2013年1月26日土曜日

アメリカの法律事務所で研修する方法は?-その3


つづき

今の時代に大手事務所のパートナーの口ぞえなしに研修先を探すことは全く不可能なのであろうか。

そうとまでは思わない。

日本的な思考回路を捨てて、アメリカ的な発想で用意周到に準備することで研修先を探すことは可能であろう。

「私を研修生として受け入れることで、クライアントと仕事が来る、またはクライアントを繋ぎ止められる

と思い込ませるために活動するのである。

例えば、こんなことも考えられるだろう。事務所の米国弁護士が過去にどのような事件を過去に扱ったことがあるのかを調査し、日本企業(仮にAとしよう)の代理をしていたが、事務所の移籍などに伴い、現在ではその日本企業の代理をしていないとしよう。そのA日本企業の法務部の上層部やインハウス弁護士と仲良くなり、アメリカの弁護士には、「研修が実現すればその法務部の人間を紹介してもらえそうだ」と思わせるように話を進めていく。

アメリカの法律事務所のクライアントとなっている日本企業を探し出し、その企業の法務部の上層部の人と仲良くなり、その法務部の人に研修を実現できるように口ぞえをしてもらうという方法もある。

このような方法をとるためには、日本にいる間に綿密な準備をする必要があるのだが、ほとんどの人は、留学してから、厳しい現実を目の当たりにする。

運よく、研修先を見つけたとしても、オフィスだけあてがわれて放置されるケースも多い。その際に、「事件をやらせてくれ。一生懸命働くから仕事をさせてくれ。」とアメリカ人パートナーにいくら訴えても仕事をもらえることはないだろう。

研修生は、自分に仕事をさせるとアメリカ事務所のパートナーにとってどのような経済的な利益があるのかを説明して説得する必要がある。例えば、「知人の会社がアメリカ弁護士を探していて、私にあなたの仕事っぷりを教えて欲しいと言っている。しかし、私はあなたと一緒に働いたことがないので正直にその旨伝えるしかない。あなたと一緒に働くことができれば、私はあなたを知人の会社に推薦することだってできる。」と言ってみてはどうか。

日本的な発想は捨てて、アメリカ事務所と同じ土俵の上に乗ったふりをして同じ発想で行動しなければ、得られるものはないだろう。

2013年1月18日金曜日

アメリカの法律事務所で研修する方法は?-その2


つづき

研修生を受け入れたことで受けられる可能性のある経済的利益とアメリカ事務所が考えているのは一つだけである。

研修生を受け入れることで、クライアントと仕事が来る、またはクライアントを繋ぎ止められる

前述した不利益が確実であるのと比較すると、利益については確実性のレベルが様々であるという問題がある。

研修先を探している日本の弁護士が所属する事務所が既にアメリカの事務所に大きな仕事を依頼している場合で、日本の事務所のパートナーがアメリカの事務所に直接研修生を引き取って欲しいと依頼した場合、アメリカの事務所はほぼ100パーセント研修生を引き受けるだろう。得られる利益の確実性が高いからである。

研修先を探している日本の弁護士が所属する事務所がアメリカで弁護士を使う必要があるようなクライアントを全く持っていない場合は、アメリカで研修先を探すのはほぼ不可能に近いであろう。得られる利益の確実性が極端に低いからである。

アメリカの事務所に大きな事件を依頼しているような日本の大手の弁護士事務所でも、その日本の大手事務所のパートナーが米国事務所に直接研修生を受け入れて欲しいと頼んでくれない場合、研修先を探せる可能性は0%に近くなる。米国事務所の選択権限があるパートナーと話ができなければ、研修生を受け入れたところで、クライアントと仕事がやってくる確立は極めて低くなるからである。

日本の景気が良かった1980年代後半から2000年くらいまでは、日本の弁護士を事務所に一人置いておけば、日本企業から仕事が来るかもしれないと思って、研修生を受け入れていたアメリカの事務所も結構あったが、日本の景気悪化が進む中、そのような時代は終わった。

また、日本のクライアントがいるアメリカ大手事務所は既に東京にオフィスがあり、日本語が話せる弁護士が働いているので、日本企業からの仕事を得られるかもしれないという抽象的な目的だけのために、研修生を引き受ける必要はなくなっている。

最近は、アメリカのロースクールに留学後、研修先を見つけられないまま、日本に帰っていく日本の弁護士も多い。場合によっては、派遣会社に登録して、派遣弁護士としてディスカバリーの手伝いとして日本語のドキュメントをレビューする仕事だけして帰っていく弁護士もいる。

それでは、今の時代に大手事務所のパートナーの口ぞえなしに研修先を探すことは全く不可能なのであろうか。
つづく。。。

2013年1月11日金曜日

アメリカの法律事務所で研修する方法は?-その1

日本の弁護士がアメリカの法律事務所で研修先を探そうとする場合、日本の弁護士に完全に欠けている意識がある。アメリカの法律事務所はリーガルサービスを提供するというビジネスによって営利を追求している団体であるということである。つまり、ビジネス感覚が薄い日本の弁護士は、自分を研修させるとその米国事務所にとってどのような経済的な利益がもたらされるのか、逆に自分を研修させないとどのような経済的な不利益がもたらされるのかを主張するのが重要であるということを意識していない。

