そうに見える法律事務所でも薄氷を踏むような状態で経営しているところもあるかもしれない。内情を外部だけでなく内部の弁護士にも隠し続けながら。





2014年9月14日日曜日

日本の司法修習と米国ロースクールの比較

日本の2年間の司法修習の前期後期修習の授業とアメリカのロースクールの授業を比較してみたいと思う。


司法修習が2年であった頃は、前期修習と後期修習が4ヶ月ずつあり、ロースクールの授業の様なかたちをとって行われていた。期間は合計でわずか8ヶ月であるが、そこで学んだ内容の質の濃さは文章では十分に説明できるものではない。すべての修習生は3パーセントに満たない合格率の司法試験に合格している。法律的な基礎知識は十分ある。ただ、彼らは、事実がはっきりしている事例の法適用についてしか学んだことがない。断片的な証拠や事実の集まりを使ってどうやって法を適用する前提となる事実を作り上げていくか、つまり実務についての知識はない。司法修習の授業はその足りない部分にフォーカスして行われる。教官も法律的な基礎知識が足りないことで理解が出来ない修習生の面倒を見る必要はなかった。
前期修習では週に1回から2回程度、後期修習では、週に2回から3回程度、即日起案の日がある。朝修習所に行って、約100ページから150ページの白表紙を渡される。実際の事件で実際に使われた証拠や書類等が複数入っている。例えば刑事事件であれば、検面調書、員面調書のコピーや、証拠のナイフの写真、検死解剖の結果に関する書面が入っている。午後5時までにすべての証拠を読んで、さらに、判決や冒頭陳述を起案して、理由を説明したりする。1行おきで、40ページから60ページの文章を書くことになる。1週間後くらいには、実際の裁判官、検察官、弁護士の教官が個々の起案に詳細なコメントをつけて修習生に返却し、解説授業が行われる。


当時は、何も感じていなかったが、アメリカのロースクール卒業後にアメリカの中~大規模の法律事務所に入ったとき、日本での2年修習がいかに贅沢で充実したものであったかを思い知った。なんというすばらしいものが日本にはあったのだろうかと。アメリカでは、大きめの事務所であれば各事務所が研修を行うので研修と仕事を通じて、小さめの事務所であれば、仕事のみを通じて実務を学ぶことになる。実際に私も研修を受けたが、日本で得られた2年修習と比較したら、おままごと程度に過ぎない。


アメリカの通常のロースクールの授業は、日本の2年修習時代の前期後期修習と比較したら、言うまでもなく、足元にも及ばない授業ばかりである。法的基礎を教える授業であり、学生は比較的やさしいアメリカの司法試験にも合格していないのである。学生の基礎的な質問で授業が中断されることがしばしばである。学生は実務を学べるレベルには至っていない。
ただ、アメリカのロースクールでも一つだけ心に残る授業があった。それは、既にアメリカで弁護士資格を持っている人を対照したLL.M.である。つまり、このLL.M.を取得しても基礎科目を受講できないので、アメリカの司法試験を受験する資格は得られない。そこで、既に弁護士であるか、JDを卒業してアメリカの司法試験受験資格を得ている人しか入学できない。JDや他のLL.M.コースの人は授業を見学することすらできない。授業はすべて夜に行われ、教授のほとんどは現役実務家である。このLL.M.で、実際の事件の証拠を使って、10人程度の裁判官を含む実務家がサポートし、Scheduling orderからトライアルまで1学期をかけてやるという授業があった。私と一緒に組んだ学生が10年の実務経験のある弁護士だったという幸運もあり、多くのことを学んだ。この授業は日本での修習にも匹敵するものであった。


気付いたのは、司法試験に合格するだけの基礎知識がない学生に実務を教えることの限界である。基礎知識も実務の知識も中途半端になる。学んだつもりになって結局何ら得ていないということになりかねない。法的基礎知識があるかどうかのテストに合格した人に、前期修習後期修習で実務を教えるというのは非常に意味があったのだ。さらに、現役実務家から授業を受けるというのも非常に重要であったのだ。


日本は司法改革で日本独自の素晴らしい制度を失ってしまったようだ。残念でならない。



2014年9月7日日曜日

こうなることは分かっていたはず

アメリカとは関係ないが、まだ日本に法科大学院が出来る前の出来事である。


顧問先の社員のサラ金問題を解決するために、日本の訴訟を担当していたことがある。サラ金会社側は、支配人と称する弁護士資格のない者が裁判に出てきた。最初は、慣れていなくて、周りの弁護士を見ながら見よう見まねで発言している。本当に周りで見ていても危なっかしい気がした。ただ、いくつもの裁判を掛け持ちで担当しているようで、同じ日にいくつも裁判の期日を入れて裁判所をかけまわっているようであった。
驚いたのは、回を重ねていくうちに、その支配人が裁判に慣れて、あたかも弁護士のような振る舞いになっていったことだ。


裁判官「では、次回期日を決めましょうか。〇月〇日午後1時はいかがでしょうか」
支配人「申し訳ございません。その時間は他の裁判の期日が入っておりまして、さしつかえです。」


それだけではない。主張もまともになっていった。


そんな頃、法科大学院構想が本格化してきた。最終的には3000人合格との予定だった。


これは大変なことになると直感で分かった。弁護士、特にマチ弁がやっている事件の大まかにいって70パーセントくらい(私の勝手な感覚であるが)は、あんな難しい司法試験を受からなければ受任できないような事件ではなく、大卒くらいの人が、経験を積むことによってこなすことができる程度の事件なのである。この支配人が証明している。


つまり、特殊な技術や能力が必要な事件をこなせる能力をつけてその道の専門家にならない限り、何倍にも増えた法科大学院卒の弁護士と、70パーセントの事件を奪い合わなければならないということだ。たとえ法科大学院卒の弁護士が旧司法試験組みのような能力がなかったとしてもだ。もともと、70パーセントの事件を扱うには旧司法試験に合格するような能力がなくても問題なかったからである。あとは、営業や経営が上手な弁護士が競争を勝ち抜くだけである。


現在、弁護士の数が増えたことで弁護士、特にマチ弁の仕事の激減が問題化している。しかし、そんなことは昔から分かっていたはずである。少子高齢化によってマチ弁が扱うような事件が減ることも分かっていたはずである。法科大学院導入が決定したときに既に弁護士だったのであれば、この日に備えて対策を立てておくべきだった。


そう思うのは私だけであろうか。



2014年9月3日水曜日

捨てられる運命にある弁護士?

最近では、日本の大手企業でも終身雇用ではなくなってきている。上に行けば行くほどポストが少なくなって、リストラ対象になったり、外に出たらと遠まわしにささやかれることがある。

外に放り出されなくても、ある程度のポジションに着いた人が50代になると、役員にでもならない限り役職定年が目の前に迫ってくる。役員になれそうもないし、役職定年した年配の社員を見ていると、次の仕事を探したほうがよいのではと思うかもしれない。

そんな時に、以前から知っている米国法律事務所の弁護士に会って、「あなたはアメリカの弁護士資格があるんだから、うちの事務所で働きませんか」などと誘われるかもしれない。若い時にアメリカに留学して取得したニューヨーク州弁護士資格を生かすときが来たかもしれない、これは願ってもないチャンスと、思わず話しにのってしまうかもしれない。

要注意である。

日本の大企業である程度のポジションにいた人にとって、アメリカの弁護士はナイスな暖かい人との印象があるかもしれない。それは、単に、その人が資金力が豊かな日本企業という服を着ていたから受けられた待遇だったのだ。

アメリカの法律事務所がこのような大企業で働いていた人をパートナー弁護士として迎える理由はただ一つ、その人を通じてクライアントが来ると思っているからである。もしそれが期待はずれだったら、あっという間に捨てられてしまう。首を切られてしまう。1年、長くて2年で成果を出さなければだめであろう。アメリカは日本のように首を長くして成果が出るのを待ってくれない。

日本の企業が事務所を変えるという意思決定には時間がかかるのだから、あと1年待って欲しいと頼んでも無駄であろう。
そうやって捨てられてしまった弁護士の話を聞いたことがある。


アメリカの法律事務所からの甘い話しは要注意である。「雇いたいと言ってきた時はあんなに積極的だったのに、捨てる時は一瞬なんて。。。」と後で後悔することになるかもしれない。



2014年8月26日火曜日

弁護士が自由競争をするとどうなる?

