2012年10月5日金曜日

パートナーのクライアント獲得合戦


ビリング・パートナーという言葉を聞いたことがあるかもしれない。依頼者が事件の依頼してきたとき、事務所内のパートナーの誰がビリング・アトーニーなのかという問題が発生する。ビリング・パートナーがその事件のBilling(ビリング)、つまり弁護士報酬請求に関して責任を負うパートナーである。

このように説明すると、「なんだ単なる事件ごとの責任者か」と思うかもしれないが、そんな単純なものではない。ビリング・アトーニーになると得られる利益も大きい。アソシエイトだと、報酬やボーナスの決定の際に自分が働いた時間しか考慮されない。これに対し、ビリング・アトーニーは、誰が働いたかに関わらず、自分がビリング・アトーニーになっている事件に関してクライアントが支払った弁護士費用の一定のパーセンテージが報酬としてもらえる。つまり、クライアントが事務所に1000万円支払ったとしよう。事務所との契約によって異なるが、例えば12パーセントもらえるとの約束があったとしよう。もし、クライアントが支払った1000万円について自分が全く働いていなかったとしても自動的に120万円の報酬がもらえるわけである。

しかし、人に仕事をやらせてばかりいると、実際に仕事をしている弁護士がクライアントと親しくなって、信頼関係が築かれ、実際に仕事をしている弁護士が他の事務所に移籍したとき、クライアントを持っていってしまう可能性もある。クライアントを持っていった弁護士は、新しい事務所で自分がビリング・アトーニーになれるだろう。

そんなことが起こってしまっては、報酬が減ってさらにはリストラされかねないので、ビリング・アトーニーはうかうかしていられない。クライアントをつなぎとめるためには、クライアントへのパフォーマンスが上手でなければならない。人にある程度事件を任せていようとも自分が事件の中心で、自分がいなければ正しい意思決定ができないというパフォーマンスが上手でなければならない。クライアントとの重要なコミュニケーションの中心はいつも自分でなければならない。

クライアントを持ち去るために事務所移籍までしないとしても、事務所内ではビリング・パートナーになるための戦いが、事務所内の政治的勢力争いとともに渦巻いている。政治的勢力争いの程度は事務所ごとに様々である。

事務所内の政治的な勢力争いに関する情報収集をせずにクライアント獲得争いに巻き込まれてしまうと、地雷を踏むことすらある。

アソシエイトはビリング・アトーニーになれないのでパートナーを探してビリング・アトーニーになってほしいと依頼しなければならないが、その際にクライアント獲得争いに巻き込まれて地雷を踏み、さらには事務所を辞めざるを得なくなったという弁護士の話を聞いたことがある。

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