2016年12月21日水曜日

日本の弁護士会費は正気の沙汰ではない!?

大手法律事務所が個々の弁護士が負担している弁護士費用を負担するのは、一般的である。

アメリカの弁護士になったばかりの頃、当時アソシエイトとして働き始めた事務所のパートナーが「日本の弁護士会費も事務所で負担してもらえると思うよ」というので、「えっ。本当ですか。年間6000ドルくらいかかるのですが、大丈夫ですか?」と答えると、「年間6000ドルもするのか???」と言ったまま、パートナーは、言葉が出なくなっていた。

その後、言うまでもないが、そのパートナーが、日本の弁護士会費の話を持ち出すことはなかった。

やはり、日本の弁護士会費はアメリカの弁護士にとったら、正気の沙汰ではないのであろう。

2016年12月8日木曜日

カジノで金を失うのは誰なのか?

法曹とは関係ないが、カジノ先進国のアメリカから一言いいたい。

日本人がカジノと聞いて思い浮かべるイメージはラスベガスのような若い人たちが、おしゃれな格好をしてバケーションを楽しんでいる華やかなものであろう。

もしかすると、それは瞑想かもしれないという話をしたい。

以前、ニュージャージーの郊外にあるアトランティックシティーという街にあるカジノに平日の昼間に行ったことがある。ラスベガスのようなカジノのイメージを描いてカジノのドアを開いたのであるが、思い描いたイメージとの違いに愕然とした。中は養老院かと思うほど、高齢者が目立っていた。中には杖をついている人もかなりいた。同じ市内の他のカジノに行っても状況は同じであった。

特に、スロットマシーンに夢中になっている高齢者が多くいた。そういえば、友人が、高齢の親がカジノに行ってしまって困っているという話をしていたのを思い出した。高齢になると、痴呆症にならないにしろ、自己を抑止する力が衰えてくるのではないかと思う。

補足であるが、以前、仕事の関係で何件かスロットマシーンの特許の明細書を読んだことがある。スロットマシーンの特許は、どうやれば、一般の人が何度も何度も同じスロットゲームをやりたくなって、カジノに戻ってきてくれるかに発明性があると主張しており、そこに特許性が認められていた。つまり、どうすれば一般の人がギャンブル中毒になるか、その方法を見つけて特許しているのである。中毒になる人がいればいるほど、カジノは儲かるからである。

若い人がギャンブル中毒にかかってしまった場合、中毒を直すセラピーによって中毒が治った場合、再度働くことができるが、高齢者が中毒にかかった場合、老後の蓄えを使い果たし、中毒が治ったとしても再度働くことも難しいので、残された道は生活保護である。

カジノの経済的効果があることは否定しないが、既に昼間にやることのない高齢者がたくさんいる日本でカジノを作った場合、老後の資金を使い果たす高齢者が増えて、生活保護費用が増すかもしれない。政府としては経済的に見てもプラスよりマイナスの方が多くなる可能性があるかを総合的に検討すべきだろう。




2016年12月5日月曜日

法律事務所は営利目的法人

アメリカでは、LLC (limited liability company)によってリーガルサービスを提供することを許している州もかなり、LLCとして設立された法律事務所も最近増えていると聞く。
そんな法律事務所のなかには、外部のマネージメントコンサルタント会社が経営に深くかかわっているところがあると聞く。リーガルサービスを提供してコンスタントに利益を得るためには、どのように営業をすべきなのか、誰をクライアントにして誰をクライアントにしないかなど、経営にかかわるかなりの事項を外部のマネージメントコンサルタント会社が決定し、パートナーですら、そのような決定権限がないという事務所すらあるそうだ。

そういえば、ある法律事務所に、簡単に言うと「御社の案件は、他の企業の案件を利益相反で受任できなくしてしまう割には、仕事量が少なくて事務所の利益にならないので、お断りさせていただきます。」と言われたと、ある日本企業の人が怒っていた。