弁護士も人数を大幅に増やして自由競争すべきという話しをする人が多いので、アメリカを参考にしながら、弁護士が自由競争するとどんなことが起こるのかをまとめてみることにした。


自由競争となれば、黙って待っているだけでは、仕事は来ない。営業をすることは必須の条件となる。これに伴って、個々の弁護士の営業にかけるお金と時間が増えることになる。

営業するということは、今までえらそうだった弁護士が他の人に頭を下げて仕事をもらうことだから弁護士の腰が低くなり、良い傾向だと思うかもしれないが、そうとも言い切れない面がある。なぜなら、アメリカの弁護士を見ていて思うのだが、営業を重視するあまり、金になる良いお客さんにだけ大切に扱い、金にならないような仕事を持ってくる個人や小規模の企業に対しては、相手に嫌な思いをさせないようにしながら上手に断ってしまうことになるのではと思う。ビジネスになるクライアントと仕事を選別するのである。

余談であるが、一度でよいから有名企業の法務部長になって、米国法律事務所の新規開拓と称して複数の大手事務所を訪問してみたいと思う。きっと、昼、夜とも最高のレストランで食事をご馳走してもらえるだろう。

話は戻るが、営業にお金と時間をかけるということは、その時間とお金をどこかからか回収せざるを得ない。それが、クライアントや事件を選別するという作業につながっているように思える。


自由競争の弊害はまだまだある。弁護士は後輩弁護士を指導しなくなり、後輩弁護士に仕事をさせても、業務の全体が分からないようにとか、クライアントと直接接触しないような形で仕事だけさせる傾向に陥りがちである。アソシエイト弁護士を使ってみて使い勝手が悪ければ、他のアソシエイト弁護士を使えばよい。弁護士はたくさんいるのである。
そこで、弁護士が十分な経験を積んだり、先輩弁護士から指導を受けたりするのが難しくなり、弁護士は増えても、経験があって使える弁護士の数が増えない。


また、弁護士の様な、依頼する弁護士によって仕事の質に雲泥の差がでるような職種だと、自由競争だからといってディスカウント合戦に陥った弁護士は負け犬になる可能性が高い。つまり、弁護士報酬を下げると、薄利多売に陥り、アソシエイト弁護士やスタッフに安い給料で大量の仕事をさせることになり、優秀な弁護士やスタッフが集まり難いだけでなく、一つ一つの仕事にかける時間が減り、仕事が粗くなる。すると、仕事の質が下がり、クライアントからは、質が悪くても安くやりたい仕事しか依頼されなくなる。悪循環に陥るのである。
反対に、大企業の重要な案件は、優秀な弁護士を雇うだけの資金力がある大手事務所や外資系事務所に集中し、経験やノウハウが大手事務所に集約し、弁護士が二極化する。
金があるものは優秀で特殊な分野の経験もある弁護士を依頼することができ、金のないものはディスカウント合戦で疲弊しきった弁護士にしか依頼することができなくなる。

弁護士が二極化すると、裁判官も、弁護士が所属する法律事務所の知名度によって弁護士の質に予断を持つようになる可能性が高くなる。すると、小さな事務所の弁護士に依頼する危険がさらに増す。


弁護士という特殊な職業に自由競争をさせると、最終的には高い弁護士を雇うことの可能な社会的な強者と、ディスカウント合戦で疲弊しきった弁護士しか雇えない社会的な弱者という構造がはっきりしてくるであろう。
アメリカは、賠償額が高く、陪審員が大企業より個人を勝たせる傾向にあるので、成功報酬を求めて、弱者の事件をほぼ無償で積極的に引き受ける弁護士が数多くいる。

しかし、日本では、その制度がない。


現在は過渡期であり、自由競争の弊害がそこまで顕在していないが、あと、20年もすれば、弊害は明らかになるであろう。



2014年8月5日火曜日

法科大学院は国内弁護士養成機関

国際的な弁護士になりたいと言って法曹を目指している人は多い。国際的な弁護士またはアメリカの弁護士に関する情報を集めようとして、このブログを訪れている人も多いようだ。

そのような人に是非知ってもらいたいのは、日本の法科大学院はあくまでも純粋な国内弁護士を育成する機関であるということだ。
もし、本当に国際的な弁護士になりたいと思うのであれば、大学在学中に予備試験に合格して、すぐに日本の法曹資格をとり、20歳代前半から英語と外国法の勉強を始めるべきだろう。

アメリカ、イギリス、シンガポール、オーストラリア、インド、カナダなどの英語を公用語又は事実上の公用語としている国に関して、英語が必須なのはもちろん、それ以外の国でも英語は重要な道具である。つまり、英語を問題なく使いこなせなければ、国際的な仕事をする弁護士にはなれないのである。


日本の弁護士でアメリカに1年間留学した後に1年間アメリカの事務所で研修した弁護士は数多くいるが、聞いていてかわいそうになるほど英語での口頭のコミュニケーションが出来ない人がかなりいる。彼らの多くは1度でニューヨーク州の司法試験に合格していてもである。彼らを見ていると、国際的な仕事をしたい人は、国内弁護士の資格はなるべく早く取得して、英語を含むその他の勉強を早急に始める必要があると感じる。法科大学院に、時間と金を費やしている余裕はないのである。


何度も言うようだが、法科大学院は、あくまでも国内弁護士を養成するものであり、国際的な弁護士を養成するものではない。もし、若いときに英語圏に住んだことがなく、本当に国際的な弁護士になりたいのであれば、法科大学院に行くために、若さと金を浪費することはお勧めできない。


特に奨学金という名の借金は将来の選択肢を非常に狭めることになる。
かなり険しい道ではあるが、自費留学の末に国際的な弁護士として活躍している人もいる。しかし、法科大学院に金を浪費してしまったら、無給の修習を経た後に、自費留学するなんて余程金に余裕がある両親を持たない限り不可能だろう。







2014年7月24日木曜日

企業内弁護士 ― 日米の違い

日本企業の日本の弁護士資格を持つ社内弁護士が大変な業務として口をそろえて言うのは、社内の調整である。
例えば、訴訟で和解をして終わらせようという時に、社内の決済が必要になる。何処までの社内決済が必要になるかは和解金額や、事件の大きさなどによるが、アメリカでの訴訟などになると、かなり上の人の決済まで必要になる。上の人の決済を一つもらえばそれでよいのかというとそうでないところが、辛いところである。
ポジションが少し下の人から順々に承認してもらって、最終的に上の人の決済にたどり着ける。途中に海外出張等で一週間つかまらない人がいると、決済手続きはそこで一週間ストップする。決済をもらうために、一人一人に同じ事情を説明して、承認してもらう。訴訟を担当している外部の弁護士からは、和解できるのか早く教えてほしいとせかされ、社内では、色々な事情で、和解のための決済が遅れる。こんな社内調整が弁護士の仕事なのかと嫌になることもあると言う人も多い。

アメリカの企業のアメリカの資格を持つ社内弁護士に、社内の意見の調整は大変かと聞いてみると、全く違う答えが返ってくる。責任者が決断すると、その決断により話しが進んでいくからである。一人一人の決済をもらうために、社内調整をしながら社内を駆け回る必要はないのである。

一方、アメリカの社内弁護士として何が大変か聞いてみると、今までは法律事務所を使っていたことをなるべく内部の弁護士で処理してコストを下げようという動きがあるので、社内弁護士でも訴訟について詳しくなければならないし、外部弁護士のような業務も行えなければならないことだと答えていた。大手事務所で企業法務の経験のある弁護士を企業が雇い入れる傾向はアメリカでは一般的である。


ただ、こうやって比較してみると、企業内弁護士になるなら、アメリカ企業での方がやりがいがありそうに感じるのは私だけだろうか。

2014年7月17日木曜日

大手法律事務所も天下り先!?

アメリカでは、有名な裁判官や政府機関の重要なポストについていた人が、大手法律事務所のパートナーになって、話題になることは多い。彼らは法律事務所からかなりの高給をもらっているようだ。

大手事務所としては、クライアント獲得の営業の道具としてそのような人材を獲得しようと躍起になっている。法律事務所のパートナーになろうとする元裁判官や元政府機関の高級官僚も、最初の事務所選びを間違うと大変である。最初に事務所に入るときは、大きく宣伝されやすいし、話題性も高く、ニュースにもなるので、クライアント獲得に大きく貢献できる。しかし、一旦入った事務所から他の事務所に移籍するときは、話題性も下がるので、興味を持つ法律事務所は少ない。民間事務所に入る最初の段階が一番価値が高いのである。つまり、高給を得られる。

高い給料を提示する事務所に入り、あちこち連れまわされてセミナーで話しをしている元裁判官、や元政府機関の高級官僚は多い。


これは、アメリカ特有の話かと思ったら、ある知人が、日本の知財高裁の裁判官が弁護士になるとかで、どこの大手事務所がその元裁判官を獲得するのか話題になっているという話しをしていた。

日本でもアメリカと同じようなことが起こり始めているようだ。


官僚でも、国の費用でアメリカのロースクールに留学させてもらえるチャンスがある人は大いに利用すべきだと思う。アメリカで弁護士資格を取得して、ある程度高いポジションまで登りつめて、人脈を築いた後、外国弁護士として大手事務所に雇ってもらうという可能性があるかもしれない。

これからは、大手法律事務所も天下り先の一つになる日がくるのだろうか。


2014年7月8日火曜日

これからの弁護士は組織内で渡り歩ける能力が必要

多分10年以上前までは、弁護士になる動機として、組織内で働くのがあまり好きでないことを理由とする人が結構いたのではないか。

しかし、これからは、組織内で上手に渡り歩ける能力がない人は、弁護士としてやっていけなくなるだろう。つまり、組織内で働くのが好きでないことを弁護士になる動機としてあげるのは間違っている。

アメリカの弁護士を見ていると特に思うのであるが、個性の強い人間的にも難しい弁護士とも上手に接することができ、組織内の情報収集が上手で、内部の権力闘争も把握したうえでそれに巻き込まれずに上手に渡り歩ける能力がある人は、事務所の中で着実に出世していけるが、そのような能力がない弁護士は、事務所を出ざるを得なくなることもある。

