アメリカ法曹事情からずれる内容であるが、もう一言だけ予備試験について述べておきたいことがある。
弁護士としての経験に基づく個人的な感想であるが、予備試験に早期合格するような人の方が弁護士という職業には向いているのではないかと感じる。
離婚、過払い返還、個人破産などのルーティン的な事件を薄利多売で引き受けるという弁護士になろうというのであれば話は別であるが、例えば、海外進出なども念頭において新しい業務進出を考えている企業の企業法務をも手がける弁護士になりたいと思っている場合は、絶えず直面する新しい未知の問題等を自分の力で解決する精神と能力が要求される。短時間で問題点を把握し、必要な情報収集をし、その問題解決のための最適の手段を考え出し、解決に向って全力を尽くせる精神と能力である。他人に頼ろうとか、人に教えてもらおうとか、一度やったことがある仕事しかこなせないと考える傾向の強い人間には向かない仕事である。
法科大学院の本来の目的は法曹になるために大学院の教授が懇切丁寧に学生を指導して司法試験合格への道を切り開く教育機関のはずである。極端にいえば、大学院の教授や同級生と共同で一緒に頑張って合格しようという精神の持ち主の方が、予備試験を受験しないで法科大学院に進学しようと思うのではないだろうか。
予備試験という安価で就職にも有利な強力な手段があるのにも関わらず、法科大学院という団体に所属することに安心感を求めるというのでは、弁護士になってもその先に苦難が待っていると思う。他人に頼ろうとか人に教えてもらおうと考えるのではなく、目の前にある問題を短時間で自分で解決する意欲と能力がなければ、晴れて弁護士になったとしても、同じような業務処理を薄利多売でこなす弁護士にしかなれない。
以前、「新人弁護士の育成は自己の利益にならない?」で記載したが、先輩弁護士から手取り足取り仕事を教えてもらえる時代は終わりつつある。自分でかじりついて研鑽しなければ、経験もつめないし、進歩もできない。
予備試験という安価で就職にも有利な強力な手段を使って、短期間に司法試験に合格し、自らの道は自ら切り開くような心意気と能力がなければ弁護士になってから生き残っていけないのではないかと思うのである。