ここまではっきり言う事務所は少ないと思うが、法律事務所が企業のように利益を追求し、外部マーケティングの専門家を雇って、事務所にとって最も利益が出るのはどのような場合かをもとに経営判断をする時代が来ている。

日本でもマーケティングに関するコンサルタント会社のセミナーに参加している弁護士が大勢いる。「弁護士は人権保護を。。。」と言っている時代は終わりに近づいているのではないか。

2016年11月7日月曜日

当たり前のことであるが

最近、ビジネスに関心を持っており、ちょっと年配のアメリカ人と話をしている際に、何気なく「ビジネススクールに行ってみたいなあ」とつぶやいた。すると、下記のような忠告を受けてしまった。

「ビジネススクールに行くかどうかを決定するには、ビジネススクールの学費がいくらになるかしか考えていないかもしれないけれども、ビジネススクールに行っている間仕事をしないのであれば、その間に得られるはずの収入をプラスしなければならない。その合計額を、ビジネススクールに行ったことで、現在よりもいくら多く年収を得られる職に就けるかどうかを予想し、ビジネススクールに行ったことで失った収入プラス学費を何年間で回収できるかを計算するんだよ。それをもとに、ビジネススクールに行くかどうかを決定しなければならない。そうすると、かなりの場合、ビジネススクールに行くこと、特に、有名な学費の高いビジネスに行っても元が取れないんだよ。」

確かにそう考えると、仕事を辞めて、自分の金でビジネススクールに行くなんてとんでもない話だと思った。どう考えても元が取れるとは思えない。

それと同時にいくつかの考えが頭を巡った。

日本の大手企業、特に商社などは、若手の優秀社員をビジネススクールや、ロースクールに会社のお金で行かせて、さらにその間、給料まで出すということをしているが、その場合、社員にとってみれば学位が取れて、知識が増えて、履歴書の見栄えが良くなるが、失うものは何もないわけだ。学位を取り終わった後に就職活動をする必要もない。アメリカに留学するなら、この方法が最善である。今留学を考えている人に対しては、会社が金を出してくれないなら、留学するのは、余程考えてからにすべきだと忠告したい。

また、日本の法科大学院に行くのは、どんなに頭をひねっても経済的な理由が見つからないと思った。特に、社会人が仕事を辞めて法科大学院に行くのは、自殺的である。法科大学院の場合、学費自体はアメリカのロースクールと比較すると安いが、収入が得られない期間が長すぎる。2年の法科大学院に行っても、修習が終わるまで収入が得られないとすると、4年近く得られるはずの収入が得られないのである。
また、転職が容易でなく、転職することで給料が下がる可能性が高い日本で、一旦会社を辞めることはリスクが高い。
特に、日本の社内弁護士の給料は一般の社員とほとんど変わらないのであるから、法科大学院を卒業して弁護士資格を得たからといって以前よりも多額の収入を得られることがない。つまり、いくら働いても働いても、学費と得られたはずの給料を取り戻すことができないのである。
結局失っただけになり、老後に、あの時に法科大学院にいっていなければ、もっと生活が楽だったかもしれないと後悔することになるのだろう。





2016年6月27日月曜日

こんなことになるとは思わなかった

英国で、EUを離脱することに賛成票を投じた人たちの中には、あまりの経済的な影響の大きさに驚き、もう一度投票をさせてほしいと言っている人もかなりいるようである。
経済的に大変なことになると、投票前に専門家があれほど警告していたのにも関わらず、そんなことはないと言い放つ政治家を信用して離脱に投票した人たちである。

この英国の出来事から、あの2000年の弁護士会のロースクール賛成、合格者3000人賛成決議に賛成票を投じた弁護士たちのことが思い出されるのは、私だけであろうか。

離脱に賛成票を投じた英国人と、ロースクールと3000人合格に賛成票を投じた弁護士との違いは、投票後に後悔していると本音を語るか、意地でも決議は正しかったと言い切るかである。

