2012年12月24日月曜日

「弁護士の数が増えれば訴訟が増える?」の誤解-その3


つづき

訴訟を増加させるのに大きな役割を果たしているものとしてあげられるのは陪審制度である。

陪審制は一般のアメリカ国民から選ばれる。評決には一般アメリカ人の庶民感情が色濃く出る。一般的には、高卒が多く、一部は大卒であり、アメリカ国外のことはほとんど知らない人が多い。利益追求だけで行動する大企業に対して普段から敵対心を持っている一般市民は多い。また、大企業の営利主義によって損害を蒙った原告に同情し、もし自分が原告の立場だったらこんな認定をして欲しいと思うような認定をしがちであり、大企業に対する高額な損害額を認めがちである。

アメリカでは当事者のどちらかが陪審員裁判を望んだ場合には権利として陪審での判断がなされる。陪審員は法律認定はできずに事実認定しかできないが、この事実認定は法律認定以上に判決の結果を左右することが多い。陪審員はどうやってその認定をしたのか理由を開示する必要はなく、裁判官からの質問が書いてあるシートに答えるだけである。判断過程はブラックボックスで、例えば損害額の算定は事実認定として陪審員によって行われるが、実際にどのよう計算されたのか知るすべもない。評決には金額しか出てこないのである。詳しいことは割愛するが、例えば、どんな合理的な陪審員もこのような証拠からこのような結論を導くことはできないという場合など一部の場合を除いて、裁判官が陪審の評決を覆すことはない。

特に大企業に対する訴訟に対して、陪審員はそもそも実際の損害額の認定額を高く判断しがちである。アメリカにはこれにプラスしてさらに、賠償額が高くなる可能性のある制度が存在する。それは、不法行為に関する懲罰賠償という制度である。これは、懲罰目的で実際の損害額よりも多い額を賠償額とすることができる。実損害額が高額に認定されやすい上に、その実損害額を懲罰目的から3倍にすることが可能なのである。

そこで、損害額が100億円を超えることも珍しくない。

これだけ損害額が高ければ、原告側の弁護士は、お金のない庶民に対して、勝訴するまで1セントも支払わなくてよい、と訴訟費用を立て替えてでも訴訟を引き受けようとする。以前の訴訟で買ったときの弁護士報酬をもとに、もっと大きな訴訟を始めることもできる。つまり、潜在的な訴訟を掘り起こすことになる。

被告側の大企業は、100億円以上支払わされる可能性があれば、その分野で有名な弁護士に依頼するために、年間数億円の弁護士費用をかけることもいとわない。

予想される賠償額が高ければ、和解金額も高くなる。賠償額や和解金額が高くなれば、成功報酬という形で弁護士費用を決めている弁護士にとって訴訟提起のインセンティブが高くなるのは当然である。
つづく。。。


2012年12月18日火曜日

「弁護士の数が増えれば訴訟が増える?」の誤解-その2


つづき

クラスアクションという言葉を聞くことは多いかもしれないが、その意味が本当に分かっている人は少ないのではないか。日本でも複数当事者が原告となって訴訟を提起することができるが、それはクラスアクションとは全く違うものである。クラスアクションの大きな特徴はOpt-out (オプト・アウト)である。指定されたクラスのカテゴリーに入っている原告適格者は自ら積極的に「自分は当事者になりたくないので抜けさせて欲しい」と意思表示しないかぎり自動的に原告になってしまう。日本では、「自分は原告になりたいので入れてください」と積極的に意思表示しないと当事者にならないOpt-in (オプト・イン)の制度を採用している。

例えば、製造物責任訴訟で問題となった特定のモデル機器を購入した人が1万人いるとしよう。裁判所がこれらのモデル機器を購入した人たちが全てクラスに入ると決定すると、クラスに入れないでくださいと積極的に意思表示しない限り、クラスアクション訴訟の当事者となる。これに対して日本では、問題のモデル機器を購入した被害者が積極的に参加を表明しない限り、当事者にはならない。アメリカに住んでいれが何回かは、「あなたはクラスアクションのクラスのメンバーに入っています。」という手紙を受け取った経験があるはずだ。

では、何故この制度が訴訟の数を増やす結果になるのか。

裁判所によってクラスの範囲が決定されると、クラスの範囲に入る人に対して、郵便、Eメールやインターネット等の方法により「あなたはクラスアクション訴訟のクラスのメンバーに入っています。原告から抜けたい場合は下記に連絡ください。」と通知される。しかし、手紙やEメールを受け取った人の大半は何もしないので自動的にクラスアクションのクラスのメンバーのままである。

例えば、一人の損害額がおよそ10万円くらいで、弁護士が5人の被害者を集めて訴訟を提起した場合、勝訴しても50万円の回収ができるだけである。たとえ、回収額の50パーセントを成功報酬と決めても、25万円に過ぎず、弁護士業務の手間に相当する分の報酬が得られない。つまり、弁護士として事件を受けるインセンティブはない。しかし、一人の損害が10万円でも5人の被害者をクラスの代表として1万人のクラス全員のために訴訟を起こせるのであれば、勝訴した時の賠償額合計は10億円になる。そこから、たった10パーセント成功報酬がもらえるということでも1億円の成功報酬になる。報酬が1億円になるのであれば、弁護士も訴訟を提起するインセンティブがあるというものである。

