2012年12月18日火曜日

「弁護士の数が増えれば訴訟が増える?」の誤解-その2


つづき

クラスアクションという言葉を聞くことは多いかもしれないが、その意味が本当に分かっている人は少ないのではないか。日本でも複数当事者が原告となって訴訟を提起することができるが、それはクラスアクションとは全く違うものである。クラスアクションの大きな特徴はOpt-out (オプト・アウト)である。指定されたクラスのカテゴリーに入っている原告適格者は自ら積極的に「自分は当事者になりたくないので抜けさせて欲しい」と意思表示しないかぎり自動的に原告になってしまう。日本では、「自分は原告になりたいので入れてください」と積極的に意思表示しないと当事者にならないOpt-in (オプト・イン)の制度を採用している。

例えば、製造物責任訴訟で問題となった特定のモデル機器を購入した人が1万人いるとしよう。裁判所がこれらのモデル機器を購入した人たちが全てクラスに入ると決定すると、クラスに入れないでくださいと積極的に意思表示しない限り、クラスアクション訴訟の当事者となる。これに対して日本では、問題のモデル機器を購入した被害者が積極的に参加を表明しない限り、当事者にはならない。アメリカに住んでいれが何回かは、「あなたはクラスアクションのクラスのメンバーに入っています。」という手紙を受け取った経験があるはずだ。

では、何故この制度が訴訟の数を増やす結果になるのか。

裁判所によってクラスの範囲が決定されると、クラスの範囲に入る人に対して、郵便、Eメールやインターネット等の方法により「あなたはクラスアクション訴訟のクラスのメンバーに入っています。原告から抜けたい場合は下記に連絡ください。」と通知される。しかし、手紙やEメールを受け取った人の大半は何もしないので自動的にクラスアクションのクラスのメンバーのままである。

例えば、一人の損害額がおよそ10万円くらいで、弁護士が5人の被害者を集めて訴訟を提起した場合、勝訴しても50万円の回収ができるだけである。たとえ、回収額の50パーセントを成功報酬と決めても、25万円に過ぎず、弁護士業務の手間に相当する分の報酬が得られない。つまり、弁護士として事件を受けるインセンティブはない。しかし、一人の損害が10万円でも5人の被害者をクラスの代表として1万人のクラス全員のために訴訟を起こせるのであれば、勝訴した時の賠償額合計は10億円になる。そこから、たった10パーセント成功報酬がもらえるということでも1億円の成功報酬になる。報酬が1億円になるのであれば、弁護士も訴訟を提起するインセンティブがあるというものである。