あの2000年決議の時、弁護士が一緒になって、ロースクール反対を訴えたらどうなっていたかと思うことがある。
ロースクールの設立は止められなかったかもしれないが、政策失敗が明らかになった直後から、弁護士会主導で、制度改革に向けて活動できたかもしれない。

2016年6月12日日曜日

学閥 その2

今の日本の法科大学院制度は、学閥を助長する要素があると思う。

定員割れが叫ばれているなか、入学試験を受けてくれる人をどれだけ確保できるかは、法科大学院としては死活問題である。
法科大学院の案内パンフレットに魅力的なことを書きたいと思う。
大学院を卒業した者のその後の進路が魅力的であることは応募者を増やすためには必須である。

そうするとどうなるだろうか。
法科大学院関係者は同じ大学院を卒業して弁護士になった人、同じ大学を卒業して企業の上の方で活躍している人に対して、うちの法科大学院出身者を雇ってほしいとお願いすることが考えられる。
「お願いします。うちの法科大学院の評価が高くなれば、あなたにとっても得になります。」


学閥はこのようにして助長されるのではないか。

2016年6月10日金曜日

学閥

私が弁護士になったもう20年くらい前の時代、友人に、弁護士の世界に学閥のようなものがあるのか聞かれたことがある。
確かに、歴史的に弁護士を多く輩出してきた大学には同窓生の法曹の集まりのような会があったが、弁護士会の中に俗にいう学閥のようなものは、私の記憶する限りなかった。

当時宝くじに当たる確率のようなあの低い合格率の司法試験に合格したこと、同じような2年間の修習を経たというだけで一体感があった。

どこかで弁護士に会うと、まずは
「先生は何期でいらっしゃいますか」と修習の期を聞くのが一般的で、次の会話は
「〇〇期でいらっしゃるのですか。それでは、〇〇先生をご存知ではないですか。」
「ああ、〇〇先生ですね。良く存じ上げております。この前も、、、」
と話が続くのが一般であった。

修習の時は、誰がどの大学出身なのか、皆知っているが、大学によって修習生が優秀かどうかの格付けが付くようなことはなかった。大学としてそれほど良い大学とされていない大学出身者であっても、大学在学中に司法試験に合格した人がいれば、有名大学を卒業したけれども司法試験合格に時間がかかった修習生は、尊敬の眼差しで、その短期合格者を見ていた。

法科大学院ができて、司法試験合格者が増えるということが決まった時、今後は学閥が幅を利かせるだろうと思った。
特に、司法試験に合格したというだけでは優秀と言えない時代になれば、どの大学、どの法科大学院を卒業しているかは、重大な判断基準である。優秀な大学や法科大学院を卒業した弁護士は、あまり良いとされていない大学や法科大学院を卒業した弁護士を見下すようになるだろうと考えた。
昔のような宝くじに当たるような確率の司法試験に合格して、2年間の充実した修習を経験したことによって一体感があった法曹界が変わるだろうと。

実際、今はどうなっているのだろうか。



2016年5月22日日曜日

人工知能が弁護士として事務所に就職する日

アメリカでは、既に、人工知能が弁護士法律事務所に就職する日が来たようだ。

アメリカの法律関係の有名なブログには、大手事務所が人工知能弁護士を雇用したと記載されている。破産法に関するプラクティスをするという専門分野まで決まっているらしい。

http://abovethelaw.com/2016/05/bakerhostetler-hires-a-i-lawyer-ushers-in-the-legal-apocalypse/


ROSSという人工知能弁護士で、IBMのワトソンという人工知能をもとにしているようだ。
http://www.rossintelligence.com/

最初のページにはSuper intelligent attorneyと記載されている。

アメリカでは、リーガルリサーチで何時間もアソシエイトやパラリーガルが時間をつけてクライアントに多額の弁護士費用を請求しているが、この人工知能を使ってリーガルリサーチをした場合、法律事務所はどの程度の費用を請求するつもりなんだろうか。
ブログによると若手弁護士がリーガルリサーチをして判例を分析してリーガルメモを作成する時間として15時間かかるのをROSSはあっという間にこなすと予測されている。


