2013年5月26日日曜日

日本のアシスタントが恋しくなる訳


弁護士の目から見ていて不思議に思うのは、アシスタントの仕事ぶりと給料である。最近の日本のアソシエイト弁護士の給料は、アメリカのアシスタントより低いようである。中規模事務所以上のアシスタントで年収400万円以上もらっているのは普通であり、人によっては800万円もらっている人がいるようである。パラリーガルになれば、もっともらえる可能性もある。大手事務所のパラリーガルになれば、クライアントにチャージした時間数によってボーナスも出るので、年収1000万円以上になることもありうる。

これだけ給料をもらっているのだから、さぞ一生懸命働いているのだろうと思ったら大間違いである。他のアシスタントと雑談をしたり、友人に電話をかけていたり、あまり熱心に仕事をしていないのに、5時か6時になるとあっという間にいなくなってしまうのが一般的である。

そんな働き方をしていても弁護士からお叱りを受けているアシスタントはほとんどいない。叱ったりすると、その後気持ちよく働いてくれなくなるか、辞めてしまうだけなので、弁護士としてもアシスタントにかなり気を使っている。弁護士ごとに担当のアシスタントが決まっているため、担当のアシスタントが気持ちよく働かなくなったら、弁護士としても困る。他のアシスタントに頼むわけにはいかない。もし、他のアシスタントに頼んだとしても、自分が担当する弁護士の仕事を先に済ませないといけないからと言って、後回しにされるか、断られるかのどちらかである。クライアントを多く持っている事務所内でも権力がある弁護士であれば、事務所に文句を言ってアシスタントを辞めさせることもできるのだが、通常の弁護士にはそのような権力はない。それなら、就業時間中に雑談したり、友人や旦那に電話をかけているアシスタントの行動に目をつぶるしかない。

ただ、中には熱心に働くアシスタントもいる。そのようなアシスタントは貴重なので、例えば、弁護士が他の事務所に移籍する場合などに一緒に移籍できるように手配してもらえることになる。

リーマンショックの直後には、弁護士のリストラだけでなく、アシスタントのリストラも盛んであった。その際、私用電話ばかりして、5時ピッタリに事務所を出ていたアシスタントなどは、辞めさせられていた。このときばかりは、事務所も一応アシスタントの仕事ぶりを見ているのだなあと感じた。

2013年5月5日日曜日

一部の弁護士が儲ける制度


アメリカ人はつくづくビジネスが上手であると感じる。弁護士も例外でない。現在、アメリカの大手事務所で多く採用されている法律事務所のシステムはリーガルサービスによって一部の弁護士が金を儲けることができる。

損害賠償額が高い訴訟を成功報酬で受任しても一時的に高い報酬を受け取ることができるかも知れないが、勝訴するかどうか分からない事件を成功報酬一本で引き受けるのは危険が大きすぎるし、継続的に安定した報酬を得られるわけでない。

一時間の仕事につき幾らかかるというアワリーチャージで報酬を請求すれば、危険が少ないし、継続的に安定した報酬を得られる。しかし、アワリーチャージだと、124時間しかないので、アワリーレートを高くしても得られる報酬には限界がある。決められたある一定時間以上の時間をチャージすれば、ボーナスは出るが、自分で働いた時間を基準にしか給料が出ないのであれば、限界がある。

そこで自分で働いた時間を基準として給料を得られるシステム以外のシステムが必要になる。ビリングパートナーというシステムはその一つである。事件ごとに誰がビリングパートナーになるかが決められる。通常、そのクライアントを持ってきたパートナーがビリングパートナーとなる。
ビリングパートナーは自分が働いてチャージしたのではなく、他の弁護士がチャージしていても、そのうちの一定割合を自分の報酬として手にすることができる。つまり、他の弁護士にその事件をやらせることによっても自分の収入額が高くなるのである。

ただ、それでもある程度限界がある。そこで、エクイティーパートナーというシステムがある。総利益はエクイティーパートナーたちの更なる収入になる。

エクイティーパートナーが儲かるためには、下の弁護士、特にアソシエイトに働いてもらう必要がある。「大手事務所のアソシエイトに課されたノルマ」で説明したようにアソシエイトには考えられないノルマが課され、ノルマを果たせないアソシエイトはいずれは辞めさせられる。