まず、アソシエイトとして事務所に入ったら、顧客を多く持つパートナーから仕事を下請けしなければならない。パートナーから仕事をもらえなければ、クライアントにチャージする時間を付けることができなくなり、上層部から見れば、チャージ時間が少なくて事務所に対する貢献度がないとみなされて、外に出される。
どのパートナーがどのような仕事をどの程度持っていて、どの程度下請けする必要があるか、そのパートナーの下で働いている弁護士は誰なのか、そのパートナーと敵対関係にある弁護士は事務所内にいるのか等、様々な情報を収集しなければならない。秘書、パラリーガル、他の弁護士などと上手にコミュニケーションしながらそのような情報を集めなければならない。

パートナーから仕事を下請けされたら、そのパートナーにとって使い勝手の良い弁護士にならなければならない。頭が良いことと使い勝手の良いことはイコールとは限らない。パートナーの間違いをクライアントの前で得意げに指摘したり、勝手にクライアントに直接コンタクトをとるなどして、パートナーに不信感を与えたりすれば、次から仕事がまわってこなくなる。自信過剰は命取りになることもある。

自分に仕事をくれるパートナーと敵対関係にあるパートナーが同じ事務所内にいる場合に、その敵対関係にあるパートナーとどのように接するかは要注意だ。
ある弁護士がアソシエイトの頃に知人から仕事の依頼を受けたときの話だ。自分に仕事をくれるパートナーの専門分野とは少しずれるからと、そのパートナーと敵対関係にあるパートナー弁護士に知人からの仕事の依頼の話を相談したら、その後、仕事をくれていたパートナーとの関係が悪くなり、最終的に、そのアソシエイト弁護士は事務所を移籍することになったそうだ。

パートナーになるためにも、パートナーとして弁護士を続けるためにも、組織内でうまく立ち回る能力が要求される。なんといっても事務所内ポリティクスを分かった上で上手に立ち回ることが要求される。


日本でも徐々に少人数の事務所の信用性が下がり、法人特に中規模から大規模の法人は小規模の事務所に重要な事件を依頼しなくなっている。昔は、こんな大企業がこんな小さな事務所に依頼し続けているのかとびっくりすることが結構あったが、弁護士の質にばらつきがでればでるほど大きな事務所を信用する傾向に拍車がかかるであろう。

事務所の経営を安定させるためにはコンスタントにリーガルサービスが必要な企業をクライアントとして獲得することであり、一生に数回弁護士が必要かもしれない程度の個人を相手にしてはいられない。個人だけを相手に仕事をするためには、絶えず違うクライアントを開拓し続ける必要がある。つまり、一般に向けた営業に時間とお金をかけなければならない。

ある程度コンスタントにリーガルサービスが必要な企業をクライアントとするためには、事務所の規模が要求される。個々の弁護士に専門性が要求されるために、専門分野拡大のために規模もかなり大きくなる。規模が大きくなれば、様々な思惑を持つ様々な弁護士と一緒に働かなければならない。規模が大きくなれば、上層部は個々の弁護士の事務所の貢献度を見るときに、どれだけ事務所に利益をもたらしているかという観点でしか見なくなる。アメリカではこの事務所への貢献というのが、幾ら事務所にお金をもたらしたかに置き換えられる。

うまく上手に泳がなければ、仕事を与えてもらえず外にはじき出される。外にはじき出された場合、弁護士になってから7年くらいまでであれば、優秀そうに見える経歴があればアソシエイトとして他の事務所に転職できるが、それ以上のキャリアを持っている弁護士は、以前の特殊な人脈を利用するか、既にクライアントを多く持っているなどの事情がない限り法律事務所に転職できない。

では、企業のインハウスとして働けばいいと思うかも知れないが、インハウス弁護士を雇う会社は規模も大きいので、組織内で生き残れる能力が必要とされるのは同じである。

組織に所属するのが苦手だからといって弁護士になる時代は終わったのではないか。

2014年7月2日水曜日

弁護士の敵は事務所内の他の弁護士かも!? ― 弁護士を使う際の注意点

アメリカのどの法律事務所に依頼しようか悩む日本の企業は多い。
その際、事務所内の弁護士の専門分野や経歴をウエブサイトで検索して調べるのが通常だろう。

立派な経歴を持つ優秀そうに見えるパートナー弁護士たち。この優秀そうにみえるパートナー弁護士A、B、C、Dに一緒に協力して仕事をやってもらえれば、鬼に金棒だ。知人がパートナー弁護士Aを知っているというから、紹介してもらってA弁護士にメールを出そう。

「こうやって、弁護士Aに仕事を依頼すれば、弁護士A、B、C、Dのドリームチームを見方につけて戦える」と信じるかもしれない。しかし、米国法律事務所はそのように運営されていないことが多い。

同じ分野のプラクティスをする有名弁護士同士は、同じ事務所で働いているにもかかわらず、競合相手である可能性も高いからだ。例えば、弁護士AとBが競合相手である場合、よほどのことがない限り、AとBが一緒に働くことはない。AとBは表面的には仲良くしながらも、AはBにクライアントを奪われないように、BはAにクライアントを奪われないように、水面下で戦っていることがある。

クライアントが望めばAとBを例えば一緒の訴訟チームとして使うことができるかもしれない。しかし、こんな問題が発生するかもしれない。
AとBともに一流の訴訟でLead counselとなった経験のある弁護士であれば、まず誰がLead counselになるのかでもめることになる。Lead counselとして有名な弁護士は、我が強いアメリカ人弁護士の中でも目立ちたがり屋が多いので、そんな弁護士が二人で違う方向に訴訟を引っ張っていけば、大変なことになる。会議が長くなり費用は高くなるかも知れないし、勝つ訴訟も勝たなくなるかもしれない。

同じ事務所の弁護士だから仲良く一緒に働くと思ったら大間違いである。船頭多くして船山に登る可能性もあるのである。アメリカの法律事務所を上手に使うには、内情を良く知ってなければならない。

2014年6月26日木曜日

予備試験合格者の価値

最近、予備試験受験制限に関する議論があるようで、予備試験合格者は優秀だから大手事務所に就職しやすいとかという話もあるらしい。

本当に予備試験合格者の価値を決めるのは予備試験合格者が優秀とかいう話だけなのだろうか。


弁護士の数が増え、弁護士同士の競争が厳しくなれば、生き残るために法律事務所が取りうる手段は限られてくる。下手するとディスカウント競争に巻き込まれることになるが、そうすると、ディスカウントしたことによるしわ寄せがどこかに来る。ディスカウントしてやっていくためには下記のような手法をとる必要があるだろう。

1. 似たような事件のみをやって一つの事件にかかる時間を合理化したうえで薄利多売をする。
2. 個々の仕事の手抜きをする。
3. 勤務弁護士や事務員の給料を安くして長時間働かせる。

1の手法は強力な営業力が必要となる。なぜなら多売が必須要件だからだ。2と3の手法は、事務所として長期的にやっていける手法とは言いがたい。


本来ならディスカウント競争に巻き込まれないことが望ましい。そのために必要なのが事務所のブランド化である。

アメリカの事務所も事務所のブランド化には躍起になっている気がする。事務所の全国ランキングや州別ランキング、スーパー弁護士のランキングなどで上位になるように、色々工作している。

ブランド化を助ける一つの手段として、有名なロースクールをトップの成績で卒業したものしか雇わないことがあげられる。事務所のウエブサイトを見たときに、優秀そうな経歴を持つ弁護士が肩を並べるのがブランド化には好ましい。


ここで日本の予備試験に戻るが、予備試験と法科大学院卒の弁護士とどちらを採用するかとなると、能力や素質が同じであれば、ブランド化に役立つ方を採用するのではないかと思う。

他に安い弁護士報酬で仕事をしてくれると言っている事務所があるけれども、高い報酬を支払っても仕事を依頼するだけの価値のある事務所であるとクライアントに思わせる必要がある。弁護士と言ってもピンきりな時代には、うちの事務所は優秀な人しか雇っていないとクライアントに宣伝できるような履歴を持つ新人をそろえる必要がある。

クライアントが若く予備試験に合格した弁護士の方が優秀と考えるのであれば予備試験組みの方が就職に有利であるし、有名な法科大学院卒の方が優秀であると考えるのであれば、有名な法科大学院の卒業生の方が有利となる。真の意味での能力が直接就職に影響するかと言えば、そうとも言い切れない。能力があってもパートナーからみて使い勝手の良くないアソシエイトは不要である。ただ、ブランド力を高める経歴は必須条件である。ブランド化に欠かせない武器だからである。


そこで、どのようなクライアントをターゲットにする事務所かによっても予備試験合格者と法科大学院卒の就職への有利不利が異なってくるであろう。例えば、ターゲットとするクライアントにアメリカ企業が含まれる場合、有名な法科大学院卒の方が有利ではないだろうか。外資系法律事務所の英語のウエブサイトには、法科大学院卒の場合に、アメリカの3年のロースクールに通ったときに与えられるJDという学歴として記載されているので、アメリカ企業としては自分たちの制度と似たような制度で弁護士になった人を雇っている事務所だから安心だと考えるだろう。また、外資系事務所で、米国事務所のパートナーが雇用に対する発言権を持つ場合には、有名な法科大学院卒の弁護士を選ぶ傾向にあるだろう。自分達と似たような制度で弁護士になった者に対する信頼が高いからだ。