現在は、この人工知能が非常に高いことが予想されるので、人工知能を使ったサーチでも多額の費用を請求する根拠もあるだろうが、何年か経って、人工知能を採用する費用が安くなったら、どうなるのだろうか。企業が一人の社内弁護士を雇う代わりに人工知能を採用するという程度の値段になれば、企業は、人工知能を雇うかもしれない。そうすれば、法律事務所は人員削減に踏み切らなければならないだろう。

弁護士の将来はますます不透明になっている。弁護士だけではない、他にもリサーチを商売にしている業種は多数あり、同じような人工知能が既に開発されている、または将来開発されるであろう。


これからの若者は大変である。特に、年金のもらえる年齢が70歳になるのであれば、50年後を見据えて職業を選択しなければならない。将来を予想するのは非常に難しい。


間違っても、弁護士、特に日本の弁護士を選択するのは絶対にやめるべきだろう。初期費用がかかり過ぎるにもかかわらず、将来が全く見えない。また、初期費用が高いと、途中で状況が変わったときや、間違った選択だったと気づいたときに、他の選択肢を考えてみようという柔軟性が極端になくなる。


2016年4月30日土曜日

またアメリカの猿真似をするのか?

先日、日本の特許関係者と話す機会があった。
日本の特許関係者の中には、日本の特許出願件数が下がっているのは、日本の特許侵害訴訟の損害賠償額の低さにあるという議論があるようだ。さらには、日本の裁判所もアメリカを見習って、特許侵害訴訟の損害賠償額を上げるべきだ、懲罰的賠償を認めるべきだ、という議論まであるらしい。

確かに、アメリカで特許侵害訴訟の損害賠償額が100億円を超えることは珍しいことではない。日本とは雲泥の差である。そこで、アメリカで製品を販売する会社は、将来特許侵害訴訟で訴えられないように、自社の技術に関連する特許をなるべく多く取得しようとする。だから、世界各国の企業が必死になってアメリカで特許を取得しようとするのである。

またしてもアメリカの猿真似を考えている人々がいるようだ。
法科大学院をアメリカから輸入して失敗したのと同じように、日本の特許訴訟の損害額を高くしても、思った効果はないだろう。

アメリカでは、特許訴訟だけでなく、製造物責任訴訟、クラスアクション、様々な訴訟の危険があるが、多くの企業がアメリカ市場で販売するのをやめないのは、アメリカが魅力的なマーケットだからである。
中国でも、共産党国家ならではの危険があるが、多くの企業が中国での販売をやめないのは、中国が魅力的な巨大なマーケットだからである。

それと比較して、超高齢化社会が進み、今後市場が縮小することが予想される日本で、訴訟の危険を拡大させたら、どうなるだろうか。

危険が高くて魅力的でない市場から企業が引き上げていくだけである。

損害賠償額の引き上げは、魅力的な市場と不可分一体でなければならない。猿真似をしても思った効果は表れないのだ。



2016年4月28日木曜日

役職定年

最近、55歳が役職定年という大企業は多い。55歳になると、役員などまで出世した限定的な場合でない限り、今まで会社から与えらていた役職が引っぺがされて、役職がなくなるという恐ろしい制度だ。

会社によっては50歳が役職定年という会社もある。あと何年で役職定年と指折り数えられる年齢になった友人などは、既に役職定年した元上司を横目で見ながら自分があのようになるのも時間の問題と思っているようだ。元上司が今は自分の部下になったと話していた友人もいる。その元上司は、それからしばらくして転職したらしい。元部下の下で働くのは辛かったのかもしれない。

弁護士は、人から与えられた役職ではなく、自分で取得した資格なので、弁護士会費を払い続けられる限り、懲戒処分を受けるようなことをしなければ、人から引っぺがされることはない。そう思うと、弁護士という資格は悪くないかもしれないと思うこともある。