こうしてエクイティーパートナーはアソシエイトをはじめとして他の弁護士を酷使して何億円という収入を手にするわけである。

ピラミッドのトップにいる一部の弁護士が多額の収入を得られるシステムが上手に出来上がっている。

2013年4月26日金曜日

クライアントになるふりをして弁護士を騙そうとする人々


最近、クライアントになる振りをしてアメリカの弁護士を騙そうとする人たちがいるようである。私の周りで聞く話では、日本の企業を装って騙そうとする人も多いようだ。それだけ日本企業は信用があるし、アメリカの事務所から言われたとおりにディスカウントも要求せずに弁護士費用を支払うと思われている、つまり、中国や台湾企業と比較すれば、法律事務所にとってよいクライアントだという共通の認識があるのだろう。

手口の例としては、日本企業の代表者や法務部長を装ってメールで依頼できる弁護士を探していると言ってくる。喉から手が出るほど仕事が欲しいアメリカの弁護士は他者からの紹介がない場合でも返答をしてしまう。メールには、立派そうな会社の名前が記載されており、会社のホームページのアドレスが載っており、リンクをクリックすると、一見立派そうな会社概要が記載されたホームページが現れる。

メールでのやり取りにより仕事を受任することになるが、初めての信用も分からないクライアントということで、預かり金を送金してもらうことになる。例えば、15千ドル振り込んでもらうことになったとする。先方から連絡が来て、15千ドルを送金しようとして間違って5万ドルを振り込んでしまったので、至急35千ドルを送金して欲しいと連絡が来る。証拠がメールに添付されていたりする。ある程度の規模の事務所であれば、35千ドルが支払えるので、入金が確定していることをしっかり確認する前に35千ドル送金してしまうこともある。

35千ドル支払った後はどうなるか、話しを続けるまでもなく分かるであろう。クライアントと名乗る企業と連絡が取れなくなる。振り込んだ35千ドル、1ドル100円で換算すると350万円は返ってこない。

これ以外にも他の弁護士騙しの手口を聞くこともあるが、長くなるので割愛する。

弁護士は仕事が必要で困っていること、仕事が足りなくて事務所を辞めざるを得なくなるパートナーが多くいることをうまく狙った詐欺である。最近は日本でも弁護士がクライアント獲得に明け暮れているようであるが、弁護士を狙った詐欺を働く人たちが現れるのもそう遠いことではないのだろうか。

2013年4月14日日曜日

派遣弁護士業務が日本上陸か


以前、アメリカ特有のディスカバリーという制度により、一時的に大量のドキュメントをレビューする弁護士が必要になるので、派遣弁護士という働き方があるという話しをした。

ドキュメントレビューをする弁護士は、ディスカバリーで関連書類等を相手方に提出しなければならないが、提出する前に、事案との関連性があるのか、弁護士秘匿権によって出さなくてよいものかなど、すべての書類を精査することになる。最近、企業で保管されている書類は電子情報がほとんどであり、メールもファイルもすべて電子情報である。日本人の性質として何でも保存しておこうとするので、このデータ量は半端ではない。それをたとえキーワード検索して減らしたとしてもものすごい数になる。関係者が5人で各関係者が1万通のEメールを自分のコンピュータに保存していた場合、すべてのメールをレビューする人が必要となる。それにプラスして社内向けに作成された資料など、10万ページの資料をレビューしなければならないなど、ざらである。
ディスカバリーは一時的な仕事なので、2ヶ月程度の短期のプロジェクトになり、通常は外部の派遣会社に頼んで、どこの事務所にも所属していない弁護士を派遣してもらう。特に日本企業の場合は、書類のほとんどが日本語であり、日本語が読めるアメリカ弁護士資格保有者がレビューすることになる。アメリカでこのような適格者を探すことは難しいのであろう。1時間50ドルから75ドル程度で募集がかかっているのをよく見かける。1ドル100円で考えても時給5000円から7500円となる。将来の安定性はないし、弁護士実務の経験には全くならないので転職も難しくなるだけの仕事であるが、バイトとしてはある程度のお金になる。ロースクール時代の借金を返すために派遣弁護士になっている人はいる。