日本企業をターゲットにする事務所であれば、若い予備試験合格者の方が有利であろう。ここまで法科大学院の不人気が周知の事実となり、予備試験の合格率が低く抑えられているので、日本の大手企業の法務部の人たちは、法科大学院卒よりも、若い予備試験合格者は優秀との認識があるだろう。予備試験の合格者が増えすぎるとこのバランスが崩れてしまい、予備試験合格者の就職が有利ではなくなるであろう。


予備試験合格者の価値は、現在の微妙なバランスによって保たれているのではないかと思う。予備試験合格者が優秀かどうかというだけでなく、優秀そうに見えるかどうかが価値を決めるのではないか。













2014年6月13日金曜日

会員を見ていない日本の弁護士会

最近、American Bar Association (ABA) http://www.americanbar.org/aba.html から勧誘の電話がよくかかってくる。
断っておくが、アメリカン・バー・アソシエーションは任意加入団体である。つまり、強制加入団体である日本の日弁連とは全く性質が異なる。つまり、会員にとって魅力のある団体でなければ、会員は余計な費用を支払ってまでアメリカン・バー・アソシエーションに加入しようとは思わないのである。だから、会員にとっての魅力を意識した勧誘になる。つまり、会員が何を望んでいるのか無視することはできないのである。

勧誘員は、アメリカン・バー・アソシエーションに入ると、こんな良いこともあります、こんな良いこともありますと、会員にとっての利益を矢継ぎ早に説明していく。どうやら、項目が書いてある紙が手元にあるようだ。
「今なら、3ヶ月無料でこのサービスが受けられます。継続する義務もありません。どうですか、入ってみませんか。」と言っている。

「結構です」と電話を切ったあと、日本の弁護士会に加入した場合の利益はなんだろうかと考え込んでしまった。

弁護士会に加入しなければ、弁護士と名乗れない、弁護士業務を行わせてもらえない、というのは利益なのだろうか。単に脅迫されて仕方なしに弁護士会に加入している人が多いのではないか。

弁護士会は、弁護士会費を使って、不必要に豪華な会館を建築したり、不必要に人を雇ったり、無駄としか思えない会費の使い方をして、お金を垂れ流している。さらには、強制加入団体でありながら、政治声明など発表している。他の意見を持っている会員の人権を侵害する行為とも言える。

強制加入に甘えて、会員を見ていない日本の弁護士会。強制加入にするなら、弁護士会は本来の目的に縮小すべきではないかと思う。もし、業務を拡大したいなら、任意加入団体にすべきであろう。

2014年6月5日木曜日

金になるクライアントと金にならないクライアント ― 法律事務所はクライアントを天秤にかけている

このブログでも何ども書いているが、アメリカの法律事務所は営利を目的としている。つまり、リーガルサービスを提供することで報酬を得て、事務所として利益を最大限にすることが存在目的なのである。その点は、他の大企業と同じなのである。

そこで、法律事務所として利益を最大限にするための戦略が立てられる。法律事務所の利益とクライアントの利益が相反する場合、法律や弁護士倫理に反したり、法律事務所の評判を損なったりしない限り、法律事務所の利益が優先される。その最適な例が、誰をクライアントにするかである。事務所が大きくなれば必然的にコンフリクトが問題になる。簡単なコンフリクトの例をあげると、L法律事務所がA社というクライアントを代理してA社がB社に対して訴訟を起こした。その後、C社がL法律事務所の他の弁護士にA社に対して訴訟を起こしたいからL法律事務所を使いたいと言ってきた場合、L法律事務所はA社をクライアントとして抱えたまま、A社に対して訴訟を提起する代理をするわけにいかない。つまり、どちらかを選択しなければならない。

C社がA社に対して起こそうとしている訴訟がとても大きな訴訟で、年間の売り上げ予想が3億円だったとしよう。それに対して、A社がL法律事務所に支払っている年間の弁護士報酬が1000万円だったとしよう。A社のケースとC社のケースを天秤にかけた場合、どちらが重いかは明白である。A社を事務所から追い出してC社のケースを受任できる方法があれば、利益を最大限にしようと考えている営利団体である法律事務所は、C社のケースを受任できる方法を選択するだろう。そのためには、A社をクライアントとしているパートナーを追い出すことすらある。

一般のビジネスに置き換えてみれば当然のことである。つまり、年間1万個しか製造する能力がない会社が、E社というディスカウント値段で支払いが納入後90日という条件で1万個購入してくれる会社と取引をしている時に、F社という20パーセント高い値段で支払いが納入後30日という条件で1万個購入してくれる会社から購入の申し込みを受けた場合、E社との取引をやめてF社と取引するのが利益を最大限にするビジネス的判断であろう。

法律事務所も自由競争をさせれば、通常のビジネスと全く同じようにビジネス判断をするのである。

法律事務所も規模が小さいうちは、事務所の規模を拡大して社会的な知名度を高めるために小さい会社の事件を引き受けたり、有名な会社の事件をただ同然で引き受けたりする。

しかし、規模が大きくなり、ある程度クライアントを選択できる立場になると戦略的にだれのどのような事件を引き受けることが事務所の利益拡大につながるのか戦略を立てるようになる。つまり、儲からない仕事を持ってくるクライアントの事件を引き受けないのである。

このように法律事務所はクライアントとその事件をいつも天秤にかけて測っているのである。このようにして、お金のある企業とお金のない企業で受けられるリーガルサービスに違いがでてくる。

日本で司法改革によって法律事務所も自由競争を叫んでいる人たちは、これが真の意味の自由競争であることを分かっているのだろうか。

2014年5月26日月曜日

エクイティーパートナーの悲劇

3年位前、資金繰りの問題で解散した大手事務所のエクイティーパートナーであった弁護士と話をした。
クライアントの多い稼ぎの良い弁護士がどんどん移籍したため事務所のコストを支払い続けることが出来なくなったのである。


エクイティーパートナーとは、事務所のエクイティーを持っているパートナーのことで、事務所の経費を全部支払った後の残りの利益の分配を受ける権利を持っている。多くの事務所はエクイティーパートナーになる条件として巨額のお金を支払うことを求め、その支払いのために銀行から借金をする弁護士が多い。事務所がうまくいっている時の利益は多いが、事務所の利益がない場合には、全く利益を受け取ることが出来ないことになっている。事務所が破産しても、拠出した金は戻ってこない。つまり、拠出金のための借金はそのまま残ることになる。


「もう、随分経ったのに、未だにエクイティーパートナーだったからと言って訴えられる。事務所から得た利益を全部返して事務所の負債を返済しろと言ってくる。もう、エクイティーパートナーにはなりたくない」と話していた。


エクイティーパートナーだった頃は収入も多かったのではないかと聞くと、具体的な額には言及しなかったが、事務所の経営がうまくいっていた頃はかなりの収入を得ていたようだ。


事務所の稼ぎ頭の部署が部署ごと他の大手事務所に移籍してしまってから、事務所の経営がおかしくなったようだが、おかしくなり始めて直ぐに事務所から移籍してしまったエクイティーパートナーは巨額の収入だけ得て、訴えられる等の不利益を受けることなく逃げ切ったようだ。


その、元エクイティーパートナーが、最後に自分の娘の話をしていたのが印象的だった。
「娘に、『ロースクールには絶対に行くな。弁護士には絶対なるな』といったのだが、娘はロースクールに入学してしまった。有名なロースクールを卒業しても70パーセントしか就職が出来ない時代だ。それなのに、娘はロースクールの一学期だけで3万ドル(1ドル100円で300万円)もの借金を負ってしまった。大学卒業直後に何の専門もない学生がロースクールに行っても、簡単に就職できないだろう。それでもたくさんの学生がロースクールに行く。現状はある程度分かっていても、『自分だけは違う。自分は他より頭が良い。稼ぎの良い仕事に就ける。』って思うのだろうけれども、そんなことはないんだよ。」


ロースクールを卒業するには、6学期あるので、卒業時点での借金の予想額は単純に計算すると300万円×6で1800万円となる。

2014年5月19日月曜日

クライアントを訴える法律事務所?


Kelly Drye & Warren, LLPがクライアントであったOrbusneichに対して14,560,000ドル(1ドル100円で計算すると14億円を超える)弁護士費用を支払えという訴えを起こしているようだ。訴訟に至った内容について説明はしないが、支払いを拒否するクライアントの主張も十分理解できる事案である。
http://patentlyo.com/hricik/2014/05/kelley-collecting-million.html

確かに法律事務所自体が直接クライアントを訴えるのはそれほど多いことではない。
ただ、6ヶ月以上支払いがなかった弁護士報酬債権を債権回収会社に売却するのは一般的である。その場合、債権回収会社が支払いを求めてクライアントに対し、訴訟を起こすことは十分ありうる。

大きな事務所になればなるほど、債権回収会社に売却してしまいがちである。弁護士数が100人に満たないような小規模の事務所であれば、僅か年間3000万円の仕事を依頼するクライアントでも大事なクライアントであるので、遅れながらも弁護士報酬を支払ってくれそうで今後も継続してクライアントとして仕事を依頼してくれる見込みがある場合には、訴訟とか債権回収会社に売却するようなことはなるべく避けようとするかもしれない。しかし、弁護士が1000人規模の法律事務所から見れば、たとえ年間1億円の弁護士報酬を発生させる仕事を依頼するクライアントだったとしても全体の収入から見れば、1パーセントにも満たないのである。ビジネスライクに債権処理をすることになる。そこで、そのクライアントとの関係によっては、容易に債権回収会社に弁護士報酬債権を売却してしまう可能性が高くなる。


このままの司法改革を進め、さらに予備試験に受験制限をつければ、日本の法律事務所が衰退するかも知れないという投稿を以前にしているが、もし、外資系法律事務所が日本法に関する企業法務を担当するようになった場合、支払いを遅滞しているクライアントの弁護士報酬債権が債権回収会社に売却され、債権回収会社がクライアントに対して訴訟提起するのが一般的な時代になるかもしれない。

2014年5月16日金曜日

儲かる仕事は外資系法律事務所の手に?