日本では一般的に、「どんな仕事でも誠心誠意一生懸命がんばります。」「協調性が高いので、皆と仲良く仕事ができます。」「残業でもなんでもやります。」と言って自分を売り込むのだろうが、それは、アメリカでは通用しない。研修先を探す時に同じ方法で探しても見つかるわけがないのである。アメリカで協調性や事務所内での残業時間はそれほど重視されない。事務所では一人ずつの個室があり、同じオフィス内でもメールや電話でやり取りをする。自分のオフィスの外のブースにいる秘書に電話をかけて指示をしている弁護士も多い。オフィスの外で仕事をするシステムが日本と比較して格段に整っているので、残業があったとしても5時ころにはオフィスを出で、家族と食事した後に、家で仕事する人、金曜日は家で仕事をするパートナーもかなりいる。日本と違って、職場の皆で飲みに行くことが極端に少ない。アメリカでは、他の人と同じ程度コミュニケーション能力があって、たとえ家からであっても時間内に仕事を終わらせられれば、問題ないのである。

つまり、どれだけ事務所のビジネスに貢献できるかが重要であり、協調性やオフィスに長時間残れることなど美徳にならない。

アメリカの事務所側の立場で考えてみよう。たとえ研修生に給料を支払わなかったとしても、研修生を受け入れた場合の不利益として、以下のようなことが考えられる。

オフィスの場所の提供、コンピュータ設定してやるなど費用がかかる。質問にでもこられたら、時間がとられてしまって、クライアントにチャージできる時間が減る。研修生はすぐに使えないので、何か仕事をやらせても自分が仕事を見直さなければならず、倍に時間がかかるが、倍にかかった時間についてはクライアントにチャージできない。たとえ教育して少し使えるようになったとしても、そのころには研修が終わっており、自分の利益には全くならない。同じ時間を使って教育するなら、優秀な成績で有名ロースクールを卒業したアソシエイトを教育して使うほうが、後のためにもなる。

このように研修生を受け入れた場合に事務所が確実に負担する不利益は多い。

これに対してアメリカの事務所が受ける経済的利益はなんだろうかと考えてみる。

 
つづく。。。

2013年1月2日水曜日

「弁護士の数が増えれば訴訟が増える?」の誤解―その4 


 つづき

アメリカに訴訟が多い理由の一つとして高額な医療費と無保険者が多いことも上げられるのではないかと思う。知人が軽い交通事故にあって肋骨にひびが入る怪我を負って3日間病院に入院した。検査、注射、薬の投与だけで治療行為はほとんどなかったそうだが、合計3万ドル、1ドル85円と円高で計算しても250万円以上かかったというのだから驚きである。もし、あなたが健康保険に加入してなくて年収4万ドルだったら、3万ドルの医療費を支払えるはずもない。保険に加入していても、安い保険の場合にはカバーされる範囲が狭いので、例えば、3万ドルの医療費のうち2万ドルしか保険から支払われないことも十分考えられる。そのときには、誰かに責任を擦り付けて医療費を払ってもらいたいと思うであろう。

マクドナルドのドライブスルーで購入したコーヒーを車内でこぼして腿に火傷を負ったおばあさんが、マクドナルド相手に訴訟を起こしたという話を聞いたことがあるかもしれない。アメリカが訴訟社会だと説明する例としてもよく取り上げられる事件である。しかし、これは強欲なおばあさんがマクドナルドを訴えたというケースではない。最初、腿に3度という重い火傷を負ったおばあさんの家族がマクドナルドに医療費だけ支払ってほしいと頼んだところから始まる。マクドナルドの態度があまりにも悪かったことから弁護士に相談することになり、訴訟になったようだ。

一般市民の訴訟増加には、①証人として尋問される負担など訴訟に伴う数々の負担があってもどうしても訴訟を提起したいと考える依頼者がいて、②その依頼者が初期投資しなくても訴訟遂行できる制度が整い、③弱者である一般市民に証拠収集手段があり、④訴訟を代理する弁護士も最初に手弁当で仕事をしても高額な賠償認定がされる可能性があって後で充分な報酬が期待できる等の要素が全て充たされる必要がある。もし、これらすべての条件のうち、一つでも欠けてしまったら、訴訟を起こすのは難しくなる。例えば、もし、依頼者が証人尋問を受けるなどの負担を負ってまで訴訟を起こす必要はないと考えた場合、もし弁護士が、証拠収集が難しいので勝訴の見込みは低いと思った場合、勝訴の見込みはあるけれども損害賠償は低いので成功報酬を取れないと思った場合、最初に高額な着手金と裁判費用を支払う人の代理しかできないと断るであろう。
日本では、①から④すべてが充たされていない。

因みに、上記マクドナルドの事件で陪審員はマクドナルドに対して、懲罰賠償を理由として、損害額よりはるかに高額な300万ドル、日本円で25千万円を超える支払いを命じた。

アメリカと全く制度が異なる日本で、「弁護士の数が増えると訴訟が増える」と、そんな端的に結論付けられるものではないだろう。