2012年12月13日木曜日

「弁護士の数が増えれば訴訟が増える?」の誤解-その1


最近、弁護士の人数が日本でも問題になっている。その際、皆が口にするのは、「弁護士の数が増えればアメリカのように訴訟が増えて、訴訟社会になる」という文言である。弁護士の数が増えるということは訴訟数を増やす一つの要素かもしれないが、それによって日本もアメリカのように訴訟社会になるかというとそれは無理であろう。なぜなら、アメリカには訴訟社会となりうる他の要素が存在し、そのほとんどの要素は日本には存在しないからである。

裁判所への手数料の決め方が違うこと、ディスカバリー制度、クラスアクション制度、陪審制、懲罰賠償等日本に存在しない制度が数多くあること、医療費が高額で無保険者が数多くいること等、理由を挙げたらきりがないくらいである。これから数回に分けて、各要素について説明する。

まず、裁判所へ支払う手数料であるが、日本のように訴額が高くなれば非常に高額な手数料を支払わなければならないということはない。例えば、連邦地方裁判所に提起する場合、訴額に関わらず350ドルである。日本円で3万円程度である。たとえ、100億円の損害賠償を請求する場合であってもである。この程度の額であれば、弁護士が個人依頼者のために立て替えることも簡単である。「勝訴しなければ、1セントたりとも支払わなくていいです」という法律事務所のテレビコマーシャルが流れているが、理解できる。

日本では訴額が100億円とかになれば、裁判所に支払う手数料だけで信じられない金額になる。

ディスカバリー制度があることも訴訟を提起しやすくしている要因の一つかもしれない。例えば、製造物責任訴訟で被害者側は十分な立証証拠を持っていないことが多いが、ディスカバリー制度を通じて製造者に関係書類一切を提出させることができる。不当に提出に応じない場合は、厳しい制裁が課される可能性も高い。これは、日本の文書提出命令などとは全く異なる制度である。このディスカバリー制度を利用することで、十分な立証証拠が手元にない場合であっても、ある程度の見込みがあれば訴訟提起が可能になるのである。つまり、自力では証拠収集能力のない被害者側も訴訟提起が可能となる。

次に説明するクラスアクションは、弁護士にとって訴訟を魅力的なものとする。

2012年12月7日金曜日

英米系法律事務所の傘下に入る日本の法律事務所


かつて渉外事務所として名の知れた「 東京青山・青木・狛法律事務所」という事務所は、ベーカー&マッケンジー法律事務所と名称を変更した。英語のウエブサイトから見ると、完全に米国のシカゴを拠点とする法律事務所、ベーカー&マッケンジーの東京オフィスという位置付けで、「(Gaikokuho Joint Enterprise)」と括弧書きがあるが、日本語が読めない人には何のことかさっぱり分からないであろう。ウィキペディアによるとベーカー&マッケンジー法律事務所には4000人以上の弁護士が所属しており、東京オフィスに100人以上弁護士がいたとしても、全体の割合から考えると極一部の少数派となる。実際の内情は分からないが、アメリカ本部の意向が強く働くことは容易に想像できる。

坂井・三村・相澤法律事務所もビンガム・マカッチェン・ムラセという米国法律事務所の東京オフィスという位置付けである。英語のウエブサイトの説明書きにも一部「Sakai Mimura Aizawa」という言葉は出てくるが、ウィキペディアによると1100人も弁護士がいる事務所に対して68人しか弁護士がいない東京オフィスの意向がどの程度反映されるのかは疑問である。

伊藤見富法律事務所は、かなり前からモリソン・フォスターという米国法律事務所の東京オフィスという位置付けである。英語のウエブサイトから「伊藤見富」という言葉を見ることはない。モリソン・フォスターも1000人以上の弁護士が所属する事務所で、東京オフィスは完全に米国事務所の1オフィスである。

日本経済が弱体化していると言われるなか、アメリカの法律事務所としてもゼロから東京オフィスを設立したいと思うほど日本の法曹市場に対して魅力を感じないだろう。ただ、既にある日本の法律事務所を自己の東京オフィスとする動機は十分あると思われる。弁護士増員により経営的に苦しくなった日本の法律事務所が英米系事務所の助けを求めることは十分考えられ、英米系法律事務所の傘下に入る日本の法律事務所は増加するかもしれない。

このウエブに書き綴っているアメリカ事務所のやり方が日本でのスタンダードになる日が近いということなのだろうか。

2012年12月1日土曜日

パートナーにも格付けあり その2


つづき

サービスパートナーは、クライアントに自分をアピールしてビジネスを獲得するということがあまり得意でない人が多いので、他のパートナーのクライアントを奪うような能力がなさそうであり、若干頼りなく見えるのが特徴である。ただ、ある程度仕事はでき、法律もよく知っているので、任せておけるというタイプである。クライアントを持っているパートナーが仕事を与えてくれなくなったら、事務所を辞めるしか道がないので、仕事を与えてくれるパートナーの言いなりになっている場合が多い。通常、アソシエイトより高額な固定給をもらっていて、アソシエイトと同様に年間のビラブルアワーのノルマがきつい場合が多い(「大手事務所のアソシエイトに課されたノルマ」参照)。また、事務所の仕事量が減るとリストラされやすいという特徴がある。自分で魚を釣ることができない船乗りは、どんなに魚をさばいて料理をするのが上手でも不漁が続けば船から降ろされるわけである。リーマンショック後には多数のサービスパートナーが荒波に投げ出された。