このブログを書き始めてからずっと気になっていたことが着々と現実になっているのではないか。

気になっていることとは、海外とのかかわりのある日本の企業は、外資系法律事務所に仕事を依頼せざるを得なくなり、最終的に日本の事務所は小規模な企業か個人に関する法律問題というあまり儲からない数少ないパイを皆で奪い合う時代がくるのではないかということである。

上記が現実となるために必要なことは主に3つだろう。まずは、優秀な人が日本の弁護士資格取得を目指さなって、日本の弁護士はアメリカの弁護士より優秀であるという認識がなくなることである。2つ目は外国法事務弁護士や外資系法律事務所が日本でリーガルサービスを提供しやすいように日本の法制度が改正されることである。3つ目は日本企業の海外での活動が増えることである。

最近、全ての条件が揃い始めている。

1つ目の条件に関し、司法改革の失敗から優秀な人材が法曹を目指さなくなってきたことが指摘され始めている。加えて、優秀層が挑戦する予備試験に受験制限を求めようという動きまであるようだ。
http://www.doyukai.or.jp/policyproposals/articles/2014/pdf/140509b.pdf

これによって、金のない優秀な人のみならず、金持ちの家に育った優秀層も考え方を変えるかもしれない。日本の法律資格を取っても金があって能力がないとのレッテルを貼られる可能性があるので日本の法曹を目指さなくなるかもしれない。

1つ目の条件を満たしたとしても、海外の弁護士資格取得者に対する日本での活動範囲の制限があれば日本の法律事務所は守られ続けるだろう。しかし、その制限が徐々になくなっているようだ。この動きはさらに加速するだろう。
http://www.bengo4.com/topics/1421/

3つ目の条件に関してであるが、人口減少によるマーケットの縮小やグローバル化などにより、外を向いている日本企業が非常に増えてきた。日本の中だけで解決できない法律問題が一気に増えてきている。

日本の大手事務所も必死になって海外オフィスを作っているが、少なくなってきた国内向けの仕事だけでは、巨大化した事務所維持は大変なのかもしれない。

優秀な人材とクライアントが外資系法律事務所に吸い上げられてしまうと、日本の事務所はひとたまりもない。資金力のある外資系事務所は高い初任給で日本の資格を持った優秀層を囲い込む力がある。既に、日本の大手事務所の中には、1000万円を下回る初任給しか出せなくなっているところも出ているようだ。600万円を法科大学院の学費として費やし、卒業後最短でも司法修習が終わるまでの1年9ヶ月くらいの生活費を借金するか親から支援を受けるにより何とか切り抜けてでも弁護士になろうという思わせるためには1000万円以上の初任給は必要であろう。以前と比較すればかなり円安になった現在、外資系法律事務所にとって日本円で1000万円を超える初任給を支払うことは容易である。

海外関連の法律問題がある企業(クライアント)も徐々に外資系法律事務所に吸い上げられているようだ。海外に関する案件はどの国に関しても英語で行われることが多い。わずか2年程度を海外で過ごした日本人が常日英語で仕事をしている外資系事務所の弁護士に勝る仕事をするためにはよほど優秀でなければならない。しかし、優秀層は着実に減ってきている。日本の法律事務所が単に外国の事務所とクライアントとの仲介をするだけであれば、直接外資系法律事務所に依頼した方が良いと思うクライアントが増えてもおかしくないだろう。日本の法律事務に関しても外資系事務所に吸い上げられてしまった数少ない優秀な日本の弁護士に依頼するのがよいということになるかもしれない。

今まで、国内案件が主であった企業は国内の事務所を主の事務所として、海外案件があるときはその事務所を通じて海外の事務所を使ったかも知れない。しかし、海外案件で弁護士を使うことの方が国内案件で弁護士を使うことより多い企業であれば、主の事務所を外資系法律事務所として、国内案件についても同じ外資系事務所の日本弁護士を使うことになるだろう。

このようにして、徐々に、外資系事務所との結びつきがない日本の法律事務所は企業にとって使い勝手が悪いとみなされるようになってきているのではないか。

既に外資系事務所と運命を共にするとの決定をした日本の比較的大きな事務所もある。
http://www.bingham.com/Offices/Tokyo
http://www.bakermckenzie.co.jp/e/
http://www.mofo.jp/

日本にオフィスを置いている外資系法律事務所は数え切れないほどある(思いついたものをいくつかあげておく)。
http://www.linklaters.com/Locations/Pages/JapanTR.aspx
http://www.ommtokyo.jp/
http://www.whitecase.com/ja-JP/Locations/OfficeDetail.aspx?office=42
http://www.dlapiper.com/ja/japan/insights/publications/2012/07/dla-piper-in-tokyo/
http://www.morganlewis.jp/index.cfm/fuseaction/content.page/nodeID/0cd6afdf-6aa2-46d2-96d0-df6aee7e5abb/
http://japan.squiresanders.com/ja/lmshome.aspx
http://www.hoganlovells.jp/ja/offices/Office.aspx?office=12
http://www.lw.com/offices/tokyo
http://www.foley.com/ll-ja-jp/japan/
http://www.paulhastings.com/ja/about-us
http://www.cliffordchance.jp/


断っておくが、これらの外資系大手事務所は有名ロースクールを優秀な成績で卒業した者しか雇わない。


予備試験の受験制限ができれば、旧司法試験組みがいなくなる頃には、企業法務と言えばたとえ日本法に関する企業法務であっても外資系事務所に依頼するという時代が来るかもしれない。予備試験の受験制限を唱えている財界人は、そこまで考えているのだろうか。

2014年5月13日火曜日

アメリカンドリームは過去の話 ― 学費の借金に潰される 

アメリカでは、大学以上の教育機関の学費が毎年上がっている。
リーマンショックで、他のほとんどの費用が下がったときも、学費だけは上がり続けた。
ロースクールも高いが、大学も高い。それも有名校は私立大学である場合が多く、学費が日本の感覚では信じられないほど高い。こんなに高くて誰が大学に行けるのだろうかと疑問に思うくらいである。ただ、世界各国からアメリカで教育を受けようと学生が集まってくるので、学費を下げずにやっていられるようだ。

一般のアメリカ人は少しでも安く大学に行くために皆苦労している。
州立大学などは、州内に一定期間以上居住している学生の学費を若干安くしているので、優秀な学生であっても、有名な私立大学ではなく、近くの州立大学に入学する。
スポーツが得意な学生はスポーツ入学による奨学金を狙っている。アメリカでスポーツが盛んな理由はここにあるのではないかと思ってしまうくらい真剣になっている親もいる。
さらに、子供を大学に進学させたい親は、子供が生まれたらすぐに大学のための学費を貯蓄し始める。
孫が生まれたからと、2歳、3歳の孫の将来の大学の学費用に投資を始めるのも最近では普通になってきている。

金持ちの家に育っていない奨学金を受けられない子供は、借金をして大学に通うか、進学を諦めるか選択しなければならない。

受けられる教育の違いから、金持ちはより金持ちになり、貧困層は貧困層として固定するようになっている。
「もう、アメリカンドリームは過去の話なのか」とアメリカのメディアで話題になることも多くなった。


しかし、これは、単にアメリカだけの話だろうか。ちょっと目を向けてみると、日本では国公立大学の学費が非常に高くなり、返す奨学金、つまり借金をして大学にいった学生が卒業後苦しみもがいている。それだけではない。アメリカを模倣して法科大学院等、色々な大学院が出来上がり、原則として卒業が国家試験を受ける条件となっていたりする。

日本の弁護士の中には、弁護士の人数を減らすことに主眼があるかのように法科大学院に反対している人が多い。しかし、人数が云々は副次的な問題なのではないか。

もっと大きな視点で見てみれば、学位を要求する制度を作ることで、金持ちでない家に生まれ育った優秀で真面目な人からその能力を発揮する機会を奪っていることではないか。


こんなことを続けていれば、日本が国として衰退していくのではないか心配である。






2014年5月7日水曜日

大手事務所に移籍したパートナーの消息

大手事務所(500人以上弁護士のいる事務所)にパートナーとして移籍した知っている弁護士のその後の消息をウエブで調べてみた。

驚いたことに、半数以上のパートナー弁護士が移籍したはずの大手事務所から3年以内に消えている。中には、他の大手事務所に移籍している場合もあるが、行方不明に近いような人もいる。アメリカの弁護士の多くはLinkedInのアカウントを持っているが、自分のプロフィールを更新しなくなった人もいる。