ただ、この「弁護士会費を払い続けられる限り」というのがかなり重くのしかかる。弁護士という肩書を維持するためだけの費用なら、費用対効果から考えてもコストがかかりすぎる。役職定年に達する年齢どころではなく、30代でも会費が支払えなくなって、弁護士資格を返上している人もいるくらいだ。

それと比較し、アメリカの弁護士資格なら、日本のようなべらぼうな会費がかかるわけではないので肩書維持のためだけに資格を維持できる。

会社に勤めている人が、会社から費用を出してもらって、アメリカのロースクールに留学させてもらえることがあったら、必ずアメリカの弁護士資格を取得して帰るべきだと思う。役職を失っても、名刺にアメリカの弁護士と明記することができる。

2016年4月27日水曜日

大手企業のリーガルコストは一向に下がらないだろう

しばらく更新していなかったが、このブログで、一番訴えたいと思っていたことは、3年前の下記の投稿である。


弁護士が増えることで価格競争になり、弁護士を安く使えるようになるというのが大企業から見た司法改革の目的であったような気がする。しかし、その目的は本当に達成されるのか疑問である。日本と比較したら信じられない数の弁護士を輩出しているアメリカを見ていると弁護士の数が増えることは、リーガルフィーを下げることにはつながらないのではないかと考えざるを得ない。日本にも今まで以上に高いリーガルフィーを支払わなければならない時代が到来するのではと思う。その理由は、一般に言われているような、弁護士が増えれば訴訟が増えるなどという短絡的なものではない。

まず、価格競争になるためには、マーケットに出回る製品の質にそれほど違いがないことが大前提となる。質が悪くて使い物にならない製品が多く出回っていて、極一部の製品のみ質が良いという認識がマーケットに広がっていれば、極一部の質の良い製品に人気が殺到し、その製品の価格が高騰することもありうる。

市場の極一部に質の良い製品があるのだが、それがどの製品なのか、専門家にしか分からないということになれば、専門家にお墨付きをもらった極一部の製品が値上がりするだろう。

さらには、製品として既に出来上がっているのではなく、注文を受けてから特注で製造されるもので、注文を決めた際にはうまく出来上がるかどうか分からないということになれば、特定の有名な職人に注文が殺到するだろう。有名な職人が一人で作るのではなく、職人の所属する会社がチームとして製造するということになれば、有名な職人が所属する会社がブランド化し、その会社に注文が殺到する。
 
司法改革の最大の成果は、弁護士の数は増えたが、質はまちまちであり、優秀な質の高い弁護士は極一部であるという共通の認識がマーケットに広がりつつあることだ。後で説明するが、この認識は、良し悪しを客観的に評価するのは非常に難しいリーガルサービスの特性とあいまって、弁護士費用を高騰させる役割を果たす。

さらに、リーガルサービスは、既に出来上がっている製品を購入するのとはかなり異なる。サービスを受ける前に最終的にどのようなサービスが提供されるか分からないし、誰がサービスを提供するかでサービス内容が大きく異なる。また、間違ったサービスが提供されると重大な結果が生じかねない。間違っていなくても、最高のサービスが提供されたかされないかによって結果に大きな差が出る可能性もある。特に大企業にとって、提供されたリーガルサービスが悪かったことで損失を被ることは甘受できるものではない。

これらは、リーガルフィーをあげるための必須条件となる。
弁護士の数は増えたが、質はまちまちであり、優秀な質の高い弁護士は極一部であるという共通の認識がある場合、法律事務所の選択に気をつけなければ、例えば80パーセントの割合で質の悪いリーガルサービスしか受けられないと分かったら、恒常的に弁護士を使う必要がある企業は法律事務所選択に神経をとがらせることになる。

リーガルサービスの特徴は、専門家でなければ客観的に質を評価することが非常に難しいこと、サービスの提供を受ける前にどのようなサービスを受けられるのか分かりにくいこと等々他のサービスと異なる点が非常に多い。良い法律事務所を選択すると言っても、それは口で言うほど易しいものではない。
リスクを避けたがる日本人の特徴から考えると、知名度があり、優秀との推定が働く弁護士(有名な法科大学院を卒業したか、予備試験合格者)しか採用しない事務所で、海外留学経験をして米国弁護士資格も有している弁護士が多くいる、元高裁判事経験者、元キャリア官僚出身者の弁護士もいる事務所を選択しておけば、まずは間違いがないだろうと考えがちである。そのような事務所を選んでおけば、法務担当者は事務所選択を誤ったと責任を負わされる可能性も低くなる。