ここで一つ断っておくが、クライアントが事務所についている日本と違って、クライアントは弁護士についているのが一般的なアメリカの傾向である。日本企業は猫型クライアントでアメリカ企業は犬型クライアントと命名できるかもしれない。従って、パートナーが事務所を移籍すると一般的にはクライアントも一緒に移籍してしまう。

つまり、事務所としては利益を多くもたらすクライアントをしっかり確保しているパートナーを引き止めておく必要がある。例えば、年間10億円の売り上げがあるパートナーがクライアントと共に他の事務所に移籍すれば、事務所の経営も揺るがしかねない。つまり、彼らを怒らせないように、気を使う。事務所内での権力が違ってくるのだ。同じパートナーであっても、サービス・パートナーとは雲泥の差である。

このパートナーの格差が秘書たちにも影響を及ぼすことすらある。クライアントが多いパートナーの秘書がマネジメントに何か依頼するとすぐ処理してもらえることが、サービス・パートナーの秘書が依頼すると2日、3日余計に時間がかかったりすることもある。

英語は日本語のような敬語がなく、気軽にファーストネームで呼び合って皆フレンドリーに仕事しているように見えるが、クライアントを持つ者、持たない者との間に見えない壁が立ちはだかっている。

2012年11月27日火曜日

パートナーにも格付けあり その1


事務所のパートナーは皆平等と考えるのは間違いである。パートナーにも格付けがあり、事務所内の権力はそれによって全く異なる。

私の知る限り大きく分けて3つのタイプのパートナーがいる。エクイティー・パートナー、ノン・エクイティー・パートナー、サービス・パートナーである。エクイティー・パートナーは事務所の売り上げから経費や報酬などを支払った後の利益に対する分け前がもらえるパートナーである。どの程度分け前がもらえるかは契約によって決まる。

例えば、ウィキィペディアによると、元ニューヨーク市長のジュリアーニは2005年からBracewell & Giulianiというテキサスのヒューストンを拠点とする法律事務所のニューヨークオフィスに入り、ベースの報酬が100万ドルでニューヨークオフィスの利益の7.5パーセントを受領する契約をしているようである。

次にノン・エクイティー・パートナーであるが、基本的にエクイティー・パートナーでなければノン・エクイティー・パートナーということになる。
ノン・エクイティー・パートナーの中には、さらに格付けが低い俗にサービス・パートナーと呼ばれている人たちがいる。事務所内の政治勢力に十分な注意を払いながら上手にへつらうことで生き延びている人たちである。

パートナーになるにはクライアントがある程度ついていることが必要であるが、クライアントがいなくてもパートナーになっている人たちがいる。それが、サービス・パートナーである。彼らはクライアントを持っているパートナーから仕事を与えてもらってサービスをしているわけである。アソシエイトだけに大きな仕事を任せておくとクライアントが心配になるから対外的な意味もあるのかもしれない。また、パートナーと名がつけば、アワリーレートが高くなるので、クライアントを持っているパートナーとしても得になる。以前「パートナー同士のクライアント獲得合戦」で説明したとおり、ビリング・パートナーは自分のクライアントからの売り上げの一定割合を誰が働いたかに関わらず貰えるからである。

 

つづく。。。

2012年11月17日土曜日

日本の大企業就職には米国弁護士資格の方が有利?


 
日本でいわゆる二流の大学の法学部を卒業して、卒業直後にアメリカの有名なロースクールでLL.M.という1年のコースを卒業し、その後ニューヨーク州の司法試験に合格して、日本で就職してまもない人が、「リクルーターから転職しないかと連絡が来ることがよくあるんです」という話をしていた。
ある日本の大企業の法務関係者に「最近では、日本の弁護士資格を持っている新人より、アメリカの弁護士資格を持っている新人の方が就職しやすいのですよね」と聞いてみたことがある。すると「まさしくそうなんですよ。おっしゃるとおりなんです。弊社でも最近、弁護士資格を持った人を積極的に採用しようということで、求人を出し、日本の弁護士資格を持った人と、アメリカの弁護士資格を持った人が応募してきたんですよ。でも最終的にはアメリカの弁護士資格を持った人を採用しました。」との返事が返ってきた。
日本の大手企業の管理職の人がこんなことを話していた。「うちの会社じゃ、未経験として採用できる最高年齢は25歳までだから、就職時に26歳になっていたら、未経験者としての採用は絶対無理だねえ。だから法科大学院卒業の弁護士が就職時に26歳以上になっていたら、採用は考えられないよ。」
(注:大学卒業後、法科大学院に2年、司法試験を一発で合格して修習という最短コースでも修習が終わって弁護士になるころには多くの人が26歳になっている。ただ、早期に予備試験に合格すれば問題がない)
とある日本の大企業の日米両方の弁護士資格を持つ社内弁護士が、「うちの部署で英語ができない人は一人前とみなされない。」と言っていたのを覚えている。
色々聞いてみると米国弁護士資格を持った新人の方が日本の弁護士資格を持った新人より有利である理由が分かってくる。
1LL.M.1年のコースを出たのであれば、年齢が25歳以下と若いので、特別扱いをせずに通常の新卒として入社させられる。
2. 英語で法律文書の読み書きができるのでグローバル化に有利。
3. 名刺に米国弁護士と書けるので海外の会社と交渉するときに有利。
4. 弁護士登録を続けるための維持費が日本の弁護士と比較して格段に安い
(日本の弁護士:年間60万円から100万円の弁護士会費の支払い義務(ただ最初の数年は優遇あり)プラス会務の義務
ニューヨーク州弁護士:2年で375ドル(4万円未満)の登録料の支払い義務)。
その点からも、米国弁護士を他の社員と比較して特別扱いする必要が少ない。
 