一応事務所には所属しているようだが、よく見ると個人事務所である場合、つまり自分で事務所を設立している元パートナーもいる。

中小規模の事務所に所属している人もいるが、どうもウエブサイト上での印象と実際の事務所とは違うだろうと予想の付く事務所であることが多い。つまり、ウエブサイト上では30人~50人くらいの弁護士が所属する中規模の事務所のように見えても、実態は個人事務所の集合がウエブサイト上でのみ大きな事務所のように見せている事務所である。
見せかけだけ規模がある事務所は下記のような特徴がある。

・ 弁護士の数と比較して、オフィスの数が多い、例えば、30人程度しか弁護士が所属していないのに、ヒューストンオフィス、ロスオフィス、シアトルオフィス、ワシントンDCオフィス等、5つくらいオフィスがある。海外オフィスまであったりする。

・ 同じオフィスにいるはずの弁護士の直通番号が下7桁くらいバラバラである。もし、同じオフィス内にいる場合は、下4桁だけが異なるのが通常である。

・ 弁護士の写真が載っているが、背景など写真の撮り方がかなりバラバラである。


大手事務所にパートナーとして移籍した弁護士は、原則として新しい事務所から仕事を与えられない前提で事務所に入ってきている。そこで、自分で大手事務所で求められる年間1億円程度の売り上げを出せない場合には、辞めさせられることになる。
アメリカは法律事務所に限らず、容赦がない。仕事をもって来れないと分かれば、1年~2年程度で辞めさせられる。

そこで、クライアントの一部しか一緒に移籍してくれなかった、あるいは、移籍したいがために移籍交渉中に大きなことを言ってみたが(年の売り上げを倍で申告した等)、そのとおりにならなかった場合など、弁護士は大手事務所を辞めざるを得なくなる。そこで、次の移籍先を探すことになるが、1,2年おきに事務所を転々としていては、最初は一緒に移ってくれたクライアントからも最終的に見放されることになるだろう。


このようにして消えていく弁護士がアメリカには数多くいるのである。

2014年4月30日水曜日

新人で社内弁護士?

日本では、社内弁護士が増えてきているというニュースを聞くが、よく聞いてみると、多くの会社が、弁護士としての経験が全くない新人弁護士を社内弁護士として雇っているというから驚きである。

アメリカでも社内弁護士の求人広告を見ることもあるが、大手事務所で最低でも3年以上の弁護士経験が必須と記載されていることが多い。マネジャーレベルの社内弁護士の求人であれば、10年以上の経験が要求される。その代わり、企業は、一般の社員とは異なる社内弁護士としての高い給料を支払うのが通常である。

弁護士資格を持っていても、通常の社員として働く人もいないわけではない。ただ、その場合は、社内弁護士というカテゴリーには当てはまらない。


それと比較して弁護士としての経験が全くない新人を社内弁護士として多く採用しているらしい日本の企業は、何の目的で社内弁護士を雇っているのだろうか。

大手事務所で働いた経験のない弁護士を社内弁護士として雇っても、大手事務所がどのように企業にチャージをするのか、分からない。自分で自分の時間をつけた経験のある弁護士は、不必要なチャージかどうかについても経験上分かるし、どのように弁護士を使えばチャージ時間が少なくなるかも分かる。

社外の弁護士にすべて外注せず一定レベルの法律問題は社内の弁護士に処理させて経費を削減しようという方針をもつ大手企業は増えているが、社内の弁護士が新人では経費を削減するだけでなく、質まで落としてしまう危険がある。

また、新人弁護士は未経験のために弁護士の能力の良し悪しの判断や外部弁護士の仕事を十分に監視できないのではないか。アメリカの社内弁護士は大手事務所での弁護士経験が長い人も多く、色々なことをよく知っているので、日本のクライアントと違って鋭い批判が返ってくることも多いが、法律事務所での経験のない企業内弁護士にそのような監視能力があるのだろうか。

他の企業との交渉の際に社内弁護士を担当させた場合、経験はないのに下手に弁護士という肩書きがあるので、間違った方向に会社を導いてしまう虞はないのか。




新人弁護士を社内弁護士として雇う日本企業を見ていると、新卒にこだわる日本の文化なのか、同期の社員との給料に格差をつけられないという企業文化のせいなのか。首を傾げたくなる。

アメリカと同じようなロースクール制度を導入してみても、同じにはならない例の一つなのだろう。


2014年3月28日金曜日

ホラー映画より怖いロースクールの現実

Abave the Lawというアメリカ法曹に関する、わりとよく読まれていて信頼もあるブログがあるが、そこに、ホラー映画より怖いと思われるアメリカのロースクールの現実に関する統計が出ていた。

http://abovethelaw.com/2014/03/the-law-schools-with-the-most-heavily-indebted-graduates/

ロースクールに行くために卒業生が負った借金の平均をロースクールごとにランキングしているのである。
1ドル100円で計算しても1500万円を超えているロースクールがほとんどである。


ランキングのもととなっている統計はこちらのようだ。

http://grad-schools.usnews.rankingsandreviews.com/best-graduate-schools/top-law-schools/grad-debt-rankings

さらに、ロースクールごとに、卒業生の何パーセントが借金しているのかの統計が出ている。75パーセントから90パーセントの卒業生が借金している。


恐ろしいことに、この統計には、ロースクールに入る前に卒業した大学のための借金は含まれていないそうだ。


この記事の良いところは、就職率の統計もあわせて検討しているところである。

リストを見てもらえば分かるが、非常に低い。驚くべき低さである。有名校はわりと高い率になっているが、有名とは言えないロースクールは50パーセントをきっている。

面白い表現は「As we’ve noted previously, going to a low-ranked law school is like “playing Russian Roulette with your financial future.” 」である。
ランキングの低いロースクールに行くことをロシアンルーレットにたとえている。


何のためにこれほどの借金をしてロースクールを卒業したのか、自問自答している卒業生は星の数ほどいるのであろう。
知らないというのは、本当に怖いことである。

2014年3月22日土曜日

アメリカの弁護士費用を抑えるにはどうすればよいのか?

日本企業が使うようなアメリカの法律事務所の弁護士はアワリーチャージで弁護士報酬を決定する。しかし、クライアントの立場からすれば、本当にそれだけの時間弁護士が働いたか確認するすべはない。

難しい法律問題が絡んでおり、時間がかかる事件もあるし、時間がかかるように見えるけれども、実はあまり時間をかけずに出来ることもある。

単に弁護士に、報酬が高すぎると文句をつけるだけだと、あのクライアントは金払いが悪い良くないクライアントと認識され、弁護士が事件処理を後回しにしたり、真剣に取り組まなくなったりする可能性もある。


では、クライアントは不当に高額なチャージをしてくる法律事務所に何も言えないのだろうか。


そんなことはないだろう。


クライアントに渡される唯一の手がかりは、誰が何日に何時間何をしたかという明細である。

クライアントとして、まず、出来ることはこの明細の書き方について指示することである。例えば、アソシエイトが3月22日に7時間働いたと付けたとする。その明細が会議の出席と、判例のリサーチ、ドキュメントレビューとなっている。こうなっていると、7時間が妥当なのか不当なのか分からない。そこで、まずは、項目をまとめて時間をつけないように指示する。会議、判例のリサーチ、ドキュメントレビュー、それぞれ別々に時間をつけるように指示する。さらには、会議は何の会議だったのか、出席者が誰だったのか、判例のリサーチはどのような法律問題に対する判例のリサーチなのか等、詳細を記載するように要求する。

何故、このような要求をすることが必要なのか。

このような要求により、同じ会議に出席した同じ事務所の弁護士がどのように記載しているのか明細を比較して、矛盾や不一致を見つけることができる。
また、何のための会議か書かせることにより、当時そのような会議を開く必要があったのかどうかを確認することが出来る。
判例リサーチの内容についても、具体的に書かせることによって、こんなことのリサーチのためにこんなに時間を使うのかというのが分かる。

このように詳細な記載を要求することによって、弁護士の立場から見て、不当に多くの時間をつけ難くなる。将来の割り増し請求を抑止する効果もある。

また、弁護士に請求書の明細について文句をつける場合も、まずは質問をするという形がよいだろう。

ケチではないし、良いクライアントであるけれども、細かいところまで見ているクライアントなので、時間をつける時に注意が必要であると思わせるのが必要である。ビリングパートナーに質問すれば、それが、アソシエイトレベルにも周知されて、アソシエイトもそのクライアントには安易に時間を付けられないと認識する。
文句をつける場合も、ビリングパートナーについてではなく、まず、アソシエイトレベルの時間の付け方に文句を言うのがよいだろう。「ビリングパートナーはとてもよく働いて満足なのだが、」と褒めておきながら、アソシエイト等入れ替えがきくような人の行為に文句を言うと、アソシエイトの暴走を止めてくれるが、ビリングパートナー自身も駄目だと責めてしまうと、クライアントがアメリカでも有名でない限り、クライアントの方が悪いと言い出しかねないからである。

時間のノルマをこなすために、アソシエイトは、文句を言ってこないクライアントに水増しして時間を付けがちである。明細を確かめるのは手間がかかるかもしれないが、月に支払っている弁護士費用が1割から2割安くなるのであれば、それだけの時間をかけても損はしないだろう。