サービスの良し悪しの判断が難しい市場で質にばらつきがあると、萎縮的な効果が発生する。
例えば、市場に30パーセントの優秀な弁護士がいたとしても、保守的な大規模中規模企業は、市場にいる30パーセントの優秀な弁護士に依頼するのではなく、例えば優秀そうに見える肩書きを持つ10パーセントの弁護士にしか依頼しなくなる。萎縮的な効果によって依頼が10パーセントの弁護士に集中するのである。
この萎縮的な効果により更なる問題が発生する。弁護士の数が増えたうえで、依頼が一部の弁護士に集中すると、弁護士であっても弁護士としての経験をつめなくなる弁護士の割合が激増することである。それは今までのように新人弁護士に限った話しではない。例えば離婚、相続、貸金返還などの事件処理の経験がいくらあっても、それだけでは企業法務にはほとんど役に立たないだろう。大企業が大手事務所を選択する傾向が強まると、小さい事務所に勤務している一般的な弁護士は企業法務の経験を全くつめなくなる。給付制、貸与制問題で、最終的には修習をなくそうという動きも出てくるだろう。修習がなくなれば、経験のあるなしという弁護士間での新たな格差が広がる。どの事務所に就職したかで弁護士としての経験が全く異なってしまう。小さな事務所では個人相手の事件の経験しか経ることができない。そうすると、小さい事務所を選択する危険がますます増大してしまい、企業が大手事務所を頼る傾向に拍車がかかる。

小さい事務所は、ブティック事務所という形で、特定の分野に特化して、企業のクライアントを持ち続けるか、一般市民向けのマチ弁事務所になるかという選択を迫られる。ただ、ブティック事務所は、その特定の分野の需要が経済情勢などから落ち込んだ時に、経営難から大手事務所に吸収される危険を抱えることになる。

大手事務所は、これからどんどん少数派になる優秀層の新人弁護士を自分のところに囲い込まなければならない。その時、強敵となるのが外資系、特に英米系法律事務所である。

優秀な人材を囲い込むには、二つの重要な条件がある。高い報酬と、優秀層がやりがいを感じられる仕事があることである。

外資系事務所で東京にオフィス(単なるリエゾンオフィスではなく)を有するのは英米でも巨大事務所と言われる事務所に限られる。弁護士のアワリーレートも高く、事務所内での競争も激しく、弁護士に対するノルマも厳しい。しかし、資金力があり、弁護士への報酬が格段に高い。また、英語を必須とするグローバルな仕事も結構あるので、弁護士としては仕事にやりがいを感じやすい。また、海外企業の日本関連の仕事を行うことも多く、クライアントや他の弁護士と英語でコニュニケーションをとるなど、日本の大手事務所とは違ったグローバル感覚を味わえる。

この点、大手の日本法律事務所は、外資系事務所にはかなわない。外資系に対しては厳しくディスカウント要求しないが日本の大手事務所に対してはディスカウント要求する日本企業は多い。日本法律事務所の主な収入源は日本企業であるが、外資系事務所の収入源は世界の有名企業である。つまり、大手であっても日本法律事務所は、英米系事務所ほど資金力がない。また、日本の大手事務所には留学経験者が多いとはいえ、たった1,2年の留学経験に過ぎず、渉外事件を英米系事務所の助けを借りずに処理できるだけの能力はないことが多い。つまり、外注に出すのである。大企業もそれは分かっており、大手事務所には、マンパワーが必要なM&Aなどの依頼に限って、グローバルな渉外事件は英米系事務所に直接依頼するところが多い。マンパワーが必要な仕事の歯車として働かされても、やりがいを感じることはあまりない。つまり、新人弁護士報酬の面でも、やりがいを感じる仕事の面でも日本の大手事務所は英米系法律事務所に見劣りしがちである。つまり、少なくなってきた優秀な新人弁護士が英米系事務所に流れる可能性が高くなってきたのである。

