2013年8月19日月曜日

司法改革の最終的被害者は大企業になるのでは? - その4


司法改革の最終的被害者は大企業になるのでは? - その3


つづき。。。

現在は、旧司法試験最後の質にばらつきがない世代が40歳前後の弁護士として活躍しているが、この世代が50代になる頃まで司法改革の失敗がこのまま放置されれば、日本の法曹界の異変がはっきりと見えるようになるだろう。

質のばらつきが広がることで、弁護士というだけでは社会的信用を得られない。ブランド力のある事務所の弁護士であることが、社会的に信用を得るために必須となる。さらに、大手事務所に勤務する弁護士が勝ち組で、個人を相手とする弁護士やマチ弁は負け組みと揶揄する風潮が発生しかねない。今までは、小さなマチ弁事務所で採算の取れないような人権活動をやりたいと思う優秀な弁護士がいた。それは、弁護士は社会的に信頼され、尊敬される職業だという誇りがあったからであろう。マチ弁は負け組みと揶揄されるようになれば、優秀な弁護士は大手事務所や大企業以外で働くことを考えなくなるだろう。

「司法改革の最終的被害者は大企業になるのでは? - その3」で記載したとおり、資金力と仕事内容の面で圧倒的に優位に立つ外資系事務所が市場に数少なくなった優秀な弁護士を吸い上げるだろう。吸い上げられるのは新人ばかりではない。日本の大手事務所から経験弁護士をクライアントごと引き抜こうとする外資系事務所が発生するだろう。

こうなると、大企業は大手事務所、特に外資系事務所に依頼する傾向が強まる。この傾向が何を意味するかと言えば、余っている弁護士は大勢いても、企業法務をやる上で必要な実務経験をつめない弁護士が数多く発生するということだ。企業が弁護士の質と経験不足に不安を感じることで、高くても大手の有名な弁護士、特に外資系に吸い上げられてしまった優秀な弁護士に依頼せざるを得なくなるだろう。

このブログでも何度も取り上げているとおり、外資系事務所、特に米国事務所はビジネスに長けている。事務所内部にマーケティング部があるのが通常なのだ。どのような経路をたどるか分からないが、最終的に彼らに多額のリーガルフィーを支払うことは避けられないであろう。それは、米国政府の圧力による制度の変更を伴うかもしれない。日本の事務所のように下手なディスカウント合戦で自滅したりしないことは確かである。

大企業もリーガルフィーを下げるために今より多くの社内弁護士を雇うという方針を決定するかもしれない。しかし、新人弁護士を雇ってもあまり役に立たない。社員を留学させて米国弁護士資格を取らせてみても、それだけでは役に立たない。外資系事務所等で最低3年から5年の実務経験を積んだ弁護士を社内弁護士として採用しない限り、社外弁護士の仕事を評価したり、社外弁護士に適切な指示をすることでリーガルフィーを減らすことはできないからである。もし、外資系事務所で3年から5年の実務経験を積んだ弁護士を社内弁護士として採用しようと思ったら、それなりの給料を支払わないわけにはいかないだろう。人間らしい生活がしたいので、少しくらい給料が下がっても社内弁護士に転身したいという人はいても、給料が2分の13分の1になってもいいという人はまずいないだろう。

競争の時代なのだから、安くする事務所は幾らでもあるだろうという反論があるかもしれない。しかし、質のばらつきが広がれば広がるほど、安かろう悪かろうという推定が働く。安売りをしている事務所には軽々しく依頼できなくなる。
 
大企業は、ある程度思い切った給料を支払って、経験のある社内弁護士を雇い、さらには、ビジネスに長けた英米系事務所にかなりの額のリーガルフィーを支払わざるを得ないような時代がやってくるだろう。

弁護士が増えたのだからリーガルフィーが高くなるなんてことはありえない思うかもしれないが、掃いて捨てるほど弁護士がいるアメリカで時給が10万円を超える弁護士に依頼する大企業が多くいるのである。現にアメリカで法的問題が発生したときに、安さを売りにしている小さな事務所に依頼している日本の大企業があるだろうか。

弁護士を安く雇いたいという動機が垣間見る司法改革であったが、最終的には、大企業が支払うべき全体としてのリーガルフィーが格段にあがってしまうという皮肉な結果に終わるのではないかと予想する。