2012年11月6日火曜日

クライアント待遇の天国と地獄 - その2

クライアント待遇の天国と地獄 - その1

つづき

ビジネス最優先主義の弊害として聞くことがあるのが、他のクライアントにコンフリクトが生じそうになったときに経済的利益が少ないと思うクライアントのビリング・パートナーを追い出すという手法だ。

あるパートナーに前の事務所から今の事務所に移籍した理由を聞いたところ、「僕についているクライアントの事件とコンフリクトがあって大型でビジネスになる事件を受任したかった他のパートナーが、裏から手を回して事実上僕を追い出した」と答えた。つまり、コンフリクトのために両事件ともには受任できない二つのクライアントの事件を天秤にかけて、利益の少ないクライアントを持っているパートナーをクライアントごと事務所から追い出して、コンフリクトの問題を解消した後に、利益の多い事件を受任したというのである。

詳しい金額は想像に過ぎないが、先に来てくれたクライアントが年間1000万円の仕事しかくれないから、そのクライアントを追い出して、後から来た年間2億円の仕事をくれるクライアントの事件を引き受けたという感じなのである。

アメリカではクライアントは事務所ではなく、パートナーについているのが一般なので、クライアントを追い出すには、そのクライアントがくっついているパートナーを追い出すのが一番なのである。

最初にこの話を聞いたときはさすがに驚いたが、似たような話は他でも耳にするので驚かなくなった。

例えば、あるアメリカ人弁護士の話である。とある大型事務所に移籍した後、前の事務所でのクライアントたちを回り、新しい事務所に事件を移して欲しいと依頼して了解を得た。クライアントの事件を移す事務処理も全部終わってひと段落した後、他のパートナーから突然「事務所を辞めて欲しい」と言われた。「移籍して間がないし、クライアント全員に挨拶回りして、事務所を移すことに同意してもらってその手続きも全部済んだばかりなのに、何故なのか」と訪ねると、「理由はいえない。もし自発的に辞めないなら、こちらから解雇という形を取らなければならない。」といわれ、仕方なく自ら辞めることにしたそうだ。後で判明したそうだが、その大型事務所は他の大型事務所から優良なクライアントを持っている有名な弁護士を引き抜こうとしていたのだが、引き抜きの約束として、その優良なクライアントとコンフリクトのある事件を持っているパートナーを追い出すことというのがあったらしいというのだ。東京にもオフィスがある某大型事務所での出来事である。

クライアントをビジネスという天秤にかけて、判断したわけだ。リーガルサービスをすることでビジネスをやっているのだから、ビジネスを最優先にする判断をしても当然と思っているのかもしれないが、クライアントからすれば、とんでもない話である。

日本の事務所でこのような話は聞いたことがないし、今後も行われないことを望むだけだ。
ただ、私が知らないだけかもしれないが。。。