法学部の学生としても、円高の今であれば、アメリカに留学した方が有利ということになる。日本で弁護士になる為には、少なくとも2年間の法科大学院に通って350万円くらいの学費を支払い(生活費別)、貸与制の修習で300万円の借金を負うことになるが、最近は弁護士になってから就職先があるかどうか分からない。650万円あれば、1ドル80円台の今、学費と生活費込みで十分LL.M.留学が可能である。

2012年11月15日木曜日

法律事務所の辞め方 ― その2

 

つづき。

パートナー弁護士がクライアントごと事務所を移籍する場合は、事務所内のお家騒動のような状態になることもある。特に、稼ぎが良いパートナーとその下で働くアソシエイトやパラリーガル、秘書などがチームとなってごっそりと移籍する場合は大騒動である。

辞めるパートナーも用意周到に移籍の準備を進めているが、直前になるまで口外しない。事務所内の他の弁護士も全く知らされていない。事務所内の他のパートナーがそれに気付いて、クライアントを持っていかせないように何らかの対策をとるかもしれない。例えば、法律事務所は移籍しようとするパートナーが事務所サーバにアクセスできないようにするとか、移籍しようとするパートナーの事務所メールのアカウントをシャットダウンするなどして、裁判所に係属中の事件の電子データにアクセスできないようにすることだって可能である。そうすれば、クライアントはしばらくの間は旧事務所の他のパートナーに仕事を続けてもらわなければならないので、移籍するパートナーと共に新事務所に移らなくなってしまう可能性もある。

そこで、最悪の場合を考え、現在所属している事務所に事務所を移籍することを話した次の日から移籍先の事務所でそのクライアントの業務を継続できる程度の用意をしておく必要がある。電子データを全てコピーし、新しい事務所でのメールアカウントを作成してもらい、クライアントに事前に内密に話を進め、移籍先の事務所についてきてもらえるとの確認を取る。クライアントが旧事務所に対して「依頼先の事務所を変更しますので、全ての書類を○○事務所の○○弁護士に送ってください」というレターを直ぐに提出できるように、レターの起案をして渡しておくなど準備をする。そのようなやり取りをクライアントとする際には事務所のメールアドレスは一切使わない。個人メールなどを使って、裏で着々と準備をするのである。

事務所を辞めるという話をした際に、事務所がどのような反応を示すかは、事務所の体質や、引き連れていくクライアントの大きさや仕事の量などで違ってくるが、まず考えるのは、クライアントを持っていかれて売り上げが下がってしまわないか、その対策をどうするかである。

移籍するパートナーのビジネス、法律事務所のビジネス、全てビジネスという尺度を基準に事が運ぶのである。

2012年11月10日土曜日

法律事務所の辞め方 ― その1


事務所を自発的に辞めて転職する場合もアメリカの法律事務所ならではの特徴がある。

事務所を辞めた後の転職先として大きく分けると、他の事務所に移籍する場合と、企業のインハウス弁護士になったり政府機関の弁護士として働く場合がある。他の事務所に移籍する場合にも大きく分けると二つのパターンがある。アソシエイトレベルの弁護士が仕事のある他の事務所に移籍する場合と、パートナーやカウンセルレベルの弁護士がクライアントを持って他の事務所に移ってしまう場合がある。これ以外にもパートナーやカウンセルレベルの弁護士が一人でまたは友人らと個人事務所を立ち上げるために辞めることもリーマンショック後増えてきたように思うが、ここでは割愛する。

企業のインハウス弁護士として転職する場合、「自分はこんなに職場で大事にされてきたんだ、本当に良い職場だった」と誤解してしまうくらいちやほやされながら転職することができる。特に、転職する企業が大手企業であればあるほどである。これが何を意味するかというと、法律事務所はその転職先の企業を将来的にクライアントにできないかという下心があるのだ。つまり、インハウス弁護士とこれからも良い関係を保ちながら連絡を取り合い、その企業が外部の弁護士を使うときには是非うちの法律事務所を使ってもらおうという下心がある。従って、大手企業のインハウスになるために事務所を辞める時には、非常に円満に辞めることができる。事務所のお金でお別れディナーをやってもらえるかもしれないし、今後も事務所でのクリスマスパーティーなどに招待されるかもしれない。