実はこれは新人弁護士に限ったことではない。既に業界で有名な弁護士に魅力的な条件を提示して大手事務所から引き抜くという英米系特有の方法もある。

日本資本の大手事務所は、英米系事務所が手薄なアジアに支店を出して巻き返しを図っているが、司法改革の失敗が放置され、これ以上優秀な新人弁護士が減り続けたら、英米系事務所に対抗できるのか分からない。


現在は、旧司法試験最後の質にばらつきがない世代が40歳代の弁護士として活躍しているが、この世代が50代後半になる頃まで司法改革の失敗がこのまま放置されれば、日本の法曹界の異変がはっきりと見えるようになるだろう。

質のばらつきが広がることで、弁護士というだけでは社会的信用を得られない。ブランド力のある事務所の弁護士であることが、社会的に信用を得るために必須となる。さらに、大手事務所に勤務する弁護士が勝ち組で、個人を相手とする弁護士やマチ弁は負け組みと揶揄する風潮が発生しかねない。今までは、小さなマチ弁事務所で採算の取れないような人権活動をやりたいと思う優秀な弁護士がいた。それは、弁護士は社会的に信頼され、尊敬される職業だという誇りがあったからであろう。マチ弁は負け組みと揶揄されるようになれば、優秀な弁護士は大手事務所や大企業以外で働くことを考えなくなるだろう。

資金力と仕事内容の面で圧倒的に優位に立つ外資系事務所が市場に数少なくなった優秀な弁護士を吸い上げるだろう。吸い上げられるのは新人ばかりではない。日本の大手事務所から経験弁護士をクライアントごと引き抜こうとする外資系事務所が発生するだろう。

こうなると、大企業は大手事務所、特に外資系事務所に依頼する傾向が強まる。この傾向が何を意味するかと言えば、余っている弁護士は大勢いても、企業法務をやる上で必要な実務経験をつめない弁護士が数多く発生するということだ。企業が弁護士の質と経験不足に不安を感じることで、高くても大手の有名な弁護士に依頼せざるを得なくなるだろう。

このブログでも何度も取り上げているとおり、外資系事務所、特に米国事務所はビジネスに長けている。事務所内部にマーケティング部があるのが通常なのだ。どのような経路をたどるか分からないが、最終的に彼らに多額のリーガルフィーを支払うことは避けられないであろう。それは、米国政府の圧力による制度の変更を伴うかもしれない。日本の事務所のように下手なディスカウント合戦で自滅したりしないことは確かである。

大企業もリーガルフィーを下げるために今より多くの社内弁護士を雇うという方針を決定するかもしれない。しかし、新人弁護士を雇ってもあまり役に立たない。社員を留学させて米国弁護士資格を取らせてみても、それだけでは役に立たない。外資系事務所等で最低3年から5年の実務経験を積んだ弁護士を社内弁護士として採用しない限り、社外弁護士の仕事を評価したり、社外弁護士に適切な指示をすることでリーガルフィーを減らすことはできないからである。もし、外資系事務所で3年から5年の実務経験を積んだ弁護士を社内弁護士として採用しようと思ったら、それなりの給料を支払わないわけにはいかないだろう。人間らしい生活がしたいので、少しくらい給料が下がっても社内弁護士に転身したいという人はいても、給料が2分の13分の1になってもいいという人はまずいないだろう。

競争の時代なのだから、安くする事務所は幾らでもあるだろうという反論があるかもしれない。しかし、質のばらつきが広がれば広がるほど、安かろう悪かろうという推定が働く。安売りをしている事務所には軽々しく依頼できなくなる。
 