ただ、小さい仕事しかない小さいクライアントで、1回の仕事で終わってリピーターになることはないクライアントと認識されると、上記に記載したような対策も、どの程度役に立つか疑問であるが。。。

2014年3月8日土曜日

大手事務所は例外事例

日本の人は、アメリカの大手事務所の弁護士を基準に、「アメリカの弁護士は。。。」「日本の弁護士は」と比較する人が多いが、これはナンセンスである。

大手四大事務所の弁護士だけが弁護士であるかのように日本の弁護士について語っているようなものである。

アメリカの弁護士の方が日本の弁護士より優秀だと言っていた人に会ったが、よく聞いてみると、比較しているアメリカの弁護士はすべて超大手事務所(1000人規模で弁護士がいる事務所)にいる弁護士で、日本の弁護士は、極普通の5人から10人の弁護士がいるような事務所の弁護士を指して話しをしていた。

大手事務所に採用されるためには有名なロースクールで優秀な成績をおさめる必要がある。日本の四大大手事務所レベルのアメリカ事務所に採用されるのは、アメリカの新人弁護士のせいぜい上位5パーセントくらいに過ぎない。

日本企業がアメリカの弁護士に依頼するときは、特殊分野でない限り、大手事務所の弁護士を雇うのが一般的なので、弁護士全体の割合からすれば極わずかの大手事務所の弁護士がアメリカの弁護士のすべての様な論調で、「アメリカの弁護士とは」を語っている人が多い。

これは本当にナンセンスだと思うが、これこそが、アメリカのロースクール制度を模倣した司法改革の原点なのではないか。アメリカの大手事務所だけを見てきた日本人が、就職難にあえぎ、資格はあるけれども弁護士として十分活躍できていない一般のロースクール卒業生と接する機会を持たないまま、アメリカのロースクールを模倣すれば、アメリカのようなすばらしい未来があるとして司法改革が進められてきたように見えるのは私だけであろうか。

2014年2月20日木曜日

アメリカで多数の弁護士が必要になるわけ

日本で弁護士の数を増やす必要があるという議論が主流であったころ、日本の弁護士の数はアメリカの弁護士数と比較されていた。

しかし、制度の違いを考えずに数だけ比較するほどおろかなことはない。

アメリカで多数の弁護士が必要になるのは当然である。制度が全く違うのである。

まずは、アメリカは対外的には一つの国であるが、50の独立国家がそれぞれ自分たちの法律をもっているのと変わらない。連邦政府は、一部についてしか法制定権限を持っていない。日本の中央政府と地方自治体の関係とは全く違うのである。50の国家があれば、50の国家に見合うだけの弁護士が必要になるだろう。
例えば、ある州で企業が事業を始める際に、州法と連邦法の両方の規制を調査しなければならない。また、同じ事業を他の州で行う場合には、他の州に関する規制を調査しなければならない。つまり、それだけ弁護士が必要になる。

たとえ、連邦裁判所であっても、日本の民事訴訟法規則のようなものは、各連邦地方裁判所が勝手に作っている。そこで、大手事務所であっても、自分のオフィスがない場所での訴訟については、そこの連邦地方裁判所の民事訴訟法規則や裁判官に熟知している地元の弁護士をローカルカウンセルとして雇うのである。当然、一つの事件に多くの弁護士を抱える必要が出てくる。

アメリカは原則として判例法の国であり、成文法の国である日本より、弁護士の業務内容が異なる。つまり、アメリカは原則として判例が法であるから、関連ケースに関する判例はすべて調べ上げる必要がある。自分のケースに都合の悪い先例については、自分のケースの事案とは〇〇が違うから自分のケースには適用されないと主張する。自分のケースに都合の良い判例は、自分のケースの事案と〇〇が同じだから、適用されるべきだと主張する。つまり、すべての判例の事案を読んで分析するという作業が必要になるのである。判例分析に費やす作業は膨大である。さらには、50の州で別々の判例があるので、前に調査した別のケースの判例は役に立たないことも多い。

ディスカバリーの制度がある。ここではディスカバリーが何であるかは割愛するが、この作業には膨大な作業が必要になる。つまり、多くの弁護士が必要になる。

アメリカでは個々の法律が非常に長く、解釈上問題となるような問題点が多い。日本では法案を作るのは行政官僚であるが、アメリカでは議員立法が主流である。日本の優秀な官僚が作った法案は、すべてのケースを綿密に計算し、簡潔で穴がない。これに対し、アメリカの法案は、非常に長く、解釈上問題があるようなものが多く、場合よっては間違いまであるようなものまである。法文が長く複雑になればなるほど、弁護士でなければ、解釈できない。また、曖昧な法文は、弁護士が法廷で争えるソースの宝庫となる。つまり、それだけ弁護士が必要となる。

議員立法が主流と言ったが、多数の弁護士を秘書として抱えている議員がほとんどである。それらの弁護士スタッフによって議員立法の案が作成される。つまり、それだけ弁護士が必要となる。日本ではほぼ考えられない。また、弁護士がロビーストとして働いていることも多いが、ロビーストという職業も、アメリカ特有の法律制定の仕組みと政党構造でありえる活動と言えよう。つまり、アメリカの猿真似をして日本の弁護士もロビースト活動を行おうというのは両者の違いを理解していない日本にありがちな勘違いである。

日本では弁護士が扱わないような分野でも、アメリカでは弁護士が扱わざるを得ないことがある。例えば、日本は、土地の登記が全国共通でしっかりしたものがあるため、土地の取引に弁護士が出て行かなくても大手の不動産会社に任せておけば、あとは司法書士を使うだけで足りる。アメリカでは不動産法もコモンローを原則とするアメリカでは、権利関係の調査も複雑で、弁護士が必要となる場合が一般的である。また、会社の登記関係などの日本では司法書士の仕事、特許の出願などの日本では弁理士の仕事も、基本的には弁護士の仕事である。

また、訴訟を起こしやすい制度が整っている。ディスカバリーによって証拠収集が可能になり、訴額によって裁判所に支払う費用が高くならない、懲罰賠償やクラスアクション、陪審制なども手伝って損害賠償額が高くなる。訴訟が起こしやすくなれば、多くの弁護士が必要になる。

アメリカは日本と比較すると行政サービスがあまり充実していないので、日本では行政がやるようなことを弁護士がやっていることもある。

そのほかにもアメリカには弁護士が必要な制度があらゆるところに見られる。すべて挙げればきりがない。


日本にいくら弁護士を増やしても、日本のドメスティックな事件を扱う弁護士の需要は増えるとは思えない。日本には、弁護士が必要になるアメリカの制度がないのである。

最後に一言付け加えるが、こんなに弁護士が必要になる制度があっても、アメリカでは弁護士が余っている。









2014年2月4日火曜日

クラスアクション制度、懲罰賠償制度、ディスカバリー制度を日本でも採用すべきか?

日本にはアメリカのような訴訟の数を増やすために必要な条件が揃っているという投稿をしたことがある。日本でもアメリカと同じように訴訟の数を増やすための制度、例えば、クラスアクション制度、懲罰賠償制度、ディスカバリー制度等のある意味、訴訟を提起された側の負担はかなり増すけれども、訴訟の数を増やす方向に向かう制度を導入しようという話しが持ち上がるかもしれないし、ある分野では実際に持ち上がっているようだが、



少し警笛を鳴らしたい。



日本企業がアメリカに進出する際、通常のビジネス感覚があれば、アメリカ進出によって得られる利益とアメリカ進出による危険を分析してビジネス判断を下すであろう。アメリカに進出する企業は訴訟を起こされる可能性や、そうなった場合の負担などのリーガル上の危険が日本に比較して膨大であることを十分認識しているであろう。それでもアメリカに進出するには、危険以上のアメリカに進出する魅力があるからである。


日本が、日本で事業を拡大する魅力を増大させることなしに、リーガル上の負担だけを増大させたら、どうなるだろうか。日本の優良企業が外を向いてしまうのではないか。また、海外の企業も日本に進出しなくなるのではないか。


例えば、日本とアメリカの人口比較を例にとって考えよう。
現在の日本の人口は、2014年1月1日現在で1億2722万人と言われているが、アメリカの人口は3億1700万人と言われている。アメリカは毎年人口が着実に増えているので、毎年人口が減り続けている日本の人口がアメリカの人口の3分の1以下になるのは時間の問題である。また、少子高齢化により、高齢者の比率が諸外国では考えられないほど高くなっている。
ちなみに1990年のアメリカの人口は2億5000万人で、日本の約2倍であった。

何が言いたいのかというと、人口の減少により購買力のある人口が減っている日本、今後の高齢化により購買意欲がある人口の割合が減ってくる日本に企業が魅力を感じるのかと問いかけたい。
現在は年金が保証されている高齢者が多いので高齢者にも購買欲があるが、これから年金支給開始年齢が上がれば、高齢者は生活最低限の物しか購入できなくなる。
日本のマーケットとしての価値が低下していくのである。



日本と対照的に、アメリカは先進国の中で一番高齢化が進んでいないし、移民を受け入れていることもあって人口が毎年着実に増え続けている。購買欲があって、ある程度高価なものを購入できる人が多く住んでいる魅力的なマーケットである。また、アメリカで企業の知名度が上がれば、その他の国でも知名度が上がり、グローバル企業になるための足がかりにもなる。

若干の危険があっても、魅力がそれをはるかに上回るので、企業としては進出に踏み切るのである。

人口減少と購買意欲のある人口比率が減ることが確実な日本はマーケットとして魅力がなくなっていく。それに輪をかけてリーガルの負担を増大させたら、日本はさらに魅力のないマーケットとなるのではないか。

既に、長く続いた円高によって日本企業の工場は海外に拠点を移してしまい、せっかくの円安があまり還元されていないと言われている。

日本が訴訟社会になれば、日本の優良企業はさらに海外を向くようになるのではないか。それにともなって、結局、日本企業の海外進出に関するリーガルサービスを手がけられるような弁護士の需要が高まるだけで、国内専門の弁護士の需要が高まるとは思えないのは私だけだろうか。



2014年1月26日日曜日

所属弁護士の数はあてにならない!?