他の事務所に移籍する場合、アソシエイトレベルが、他の事務所にアソシエイトとして移籍するために事務所を辞める場合、問題が生じることはあまりないが、インハウス弁護士になる場合のような良い待遇は受けられない。通常、辞める2週間前にパートナーに辞める旨を伝える。考え直さないかとひきとめるパートナーもいるが、次の事務所が決まっている場合にひきとめることは難しいので、どこまで本気でひきとめようとしているのは分からない。事務所もお別れランチを数人で食べに行くくらいのお金は出してくれるかもしれない。

一番問題が多いのは、パートナー弁護士がクライアントごと事務所を移籍する場合である。
 

つづく。。。

2012年11月6日火曜日

クライアント待遇の天国と地獄 - その2

クライアント待遇の天国と地獄 - その1

つづき

ビジネス最優先主義の弊害として聞くことがあるのが、他のクライアントにコンフリクトが生じそうになったときに経済的利益が少ないと思うクライアントのビリング・パートナーを追い出すという手法だ。

あるパートナーに前の事務所から今の事務所に移籍した理由を聞いたところ、「僕についているクライアントの事件とコンフリクトがあって大型でビジネスになる事件を受任したかった他のパートナーが、裏から手を回して事実上僕を追い出した」と答えた。つまり、コンフリクトのために両事件ともには受任できない二つのクライアントの事件を天秤にかけて、利益の少ないクライアントを持っているパートナーをクライアントごと事務所から追い出して、コンフリクトの問題を解消した後に、利益の多い事件を受任したというのである。

詳しい金額は想像に過ぎないが、先に来てくれたクライアントが年間1000万円の仕事しかくれないから、そのクライアントを追い出して、後から来た年間2億円の仕事をくれるクライアントの事件を引き受けたという感じなのである。

アメリカではクライアントは事務所ではなく、パートナーについているのが一般なので、クライアントを追い出すには、そのクライアントがくっついているパートナーを追い出すのが一番なのである。

最初にこの話を聞いたときはさすがに驚いたが、似たような話は他でも耳にするので驚かなくなった。

例えば、あるアメリカ人弁護士の話である。とある大型事務所に移籍した後、前の事務所でのクライアントたちを回り、新しい事務所に事件を移して欲しいと依頼して了解を得た。クライアントの事件を移す事務処理も全部終わってひと段落した後、他のパートナーから突然「事務所を辞めて欲しい」と言われた。「移籍して間がないし、クライアント全員に挨拶回りして、事務所を移すことに同意してもらってその手続きも全部済んだばかりなのに、何故なのか」と訪ねると、「理由はいえない。もし自発的に辞めないなら、こちらから解雇という形を取らなければならない。」といわれ、仕方なく自ら辞めることにしたそうだ。後で判明したそうだが、その大型事務所は他の大型事務所から優良なクライアントを持っている有名な弁護士を引き抜こうとしていたのだが、引き抜きの約束として、その優良なクライアントとコンフリクトのある事件を持っているパートナーを追い出すことというのがあったらしいというのだ。東京にもオフィスがある某大型事務所での出来事である。

クライアントをビジネスという天秤にかけて、判断したわけだ。リーガルサービスをすることでビジネスをやっているのだから、ビジネスを最優先にする判断をしても当然と思っているのかもしれないが、クライアントからすれば、とんでもない話である。

日本の事務所でこのような話は聞いたことがないし、今後も行われないことを望むだけだ。
ただ、私が知らないだけかもしれないが。。。

2012年10月31日水曜日

クライアント待遇の天国と地獄 - その1


アメリカの法律事務所にとってクライアントは平等ではない。アメリカ事務所はリーガルサービスを提供するというビジネスをやっているので、収益最優先である。自分たちのビジネスの利益につながるクライアントと利益につながらないクライアントがいれば、ビジネスの利益につながるクライアントを優先するのは当然である。
クライアントの扱いはある意味、飛行機のクラスに似ている。通常の飛行機にはファーストクラス、ビジネスクラス、エコノミークラスとあり、さらには、頻繁に利用するお客さんには、ステータスのランクが与えられ、色々なポイントがある。例えば、キャンセル待ちやアップグレード待ちをしたとき、ステータスの高いお客様の望みがかなうようになっている。どんなに前からキャンセル待ちをしていても、後から来たステータスの高いお客様の希望を優先させる。「金払いが良くて、何度も利用してくださるお客様が大事ですから、エコノミークラスの料金しか払ってくれなくて、それも偶にしか乗ってくださらないお客さんは大事ではありません。」と口には出して言わないが、そう言っているのと同じである。

