2013年8月2日金曜日

弁護士報酬の二極化


アメリカでは弁護士の二極化が顕著であるが、弁護士報酬の二極化も顕著である。1時間で1000ドル(約10万円)チャージする弁護士がいるかと思えば、勝訴しなければ1セントも報酬を支払う必要はありませんと言ってテレビで宣伝する弁護士もいる。
弁護士報酬が二極化する理由は色々あると思うが、個人的には、弁護士というだけでは質が保証されないことと、実務経験を得るのが非常に難しい環境にあることが挙げられるのではないかと思う。
大企業はリスクを避けるために大規模で名前の知れている事務所以外は使わないところが非常に多い。望む結果が得られなかった場合に、事件の筋が悪かったのか弁護士の質が悪かったのか客観的に判断することは難しく、責任者としては下手に無名の小さな事務所を使ったことで弁護士選任責任を負いたくないのかもしれない。
大手事務所には全てのものが集まってくる。豊富な資金力と事務所のブランド力により優秀な人材が集まりやすい。高い初任給を求めて、有名ロースクールで優秀な成績を修めている学生が殺到する。高額な学生ローン返還のためにも初任給の額は事務所を決める上での優先事項となる。裁判官や政府の監督官庁の中でも定評がある有名な弁護士を資金力で引き抜くことができる。ロースクールを卒業してから政府の重要ポストに就いた弁護士が(アメリカには相当数いる)、大手事務所に天下りしてくる。それらを求めて、大手クライアントが集まる。大手クライアントを抱えれば、大手クライアント特有の事件について豊富な実務経験もった弁護士が育つ。そうすれば、弁護士報酬を高いままでもクライアントが離れないので、報酬額が高くなる。
大手事務所についてのみ説明したが、この逆の現象も起こるわけである。
日本でも現在の司法改革の問題点がこのまま放置されれば、旧司法試験合格者が極少数派になる頃には、弁護士報酬の二極化は避けられないだろう。現在存在する中間層の弁護士は海事や知財などの特殊専門分野を除いて一掃される可能性があるだろう。

大手企業は、弁護士報酬が高くても、法曹界に少なくなっている優秀な人材を引き抜いていける資金力のある大手事務所、特に英米系大手事務所に依頼せざるを得なくなるだろう。法科大学院の奨学金と修習の貸与金の返還義務を負う新人弁護士は初任給の額が事務所選びの優先事項になることは間違いないだろう。大手事務所は元裁判官や元官僚を営業のために引き抜くだろう。それらを求めて大手クライアントが集まる。すると、やりがいのある事件が集中する大手事務所に魅力を感じて優秀な人材がさらに集まってくる。そして、事務所のブランド力で弁護士報酬額が決まることになる。
 
その反対の極には、薄利多売でやっていける業務を中心的に扱う弁護士が発生するだろう。損害賠償額が低くて訴額に応じて裁判所に支払う費用が高額になる日本では「勝訴しなければ1円も報酬を支払う必要はありません」という商法では食べていけない。単価が下がれば、薄利多売でやっていける業務とならざるを得ないであろう。ここでは能力よりかは営業力で生き残りが決まるのであろう。