大企業は、ある程度思い切った給料を支払って、経験のある社内弁護士を雇い、さらには、ビジネスに長けた英米系事務所にかなりの額のリーガルフィーを支払わざるを得ないような時代がやってくるだろう。

弁護士が増えたのだからリーガルフィーが高くなるなんてことはありえない思うかもしれないが、掃いて捨てるほど弁護士がいるアメリカで時給が10万円を超える弁護士に依頼する大企業が多くいるのである。現にアメリカで法的問題が発生したときに、安さを売りにしている小さな事務所に依頼している日本の大企業があるだろうか。

弁護士を安く雇いたいという動機が垣間見る司法改革であったが、最終的には、大企業が支払うべき全体としてのリーガルフィーが格段にあがってしまうという皮肉な結果に終わるのではないかと予想する。


2016年2月22日月曜日

社労士も大打撃では?

法曹とは若干ずれるが、もしアメリカに社労士という資格があったら、今頃もうそれは過去のものになっていただろうと思うサービスがアメリカの会社では一般的に利用されている。

そのようなサービスを行う会社のウエブサイトを見てみると、同じ会社が日本にも進出しているようなので、御紹介しようと思う。

アメリカでは、オンラインで、タイムカードのチェックをし、それをもとに、残業代を含む給料を計算し、管理者が2週間ごとに働いた時間を確認した後、コンピューターによって各従業員の給与計算をし、控除する税金を計算し、計算した額をもとに銀行口座から税金を支払い、各従業員の銀行口座に給与を振り込み、給与明細をサービスを受ける会社に郵送するというサービスを利用している会社が一般的である。
年末に各従業員が税金申告をするための書類も作って、郵送してくる。
タイムカードをパンチできるコンピュータのマックアドレスを登録して、他のコンピュータからパンチインできないようにすることもできる。
サービスを受けると、従業員一人について、いくらという計算であるが、社内で専門の人を雇ったり、日本の社労士のような人のサービスを受けることを考えたら、安いものである。

各州によって、法律と税金が異なるアメリカであるが、簡単なことであれば、質問もできる。
こういうサービスを利用するのは小規模な企業だけかと思うかもしれないが、従業員が何百人単位でいるような会社もこのサービスを利用している。

給料や税金の支払い元の口座を持つ銀行も、ビジネスの内情を把握できるという利益もあいまってか、同じようなサービスに乗り出すところも出てきているようだ。

このようなサービスを提供する会社としてADPと、Paychexという会社はよく聞くが、ADPは、日本向けのサービスも始めているらしい。

http://japanese.adp.com/solutions/employer-services/streamline.aspx

このようなサービスを受けることが日本の中小企業で一般化したら、社労士はひとたまりもないのではないかと思う。

2016年1月1日金曜日

Happy New Year

日本では、Happy new yearは「あけましておめでとう」の意味だと習った。間違っているわけではないが、Happy new yearには、日本の学校では教えていないもう一つの意味がある。「良いお年をお迎えください」である。
クリスマスを過ぎた後、年明けまで会わないと思われる人と別れるとき、皆が必ず言うのは、「Happy new year!」である。アメリカでは、12月31日は休みではないが、皆早く帰るのが一般である。帰る際に皆口々に言うのは「Happy new year!」である。

12月30日だとこんな会話が交わされる。
「Are you coming to the office tomorrow?」
「 No. Are you?」
「Probably. 」「Happy new year!」

明らかに、人々は「Happy new year」を「良いお年をお迎えください」という意味で使っている。

日本だと、1月中は、その年初めて会った人に対して「あけましておめでとうございます」というが、Happy new yearは、クリスマスが過ぎたらMerry Christmasと言わないのと同じように、正月が過ぎるとすぐ使われなくなる。


たかがHappy new yearでも、日本とアメリカで使い方が全く違うように、国が違えば日本にいるだけでは分からないような違いがある。なのに日本ではなんでも海外のもの、特にアメリカの制度などを何も考えずに日本で採用しようとする傾向にある。日本とアメリカの違いを何も考えないままに。ロースクールもしかりである。