 法律事務所も同じである。当たり前のことかもしれないが、ファーストクラスの料金を支払い、つまり、金払いが良くて何度も利用してくれるお客さんが大事である。ファーストクラスに何度も乗ってくれるお客さんが何か依頼してくれば、事務所内の優秀な人材を投入して短期間に大きな仕事を完成させることも可能である。まさに、ファーストクラス待遇である。知名度があるクライアントも偉い。知名度が高い会社の仕事を受任できれば、「うちの事務所は、〇〇というクライアントの事件もやっています。」と宣伝することができる。だから、最初にお試しで乗るときは、エコノミークラスの料金でファーストクラスに乗せてしまうことすらある。無名の小さな会社から、一回こっきりの、たいして金にならない仕事を頼まれた場合には、飛行機に乗せることすら拒否する。つまり、理由をつけて受任しない。何とか飛行機の末席に乗せてもらっても、飲み物も食事のサービスもいつも後回しである。

日本の法律事務所でも特に弁護士が急増してそのような傾向はあるかもしれないが、まだまだである。日本の弁護士にはそのような傾向に対する罪悪感が残っているだろう。しかし、アメリカの弁護士はビジネスとして法律のプラクティスを行っているので、「ビジネス最優先で何がいけないんだ? えっ? 慈善事業をやっているわけじゃないんだぞ。」くらいに思っているようだ。事務所内でビジネス会議を頻繁に行ったり、売り上げベースでパートナーの力関係が決まってくる法律事務所の中にいると、ビジネス感覚が非常に薄くて人権保護意識の強い日本の弁護士の方々と話していて違和感を感じてしまうことすらある。
 

レベルの差こそあれ、日本でもその傾向は芽生え始めているのだから、アメリカ式の司法改革をこのまま続ければ、日本がアメリカのようになるのは時間の問題であろう。

 

このビジネス最優先主義の度が過ぎると許容範囲を超えるようなことまで行われる。

 

2012年10月23日火曜日

顧問弁護士制度


日本では、顧問弁護士という制度があって、企業は仕事が何もなかったとしても毎月顧問料として顧問弁護士に一定額の支払いをする。顧問料は企業の大きさによっても様々であるが、月額5万円から20万円といったところであろう。中小規模の法律事務所にとってこの顧問料は大きい。毎月決まって入ってくる固定収入なので、例えば、事務所の家賃、電話代、コピー機のリース料などの固定費が顧問料総額の範囲内で支払えると分かっていれば、経営がとても楽になる。

アメリカでは顧問料という制度は聞いたことがない。アメリカ人の弁護士何人かに聞いてみたが、やはり顧問料制度は一般的でないようだ。

日常の業務でちょっと聞いてみたいと思うような法律相談があった場合、日本では、顧問弁護士にちょっと電話で相談してみることが可能だ。ちょっとした相談であれば顧問料の範囲内で答えてもらうことができる。アメリカではどうしているのだろうか。ちょっとした法律相談は社内弁護士に相談しているようだ。たとえば、広告代理店に弁護士がいる理由を聞いてみると、広告の際に他人の商標や著作権を侵害があるか否かに関して絶えず法的な問題が発生するから社内に弁護士が必要だとのことであった。

大手企業にとってみれば、社内で弁護士を雇っているので、わざわざ外部の弁護士に顧問料など支払う必要はないと考えるのだろう。アメリカの法律事務所の費用はかなり高額なので、特にリーマンショック以降、社内弁護士を採用して外部の弁護士に依頼する割合を減らしている企業が多いようである。

大型事務所にとってみれば、たいした金額にならない月額の顧問料を支払うからといってそのクライアントと利害が対立する、つまりコンフリクトがあるクライアントの事件を一切受任できないとなると、顧問料を支払ってもらう不利益の方が大きいでのあろう。顧問料を支払うだけで仕事を回さない企業より、年間1億円分の仕事を依頼するクライアントの方が重要だろう。

2012年10月17日水曜日

超大手事務所も破産するアメリカ


アメリカでは大手事務所が潰れることも珍しくない。記憶に新しいのは、Dewey & LeBoeuf LLPという一時期1400人近くの弁護士が働いていた事務所が20125月に破産申立をしたというニュースである。20122月末頃からクライアントを多く抱えるパートナーが事務所を移籍し始めているという話がアメリカ法曹界でささやかれるようになった。その後事務所の資金繰りが悪化しているとのニュースが流れ、2012年の34月にはクライアントを持つパートナーが大量にクライアントと共に他の事務所に移籍し、あれよあれよという間に、クライアントのいないパートナーとパートナーに連れ出してもらえなかったアソシエイトとスタッフ、家賃等の固定費の支払債務などが残り、事務所は事実上崩壊した。

1400人も弁護士がいた事務所が破産するの?」と驚くかもしれないが、私がアメリカで弁護士になってから私の知人の勤めていた事務所が3つ崩壊した。訴訟の相手方を代理していた弁護士が所属する事務所が訴訟の途中でなくなったことすらある。全て少なくとも200人以上弁護士が所属していた事務所である。あの事務所は危ないと言われつつかろうじて生き残っている事務所も幾つか知っている。

