日本人は「アメリカは実力主義だ」というが、「コネがあるのも実力のうち」と考えれば、それは正しいが、コネは実力に含まれないと考えているのであれば、それは間違っている。
コネというと聞こえが悪いが、コネクション、ネットワークと言えば分かりやすいかもしれない。例えば、日本の新人弁護士が即独立してもネットワークがないので仕事が来ないという場合、当たり前のことを言っているに過ぎない。
ここで言っているコネとは、ビジネスに有利となるコネである。
例えば、アメリカ流に考えると、日本で批判される天下りはビジネス上合理的な慣行である。天下りを受け入れることで、元官僚が官僚時代に築いた人脈が会社のビジネスに役立ったり、将来の天下りを期待する官僚から不利な扱いを受ける可能性が低くなるかもしれないからだ。
アメリカの法律事務所に就職する場合に、トップレベルのロースクールを優秀な成績で卒業したという本来の能力的な部分を強調して就職活動に挑む人は多いが、事務所に多大なビジネスを引っ張ってこれるコネがあるという実力に頼って就職活動に挑む人もいる。例えば、「自分は大手企業の法務部長と強力なコネがあり、その企業は自分が就職した法律事務所に仕事を依頼する」とその法務部長が書いた推薦状を持参して就職活動をした場合、かなりの法律事務所が採用を考慮するであろう。
また、法務部の重要なポジションにいた人物が法律事務所に就職活動してきた場合、それがビジネスにつながるとして、その人物の実力自体はあまり考慮せずに採用する可能性はある。
要するに、合法的にビジネスを引っ張ってこれる能力があれば、それは実力のうちとみなされて、就職ができるのである。
逆にビジネスに有利とならないコネは、コネ以外の実際の能力が伴わない限りあまり役に立たない。例えば、パートナーが三流のロースクールを普通の成績で卒業した息子を自分の所属する事務所に就職させてくれと言っても、他のパートナーの反対によって実現するのは難しいだろう。もし、オーナー弁護士がオーナーとしての特権をかざして周りの反対を押し切って馬鹿息子を多額の給料を払って採用したとしよう。クライアントを多く持っているビジネス上手な弁護士が他の事務所に移籍してしまうだろう。
ロースクールの1年のコースであるLL.M.のみを取得してもアメリカの事務所で就職できないが、3年のJDコースを出ると就職できると考えている人がいるようだが、日本人にとってそれはあまり当てはまらない。
十分なコネクションとネットワークがあるLL.M.修了者とネットワークがないJD修了者がいれば、十分なコネがあるほうが絶対的に有利である。
ネットワークのないJD取得者が、アメリカ大手事務所に就職できたとしても、将来的にネットワークを広げてクライアントが自分についてくるという状態を作り上げられなければ、最終的には事務所を辞めるか、企業内弁護士のポジションを探すことになるだけである。
日本で生まれ育ってアメリカの大手事務所のパートナー弁護士になっている人は何人か知っているが、日本で大学を卒業して就職してコネを築いた後に渡米し、LL.M.のみ取得して弁護士になっている人が意外と多い。
最終的にはコネがないとビジネスにつながらないので、パートナーとして続けていけないのであろう。
コネがあるのも実力のうちである。