2015年3月20日金曜日

クライアントも訴えられる❓

アメリカの法律関連のニュースを扱うサイトで、アメリカのある法律事務所が、クライアントが弁護士費用を支払わないとして、訴えたというニュースが載っていた。

弁護士報酬とプラス利息で、9ミリオンダラーを超えるとのこと。1ドル100円で計算しても、日本円で9億円を超えるわけである。弁護士報酬がこれだけの額になるというのも驚くが、以前クライアントだった会社を法律事務所が訴えるというのもアメリカらしい。

アメリカの法律事務所は、クライアントからの支払いが遅延した報酬債権について債権回収会社に売却してしまうことも多い。債権回収会社は容赦ないので、クライアントを訴えることもあるだろう。しかし、このニュースでは、法律事務所自らが元クライアントを訴えている。


アメリカの事務所に事件を依頼するときは、慎重にすべきである。事務所が大きければ、事件を担当してくれた弁護士であっても、報酬をコントロールできないことが多い。いつの間にか、多くの弁護士が事件に関与してきて、多額の時間をつけてしまうことがある。一旦、システムに時間がチャージされると、責任者のパートナーであっても、事務所の規則に従わなければ、ディスカウントすることができない。考えられない額の報酬請求が来たからと言って払わなかったら、債権回収会社から督促状が届くことになる。もしかすると、法律事務所から訴えられることもあるかもしれない。

2015年3月15日日曜日

アメリカで弁護士になろうとする人へ

日本の法曹界の魅力がなくなったことから、アメリカで弁護士になろうと思っている人もいるだろうが、そのような人のために、如何に現実が厳しいことであるか説明しておく。

まず、ずっと日本で育ってきた日本人がアメリカで弁護士として就職先を見つけるのは非常に困難である。日本で、アメリカでも知られているような大企業の法務部あるいは知財部で働いていた経験があり、ネットワークが広いという特性でもなければ、アメリカの法律事務所で就職先を見つけるのは、ほぼ不可能に近いということを念頭においてほしい。リーマンショック前の先輩の話などは真に受けてはいけない。現在の就職状況は極端に悪くなっている。今は、アメリカ人の弁護士ですら就職できないことが問題になっているのだ。日本語ができるという語学力は20年前ならまだしも今は売りにならない。英語がネイティブ並みであれば、日本語ができることは少しプラスになる程度だ。
また、上位20位以内のロースクールを卒業することは必須条件であることを忘れないでほしい。自分だけは違うと思ってロースクールの借金だけ背負って就職が見つからないアメリカ人が数多くいる中、自分だけは大丈夫という発想は非常に危険である。

次に、幸運にもアメリカの法律事務所に就職口を見つけられたとしても、的確な実務経験を積むのが非常に難しいということを念頭に入れておいてほしい。人が教えてくれるのを待っているような人はすぐに事務所から放り出される。パートナー弁護士も新人を教えるなどという面倒くさい作業はしたくないのである。事務所内に豊富にある資料や、一般で探せる資料を探し出し、自ら学んでいくような使い勝手の良い新人にならなければならない。パートナーも使い勝手の悪い新人には仕事をやらせなくなる。すると、新人は規定された年間の時間チャージの目標が達成できなくなり、首になる。また、複数のパートナーに気に入られる性格も重要だ。やはりパートナーも人間なので、お気に入りの新人に仕事をあげる傾向は否めない。
また、仕事の種類についても注意が必要だ。ディスカバリーのドキュメントレビューばかりやっていると、5年後、アワリーレートが上がったためにドキュメントレビューなどという新人向けの仕事をさせられなくなった時に仕事が回ってこなくなり、首になってしまう。その際、事務所内での経験がドキュメントレビューということでは再就職先を探せない。

ある程度、実務の経験を得られたころに発生するのは、自分のところに問い合わせをしてくる日本のクライアントをどうするかである。ここは非常に難しい問題である。あなたがまだアソシエイトであれば、そのクライアントはあなたの面倒をみているパートナーのクライアントということになる。このような時期になる前に、事務所内でのパートナー同士の勢力争い、派閥、力関係、パートナーの
性格などに関する情報を他の弁護士やアシスタントとのカジュアルな話しの中から日々入手し、自分にクライアントが来た時にどのパートナーに頼るのが一番自分に身の安全になるか考える必要がある。ここで、失敗すると、結果として事務所を移籍しなければならないこともある。

自分を信頼するクライアントが増えてきたとしても、自分のクライアントのケースの責任者のパートナーから自立して自分自身がパートナーになる時に、責任者のパートナーが邪魔をしてくる可能性もある。ここで、他のパートナーとも仲良くなってうまく事務所内ポリティクスを乗り切ってパートナーになるか、危険を承知の上で他の事務所に移籍して、クライアントがついてきてくれるのを待つか、パートナーになるのを諦めるかのどれかであろう。

もし、自分がパートナーになったとしても、今度は、同じ事務所の他のパートナーが自分のクライアントを奪おうとする可能性もある。これは、ある程度、事務所の文化にもよるが、パートナーがお互い、背中から刺し合っているような事務所もあるので、注意である。また、派閥文化があり、ある派閥の弁護士に仲間と思われないと、クライアントを取られる危険が高い場合などもある。

事務所の中でパートナーとなったとしても、自分の所属する事務所の経営状態が傾き、いつの間にか、他の事務所と合併せざるを得ない状況ということもアメリカでは珍しい話ではない。そうすると、今までやり方が変わって、事務所を移籍せざるを得ない状況も発生する。

これら数々の問題と戦い、戦い抜いて、1億円を稼ぐ弁護士になるのは、至難の業である。
ただ、そこまで行き着いた場合、一つだけ、日本でなくてアメリカの弁護士でよかったと思うことがあるだろう。それは、日本と比較すれば高額所得者の税率が安いことである。

2015年3月9日月曜日

今は昔

法科大学院が始まる前、ある大学の法学部で教えていた経験がある。

法科大学院の募集が始まった最初の年、私が教えていた大学の先生たちが、「うちみたいな大学の法科大学院に、あんなに優秀な学生がたくさん応募してくるなんて、本当に夢のようですね。」「そうですね。選抜するのが大変ですね。」と意気揚々と話していたのを今頃になって思い出す。記憶は定かではないが、彼らは、募集人数の10倍くらいの学生が応募してきていると話していたように思う。

当時から、法科大学院によって法曹界はとんでもないことになると確信し、マチ弁から足を洗おうと思っていた私は、このような会話を聞いて、「自分の予想が外れているのか?」と迷いを感じたが、最終的にはプラクティス分野を変更するための計画を実行した。

あの教授たちは今頃何をしていて、現在の法科大学院制度についてどう思っているのだろうか。彼らの大学の法科大学院は学生の募集停止に踏み切っている。