巨大法律事務所が何故簡単につぶれてしまうのか分析することは難しい。Dewey & LeBoeuf LLPが危ないとささやかれてから事実上崩壊してしまうまでは2ヶ月半程度と本当に短かった。その間、他の事務所と合併しようとしたらしいが、合併の交渉が継続している最中にも優良なクライアントを多く持っているパートナー、つまり事務所への収益の大きいパートナーが、優良なクライアントと共に他の大手事務所に移籍してしまった。これでは合併の話もまとまらない。なぜなら、合併先の事務所が魅力に感じているのは、知名度の高いパートナーとそのパートナーが持つ優良なクライアントを獲得することだからである。

法律事務所はどれほど大規模化しても株式会社ではなく、パートナー制をとっているところが多い。つまり資産等を公開する必要がないのである。そこで、事務所内のパートナーですら、資金繰りが悪化していたということを最後の最後まで知らされないということも多い。

アメリカの大手法律事務所に行けば分かるが、外観が素晴らしく、「うちの事務所はクライアントもたくさんいて儲かっている事務所だから安心して御依頼ください」というスタイルである。資金繰りが悪くなりはじめても、オフィスの縮小、安いビルへの移転を拒む傾向にある。そんなことをすると、業績が悪化したとの噂がネット等に流れ、クライアントが離れる可能性もあるからだ。

資金繰りが悪化したということがパートナーに知れ渡ると、皆、沈みかかった船から飛び降りて他の船に乗ろうとする。しかし、他の船もこの不況時にそう簡単には新たな人間を乗せたがらない。大型の魚を沢山釣る能力のある人しか乗せないのである。つまり、優良なクライアントを多く持って乗り込んでくるパートナーのグループのみ歓迎するのである。

すると、クライアントを失った大手事務所がその看板と共に固定費の支払いという債務だけ背負って置き去りにされる。

2012年10月11日木曜日

サービスに対して対価を払う意識の違い


日本の弁護士業務がアメリカの弁護士業務と比較して拡大しない理由の一つとして、サービスに対して対価を支払う意識の違いがあるのではないかという気がする。アメリカ人はサービスに対して対価を支払うという意識がある。レストランでチップを支払うのは当然で、ウエイトレスのサービスがよければチップもはずむ。ヘアサロンでもチップを支払う。これに対して、日本では目に見えないサービスは全て無料である。レストランのサービスがよくて当然だし、それに対して特別の対価を支払う必要はないのである。

アメリカの航空会社の多くは航空料金を下げるからサービスをカットするという方針を採用している。アメリカ人は文句を言いながらも、ある程度納得している。サービスにお金を支払うという感覚があるからであろう。日本の航空会社の人が「アメリカの航空会社と同じことを日本の航空会社がやったら、お客様から大変なお叱りを受けます」と言っていた。大部分の日本人はサービスは無料という感覚を持っているのである。

リーガルサービスも目に見えないサービスの一つである。レポートなどとして目に見える形で手元に渡されることもあるが、特殊な分野によってはそのレポートを書くのに長時間の調査が要求されることもある。日本人には目の前にあるレポートに対して、レポートの量に応じて対価を支払うことには慣れているかもしれない。しかし、それを作成するための調査、ある意味リーガルサービスの部分がどれだけ長時間になろうとも、その部分に対して多額の対価を支払うという感覚が薄いのだと思う。

そこで、日本人にとって作成書類1枚につき幾らというような料金体系なら納得して費用を支払いやすいように感じる。まさに、昔の弁理士報酬の料金体系がそれである。技術がどれだけ高度でそれを理解するのに長時間を要する等は関係ない。

また、相手方から実際に幾らか金銭を取り返した場合にも金銭という目に見えるものが存在する。相手方に支払わせた金額の○○パーセントの報酬というのは、ある意味目に見えるものに対する報酬で、その支払いをさせるためにどれだけ手間がかかったか、つまりリーガルサービスを行ったかは関係ない。これは、昔弁護士会が規定していた報酬体系である。

費やした時間に弁護士ごとのレートをかけた額が報酬になるというサービスに対価を支払うような料金体系は非常にアメリカらしい。日本でも大手事務所ではアメリカ的な料金体系を採用しているようだが、日本のクライアントはどう受け止めているのだろうか。

2012年10月5日金曜日

パートナーのクライアント獲得合戦


ビリング・パートナーという言葉を聞いたことがあるかもしれない。依頼者が事件の依頼してきたとき、事務所内のパートナーの誰がビリング・アトーニーなのかという問題が発生する。ビリング・パートナーがその事件のBilling(ビリング)、つまり弁護士報酬請求に関して責任を負うパートナーである。

このように説明すると、「なんだ単なる事件ごとの責任者か」と思うかもしれないが、そんな単純なものではない。ビリング・アトーニーになると得られる利益も大きい。アソシエイトだと、報酬やボーナスの決定の際に自分が働いた時間しか考慮されない。これに対し、ビリング・アトーニーは、誰が働いたかに関わらず、自分がビリング・アトーニーになっている事件に関してクライアントが支払った弁護士費用の一定のパーセンテージが報酬としてもらえる。つまり、クライアントが事務所に1000万円支払ったとしよう。事務所との契約によって異なるが、例えば12パーセントもらえるとの約束があったとしよう。もし、クライアントが支払った1000万円について自分が全く働いていなかったとしても自動的に120万円の報酬がもらえるわけである。