アメリカ中小の事務所で最近みられる傾向は、ウエブサイト上は、ある程度の規模がある事務所に見えるけれども、実態は、日本人がウエブサイトを見て想像するような事務所とはかなり違うというものである。




ウエブサイトを見ると、例えば、50人の弁護士が、複数のオフィスに所属していて、30年の歴史がある立派な事務所に見えるとする。
しかし、実態は、例えば、こんなことだったりする。極小さなオフィスが、2,3箇所あって、ほとんどの弁護士は自分のオフィスを持たず、家からリモートで仕事をしている個人事務所の集まりであり、30年の歴史があるというのは、個人事務所のうちの一部の弁護士が30年前からプラクティスをしているというだけである。事務所の所属弁護士は基本的には個人事務所なので、同じ事務所に所属しているといっても、一緒に働くことはほとんどなく、一人でこなせないほどの仕事が来た場合には、他の弁護士に個別に仕事を頼むこともあるという程度である。


このような法律事務所側は、大きな事務所を借りる必要がないので、経費が削減でき、クライアントへの利益にもなると言っている。


ただ、このような形態の事務所に、一人や二人で処理できないようなタイプの仕事を依頼してしまうのは危険だと思う。また、同じオフィスの中で働いていれば、廊下ですれ違ったときに、他の弁護士にカジュアルに相談することもあるだろうが、リモートで仕事をしていれば、わざわざ他の弁護士に相談するほどでないだろうと、自分の判断だけに頼りがちだ。つまり、仕事の質は依頼した弁護士の腕一本にかかることになる。


ウエブサイトは、実態をごまかしたり、自分を大きく見せたりと、とても便利なツールであり、ビジネス上手な弁護士はこれをうまく利用している。


日本でも弁護士が増えてきた今、ビジネスに長けた弁護士がこんな商売を始めてはどうだろうか。
貸しオフィスのような法律事務所を設立するのである。含まれるサービスは、サーバーシステムと会議室の貸し出し、ウエブサイト上の名前の掲載、電話の転送、法律事務所名のついた名刺の作成である。家で働けるようにするためのネット環境整備のサービスもする。そのサービスの対価として、個々の弁護士は一定額の支払いをしなければならない。


案外需要が高いのではないか。





2014年1月16日木曜日

優秀な弁護士にめぐり合うのが難しいアメリカ

アメリカの弁護士には、自分のことを「優秀な弁護士である」とか、「自分の事務所には優秀な弁護士がたくさんいる (だから自分に事件を依頼しなさいという意味)」という人は非常に多いのだが、残念なことに、本当に優秀な弁護士にめぐり合うのは非常に難しい。
優秀だという弁護士に仕事を頼んでみたら、基本的なことを理解していなかったり、間違ったことを言ったりする弁護士であることが判明する、なんてことはよくある。

以前、クライアントに依頼されて、超大手法律事務所の弁護士とのミーティングにクライアントと共に出席したことがあるが、有名パートナーが基本的なことについて間違ったことを言うので強く指摘したら、その有名パートナーは、「あとで調べる」と言ってその場を逃れた。調べた後に間違ったことが判明したにもかかわらず、自分が間違えたというふうに解釈されないような形でクライアントに説明するのが非常に上手なのに驚いた。これがこの弁護士の才能で、陪審員を信頼させるテクニックなのかと。

今の日本の弁護士事情は変わってきているのかもしれないが、少なくとも10年くらい前までは日本の弁護士に対して、優秀だと感心することの方が多く、がっかりするようなことはあまりなかった。

アメリカではがっかりすることの方が多い。
「優秀なアメリカの弁護士に出会ったら、その弁護士は、もう離さない。その人に何度も依頼する」と言っていた日本の弁護士に会ったことがある。それだけ、アメリカで優秀な弁護士を探すのは大変ということだ。確かにアメリカには使えない弁護士は多い。もしかすると、日本の優秀な弁護士に慣れてしまって、弁護士というのだから優秀に違いないと、間違った期待をしているのかもしれない。

ただ、大手の事務所(弁護士500人超の事務所)に新卒で入ってくる弁護士は有名なロースクールを優秀な成績で卒業しているので、ある程度ふるいにかけられている。また、大手事務所の使えない弁護士は辞めさせられる。そこで、期待はずれな弁護士に遭遇するという危険は、小さい事務所に依頼するより低くなる(ただ、能力よりか要領がよいだけという弁護士が必ずいるので、確率の問題に過ぎない)。

大企業が、巨額の弁護士費用を支払っても大手事務所に依頼する理由が分かる気がする。

日本でも優秀層が法曹を目指さなくなったと言われるようになったが、アメリカのようになっていく日も近いのだろうか。



2014年1月8日水曜日

アメリカ弁護士が安売りしたがらないわけ

アメリカの中規模から大手事務所の弁護士はアワリーチャージで報酬を請求するのが一般的である。そのリーガルサービスを提供するのに費やした時間×(かける)弁護士のアワリーレート=(イコール)報酬請求額である。

つまり、アワリーレートとは、その弁護士の1時間あたりの単価である。
弁護士が500人を超える大手事務所だと、新人弁護士のアワリーレートは350ドルくらいから始まる。アソシエイトのアワリーレートは事務所が勝手に決めるのが普通である。本人の意思や能力とは関係ないところで、定期的に一定割合のアワリーレートの値上げが行われる。例えば、2年目は375ドル3年目は400ドルというような感じである。

カウンセルやパートナーになると弁護士本人の意向やクライアントの需要等で、アワリーレートを変えることもある。

ただ、アメリカの弁護士は、自分のアワリーレートを下げることに抵抗がある。弁護士というだけでは優秀ということにならないアメリカでは、アワリーレートの高さは、弁護士としての能力を示す指標と思っている弁護士が多いからだ。1時間1000ドル(1ドル100円でも10万円)をチャージしても依頼してくるクライアントがいるというのは、それだけ弁護士としての能力が高いということになる。逆にアワリーレートが低いということは、アワリーレートを低くしなければ依頼してくるクライアントがいない、能力の低い弁護士ということになる。「あいつがこれだけのアワリーレートを請求しているのに、自分のアワリーレートがそれよりも低いということは、自分はあいつよりも能力の低い弁護士ということなのか。クライアントもそういう目で見るかもしれない」と思うわけである。

なので、アワリーレートのディスカウントをする場合でも、「あなたの会社は年間1億円近い報酬を支払ってくれる大切なクライアントさんなので、あなたにだけ特別私のアワリーレートをディスカウントしますよ」という理由のあるディスカウントはしても、規模の小さい企業の小さな事件に関してはディスカウントをしないのである。

規模の小さい企業から、あまりお金にならない仕事でディスカウントしてほしいと頼まれた場合、大手事務所は上手に依頼を断るだけだろう。

安売りしなくても商売が成り立つためには、弁護士に質のばらつきと、経験のばらつきがあることが前提となる。

日本でも弁護士というだけでは優秀ということにはならなくなってきた。アワリーレートの高さは弁護士の能力の指標であるという時代が来るかもしれない。




2014年1月3日金曜日

法廷ドラマはどこでも間違いだらけ

アメリカの法廷ドラマや映画で、弁護士が証人を尋問する際、証人の周りをうろうろと歩き回り、威嚇的に質問を重ねるのを見ることがあるだろう。実際の裁判で弁護士がそうやっていると思ったら、大間違いである。

弁護士は必要がない限り、証人に近寄っていはいけない。証人に証拠を提示したり、例えば、「書類の7ページの3行目を見てください」と証人に必要箇所を説明する時など、必要がある場合は、裁判官の許可を得て、証人に近寄ることができる。許可も得ずに勝手に証人に近づいたら、裁判官に注意を受ける。証人が萎縮して話せなくなるのを防ぐためである。

アメリカの法廷では、証人席は傍聴席の方を向くかたちで設置されている。陪審員にも応答の様子が見えるようにするためである。事実を判断するのは基本的に陪審員だからである。

これに対して、日本の証人席は裁判官の方を向くかたちで、つまり、傍聴席に背を向けて設置されている。事実を判断するのは裁判官だからである。
しかし、アメリカ映画の影響で、日本のドラマでも傍聴席の方を向いて証人席が設置されていることがある。

日本でもアメリカと同じで、弁護士が必要もないのに証人のまわりをうろうろしながら尋問をすることは許されていないが、これも、ドラマによっては間違った設定がなされている。

法廷ドラマはいつも間違いが多いが、ドラマ的に視聴者受けすることを考えるとそうならざるを得ないのだろうか。