2013年10月9日水曜日

新人弁護士育成は自己の利益にならない?


アメリカの弁護士になって最初に日本の事務所との大きな違いとして感じたことは、個々の弁護士は新人を育成するという考え方がなく、仕事を覚えたかったら、自分からかじりついていくしか方法がないということだ。

大手の事務所は事務所として新人育成のプログラムを用意しているが、個々のパートナー弁護士からすれば、新人を使うかどうかは、自分にとって使い勝手が良いかという観点で決めている。新人を育成するために手取り足取り教えようという気持ちはない。能力があっても自分の思うように動かない弁護士や、自分とクライアントとの関係を脅かすほどクライアントに積極的にコンタクトしようとする弁護士は、使い勝手が悪いのである。

パートナーにとって使い勝手の悪い新人弁護士は仕事を与えられなくなり、事務所が課すビラブルアワーの目標が達成できなくなり、やめざるを得なくなる。


一般論として、自由競争が活発で転職が簡単な社会では、経験者が新人を育成しようという動機が薄れる。
逆に極端な自由競争がなく、転職が容易でない終身雇用に近い社会では、経験者が新人を将来組織のために有力な人材となるように育てようとする。

アメリカの法律事務所は事務所同士の競争、事務所内の弁護士同士の競争も激しいので、個々の弁護士に新人を教育している余裕はない。また、弁護士の転職は日常的なので、仕事が忙しければ、経験弁護士を募集すればよいし、新人弁護士を育成しても、貴重な実務経験を積んだ新人はもっと条件の良い事務所に転職していくだけである。教育したパートナー弁護士の利益にはならない。

このように、個々の弁護士が新人育成をしない結果、法律事務所に勤めていても、十分な実務経験を積んでいない弁護士が発生する。

例えば、訴訟のディスカバリーの際にドキュメントレビューをする弁護士が必要になるが、それは、アワリーレートの安い新人に任されることが多い。これは、あまり頭を使わずに、時間を多く使うので、弁護士の時間のノルマを達成するには、楽である。しかし、楽な仕事でノルマの時間を達成しやすいからといって事務所内で積極的にドキュメントレビューばかりをしていると後で大変なことになる。ドキュメントレビューはアワリーレートの低い弁護士にしかやらせることができないが、アワリーレートは事務所側が毎年勝手に値上げしていく。つまり、5年6年経つと、弁護士としての能力に関わらず、1時間450ドルとか500ドルなどという、かなり高額なアワリーレートになる。その高額なレートではドキュメントレビューの仕事には向かなくなるが、積極的に実務経験を積もうとしてこなかった弁護士は他の仕事の経験がない。ドキュメントレビューをやらせるわけにはいかないが、それ以外の仕事は経験不足でやらせられない。つまり、仕事がまわされなくなる。


今まで人数が少なく一人一人大切に育てられてきた日本の新人弁護士。これからアメリカ型になることは避けられないであろう。どうやったら仕事を覚えられるか工夫し、能力豊富でクライアントを多く持つ弁護士との人間関係を上手に保ち、自分からかじりついて仕事を覚えるしかない時代が来ている。