しかし、人に仕事をやらせてばかりいると、実際に仕事をしている弁護士がクライアントと親しくなって、信頼関係が築かれ、実際に仕事をしている弁護士が他の事務所に移籍したとき、クライアントを持っていってしまう可能性もある。クライアントを持っていった弁護士は、新しい事務所で自分がビリング・アトーニーになれるだろう。

そんなことが起こってしまっては、報酬が減ってさらにはリストラされかねないので、ビリング・アトーニーはうかうかしていられない。クライアントをつなぎとめるためには、クライアントへのパフォーマンスが上手でなければならない。人にある程度事件を任せていようとも自分が事件の中心で、自分がいなければ正しい意思決定ができないというパフォーマンスが上手でなければならない。クライアントとの重要なコミュニケーションの中心はいつも自分でなければならない。

クライアントを持ち去るために事務所移籍までしないとしても、事務所内ではビリング・パートナーになるための戦いが、事務所内の政治的勢力争いとともに渦巻いている。政治的勢力争いの程度は事務所ごとに様々である。

事務所内の政治的な勢力争いに関する情報収集をせずにクライアント獲得争いに巻き込まれてしまうと、地雷を踏むことすらある。

アソシエイトはビリング・アトーニーになれないのでパートナーを探してビリング・アトーニーになってほしいと依頼しなければならないが、その際にクライアント獲得争いに巻き込まれて地雷を踏み、さらには事務所を辞めざるを得なくなったという弁護士の話を聞いたことがある。

2012年10月1日月曜日

アメリカは修習なしでどうしているのか?


アメリカでは日本のような修習制度はない。では、新人弁護士はどのように実務に必要な知識を得ているのだろうか。

もちろん、実務を通じて知識を得ているのは当然であるが、ある程度の規模の事務所であれば、事務所内で新人弁護士研修を行っている。新人研修の内容は、弁護士の担当分野によって異なるが、私は訴訟手続に関する新人弁護士研修に参加した。週に1度、ランチの時間に事務所が用意してくれるランチを食べながら新人研修を受ける。3枚程度の紙に書かれた具体的な事例をもとに訴状を書いてくる宿題が出され、次の週には訴訟の模範例が渡されて、その訴訟と3枚程度の紙に書かれた被告側の具体的な事例をもとに答弁書を書いてくる宿題が出され、その後も手続の流れに従ってディスカバリーのドキュメントリクエストを作成する宿題が出されたりと続いていく。確か4ヶ月くらい続いたと思う。しかし、日本の修習と比較すれば、本当に初歩的なものであった。実際の事例をもとにした詳細な証拠を検討できるわけでもないし、優秀な教官が起案された宿題を丁寧に採点してくれるわけでもなかった。

その時、日本で体験したあの2年間の修習がいかに素晴らしいものであったかを実感した。すべて血となり肉となり実務に役立った。アメリカで日本法と無関係な実務をやっていても、修習の時に学んだことが役に立っていると感じることがしばしばある。

2012年9月25日火曜日

CLEクレジット


州によって異なるが、弁護士登録を続けるために一定の数のCLEクレジットを取ることが求められることが多い。CLEContinuing legal educationの略である。法律のプラクティスをしている間は、基準を充たすセミナーを受けて、法律の勉強を続けなさいということである。ただ、免除規定も多く、例えば、ロースクールの教授などは、CLEクレジットを取ることは求められないし、ニューヨーク州であれば、NYの法律をプラクティスしていないことを証明すれば、CLEクレジットを取る必要はない。したがって、勝手な推測ではあるが、ニューヨーク州の弁護士資格を持っている日本の弁護士のほとんどはCLEクレジットを取っていないのではないかと思う。

CLEクレジットをどうやって取るかは、外部のCLEクレジット用のセミナーを開催する会社にお金を支払ってセミナーを受講する方法もあるが、お金がかからない方法も多い。

大手法律事務所になると、外部セミナー会社と一定の契約をしていることが多く、その事務所所属の弁護士は個人的にはお金を支払わないでセミナーに参加してCLEクレジットを取得できる。

インハウス弁護士になるとどうであろうか。大手の法律事務所は営業の一環としてCLEクレジットの基準を充たすセミナーをインハウス弁護士のために無料で開催することが多い。インハウス弁護士はそのような複数のセミナーを受講することで無料でCLEクレジットを取ることができる。

事務所内のアソシエイトに勉強させるために、持ち回りでCLEのクレジットを充たすセミナーを事務所内で開くこともできる。アソシエイトの手間はかかるが、勉強にもなるし、無料でCLEクレジットを取れるという利点がある。

アメリカは弁護士登録費用が安いけれどもCLEクレジットを取るための費用がかかるではないかと反論する人がいるかもしれない。確かに、PLI等の外部有名なセミナー会社のセミナーを受ければお金がかかる。そもそもCLEクレジットを要求していない州もある。また、免除条項もあるし、説明したように無料でCLEクレジットが取得できる方法も多いのである。