クラウドなどが発達してきている現在においては、ネットに接続できるコンピュータさえあれば、世界の何処からでもドキュメントレビューはできる。仕事の少なくなった日本の法律事務所が日本語のドキュメントレビューを引き受けて新人にやらせればいいのではと思っていたのだが、こんなものを見つけた。

日本企業に関連するドキュメントレビュー業務を日本でやる仕事と応募しているネットである。

http://ediscovery.atlegal.jp/ アットリーガルという会社のようである。

1時間1500円というアメリカの自給5000円から7500円から比較すると格段に安い自給での募集というのが気になる。たぶん、彼らがターゲットとしているのは、いわゆる三振博士といわれている法科大学院卒業から5年以内で3回以内に司法試験に合格できなかった人たちや、弁護士資格を取得したにも関わらず、就職先が見つからずに、即独立した人たちなのだろう。このような人たちが増えることで、藁をもつかむような気持ちでこのような経験に全くならないような仕事に飛びつく人が増えるのだろう。


2013年4月6日土曜日

アメリカのロースクールをでれば日本人でもアメリカの弁護士になれるのか?


以前「日本の大企業就職には米国弁護士資格の方が有利?」と題する投稿で、日本の大企業に就職するなら日本の資格よりもアメリカのロースクールでLL.M.を取得してアメリカの弁護士資格を取得したほうが有利かも知れないという話しをした。この投稿へのアクセスが多いので誤解がないように一言述べておこう。

アメリカのロースクールを卒業しても、アメリカの弁護士としてアメリカで就職できるとは限らない。日本人にとってその可能性は極端に低い。

ブログの中にはアメリカのロースクールで1年のプログラムのLL.M.ではなく3年のプログラムであるJDをとればアメリカで就職できると記載しているものもある。確かに、LL.M.を卒業しただけではアメリカの法律事務所に就職するのはかなり困難である。しかし、だからといってJDをとればアメリカで弁護士として就職できるというのは全くの誤解である。アメリカで就職できる保障など何もない。3年のJDプログラムを出ると、逆に新卒として日本企業で就職する道を閉ざす可能性すらある。

アメリカでアメリカの法律事務所に就職したいのであれば、アメリカ人と同様に、有名なロースクールを優秀な成績で卒業しなければならない。日本が第2の経済大国であった時代には、日本人であるということはアドバンテージであった。しかし、現在では、失われた20年により経済的に衰退していく日本の言葉が話せるということは、少しプラスが付く程度である。アメリカの事務所の中には中国語を話せる人材に注目し始めたところもある。また、最近ではアメリカ人弁護士と不自由なくコミュニケーションがとれる人材が日本の大企業にはいるので、アメリカの法律事務所が日本企業をクライアントとするために日本語が話せる弁護士を雇う必要はないのである。日本人がアメリカの法律事務所に就職するためにアメリカ人と同じ土俵で戦わなければならない。自分を雇えばクライアントを確実に引っ張ってこれると法律事務所のパートナーを説得できれば話は別であるが(自分の親戚は大企業の取締役であるので自分を雇えば絶対に仕事が来る等)、そのようなコネのある人は極わずかである。

アメリカのロースクールで3年間と巨額の学費をかけてJDを取得したはいいが、中大手法律事務所に就職することができずに、小さな移民法専門事務所で日本人のためにビザを申請している弁護士や、派遣弁護士として、派遣会社に登録して、日本語のドキュメントレビューをやっている日本人は数多くいる。たとえ、運よくアメリカの大手法律事務所に就職できても、東京オフィスに移るか、事務所を辞めるかという選択を迫られ、最終的に東京オフィスに移って、アメリカのプラクティスの一線からは退き、日本のクライアント担当のような仕事をしている人もいる

日本の大学を卒業した直後にLL.M.を取得して日本の大企業に就職するなら年齢も若く、アドバンテージがあるが、JDを取得するには3年かかり、司法試験の発表を待つと、3年半以上かかる。つまり、日本の大企業に新卒として就職するのが難しくなる。つまり、アメリカでも日本でも就職できなくなる危険性がある。アメリカのロースクールでJDプログラムに入ることを考えている場合には、3年以上の期間をかけて高額の学費を払うのに見合うだけの見返りがあるのか、将来設計を十分にする必要があるだろう。