2013年1月2日水曜日

「弁護士の数が増えれば訴訟が増える?」の誤解―その4 


 つづき

アメリカに訴訟が多い理由の一つとして高額な医療費と無保険者が多いことも上げられるのではないかと思う。知人が軽い交通事故にあって肋骨にひびが入る怪我を負って3日間病院に入院した。検査、注射、薬の投与だけで治療行為はほとんどなかったそうだが、合計3万ドル、1ドル85円と円高で計算しても250万円以上かかったというのだから驚きである。もし、あなたが健康保険に加入してなくて年収4万ドルだったら、3万ドルの医療費を支払えるはずもない。保険に加入していても、安い保険の場合にはカバーされる範囲が狭いので、例えば、3万ドルの医療費のうち2万ドルしか保険から支払われないことも十分考えられる。そのときには、誰かに責任を擦り付けて医療費を払ってもらいたいと思うであろう。

マクドナルドのドライブスルーで購入したコーヒーを車内でこぼして腿に火傷を負ったおばあさんが、マクドナルド相手に訴訟を起こしたという話を聞いたことがあるかもしれない。アメリカが訴訟社会だと説明する例としてもよく取り上げられる事件である。しかし、これは強欲なおばあさんがマクドナルドを訴えたというケースではない。最初、腿に3度という重い火傷を負ったおばあさんの家族がマクドナルドに医療費だけ支払ってほしいと頼んだところから始まる。マクドナルドの態度があまりにも悪かったことから弁護士に相談することになり、訴訟になったようだ。

一般市民の訴訟増加には、①証人として尋問される負担など訴訟に伴う数々の負担があってもどうしても訴訟を提起したいと考える依頼者がいて、②その依頼者が初期投資しなくても訴訟遂行できる制度が整い、③弱者である一般市民に証拠収集手段があり、④訴訟を代理する弁護士も最初に手弁当で仕事をしても高額な賠償認定がされる可能性があって後で充分な報酬が期待できる等の要素が全て充たされる必要がある。もし、これらすべての条件のうち、一つでも欠けてしまったら、訴訟を起こすのは難しくなる。例えば、もし、依頼者が証人尋問を受けるなどの負担を負ってまで訴訟を起こす必要はないと考えた場合、もし弁護士が、証拠収集が難しいので勝訴の見込みは低いと思った場合、勝訴の見込みはあるけれども損害賠償は低いので成功報酬を取れないと思った場合、最初に高額な着手金と裁判費用を支払う人の代理しかできないと断るであろう。
日本では、①から④すべてが充たされていない。

因みに、上記マクドナルドの事件で陪審員はマクドナルドに対して、懲罰賠償を理由として、損害額よりはるかに高額な300万ドル、日本円で25千万円を超える支払いを命じた。

アメリカと全く制度が異なる日本で、「弁護士の数が増えると訴訟が増える」と、そんな端的に結論付けられるものではないだろう。